片目の天使
目を開けると、雲の上にいた。
起床のつもりだった。
辺りを見渡すと殺風景で、何もない。ただただ雲だった。
ただ「普通」ではなかった。
私は「普通」からの脱却心に駆られた。
気分が上がり浮かれた。
実際、宙に浮いてるのだが
私は突如走り出した。「普通」から脱却したのだ!
その心でいっぱいだった。起こっている事実の不可思議さよりも、自分自身の心の無邪気さを優先した。
ある程度喜び疲れると、
遠くに「何か」が見えた。
私は心のままに、はたまた無謀に、さらなる「普通」の脱却を目指すのだ!と言う心意気で
「何か」の方へ向かった。
近づいていくと、人の形を見た。
さらに近づくと、さらに人の形を見た。
しかし、そこには「異端」が居た。
純白であり、華奢であり、そして流れる川のように、光が反射した輪っかがある「異端」だった。
人間ではなく、これまでの人間の「異端」とは明らかに違う。しかし、明らかな「異端」なのだ。
私はこの生物を見たことがある。否、読んだことがある。聖書に出てくる、人間界でいうところの「天使」だ
しかし、妙な違和感があった。
違和感に気づくのはそこからコンマ0秒での脳内出来事であった。
「片目がない。」
微量ながらも、思わず声に出してしまうくらいの衝撃であった。
しかも潰れているのではなく、元々そこに存在していなかったかのように、ある意味堂々としているかのように。
また、ある意味虚無的で悲しく、無いその目は、目と言っていいのか、はたまた元々目として存在していたのか、わからないような、端的にいうと片方の真っ白な平面であった。
「異端」だ。
私は心踊るままの醜い好奇心から、思わず
「君の片目はどこにいったの?」
と尋ねてしまった。
天使は
「片目?」
と言い、その表情は、悟られたく無い、はたまた悟られたい。察してもらいたい。という表情ではなく。
ただただ堂々と、元々存在しなかったのを暗示するかのように、無知な表情であった。
天使は雲の上の殺風景で一人きりに見えた。
事実周りに他の「異端」は存在せず、私の中で、天使自身が一人きりだと言う決めつけが強くなった。
そしてそれは一つの疑念でもあった。
私は再び心ゆくままに
「君は生まれた時から一つで、一人なの?」
と尋ねた。
「一つで一人?何を言ってるの?」
と、またもや何も知らなかった。
私は、疑念が確信に変わったと同時に、涙した。
そう。何も知らないのだ、天使は。
一人以外も、片目も、はたまた世界も。
私はとても同情した。涙を流した。
こんなにも悲しいことがあるのかと思った。
世界を恨んだ。天使の無知さにもらい泣きした。
しかし、数分泣いて、あることに気がついた。
天使にとっては「普通」なのだ。
何も知らないことが「普通」なのだと。
私は自分の同情心に激怒した。
なんとも愚かな心情だろうと怒った。
なんとも俗な考えだったのだろうと感じた。
「普通」ではないのは、この場所だけであって、自分の心自体は「普通」から脱却できてないのだと、この時悟った。
羞恥心から赤面して、今にもまた泣き出しそうになった。
四度目の嫌気が、私を襲った。
落ち着いて、殺風景な景色を見渡した。
天使は景に佇んでいた。
また、次は寂しさに思えた。
殺風景という言葉の風が、天使をこのまま殺してしまいそうな気さえした。
天使の片目を見た。
やはり無い。
私は、天使は世界の半分しか見えてないのではないかと感じた。