たぶん病弱だった従妹
本日は従妹視点です。
(なんでこんなことに)
わたくしはメイドから追い出される話を伝えられて、しばらく我を忘れました。
「伯爵家は裕福ではなかったの?」
「それがですね、元婚約者の家と付き合いを解消されたからだそうです」
お兄様の婚約者だったあの女の家はいくつも商会を経営していた成り上がりでした。
お仕事の関係で知り合ったのは聞いていましたけれど。
お兄様を奪われるのがくやしくて、ちょこっと嫌がらせをしただけですのに。本当にひどい女。
(そもそもお兄様が初めからわたくしを選んで下さればよろしいのよ)
ですから昨日はわざわざヒントを差し上げたの。
分からないフリをするなんて意地悪なお兄様。
わたくしは伯父さまにお願いすることにしました。
「伯父様、わたくしここを離れたくありませんわ。お兄様とずっと一緒にいたいの」
涙を浮かべたわたくしがここまで言えば、きっと伯父様も分かって下さるはず。昔はとってもかわいがってくれたのですし。
「残念だが、我が家はもう君の援助ができない。領地に戻って縁談でも探しなさい」
それなのに伯父様は机に広げた書類から目も上げずに、言葉を投げつけるだけなんて。
無情だわ‥。
「お兄様だって婚約を解消されたばかりでおさびしいでしょう、わたくしお慰めしなくては」
「ドレスは着られる物なら持って行って構わぬが宝飾品は置いて行くように。それから、息子の方は君に気持ちがない。あきらめなさい」
なんてひどいのかしら。わたくしと目も合わせないのね。
「なんで分かってくれませんの!」
わたくしが当たり散らしているのに、メイドは無言で荷造りを進めます。
「ねえ、このネックレスはしまわないの?」
お兄様からのプレゼントなのに。
「これらは伯爵家が購入したものですから」
ひどいわ。わたくしがもらった物まで取り上げるなんて。
(こうなったら最後の手段よ)
夜遅く、わたくしはお兄様の部屋の扉をたたきます。
(既成事実を作ればよいのよ)
小説ではよくある展開ですわ。
「お兄様、わたくしですわ。入れて下さる」
それなのに、扉は開きません。
ガチャンと鍵をかける音までします。
「もう遅いからね、明日にしよう」
お兄様の声だけがわたくしに届きました。
「何なのよ、もう」
訳が分からないまま戻ろうとしたら、隣の部屋からもう一人の従兄弟が顔を出しました。
「うわ、本当に夜這いに来たんだ」
こいつはいつもわたくしを馬鹿にするので嫌いです。
「父上が気をつけろって兄さんに忠告したから無駄だよ」
なんて意地悪な親子。わたくしとお兄様を引き離そうだなんて。
「あんた、兄貴に好かれていないって知らなかったの?」
さすがに言葉が過ぎますわ。
「そんなことありえません。お兄様はわたくしをいつもかわいがってくれたのですから」
「あんたがさあ、本当に兄貴を好きならいいんだけどさ。あんたは自分の思い通りになる金持ちが欲しいだけだろう」
「ああひどい人。本当に嫌いよ。わたくしがかわいそうではないのね」
この男はわざとらしくため息なんてついています。
「兄さん、人を見る目ないよね。あんたみたいな性悪に引っかかるんだから」
嘆きたいのはわたくしの方よ。
ああ、気分が悪いわ。
馬車に押しこまれて領地に帰されるなんて。
両親とは数年に一度はお会いしますがあまり思い入れはありません。
愚鈍なお父様や自分にしか興味のないお母様とずっと一緒に暮らすのは苦痛ですのに。
馬車が城門をくぐると、窓の外には畑が広がります。
幼い頃に過ごした領地と一緒。
本当に何もないつまらない景色だこと。わたくしには不釣り合いだわ。
ああ、何てわたくしはかわいそうなのかしら!
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