第3章:悲しみを止められない二つの白い花
「姉さん…何してるの…?」僕は廊下に立ったまま、ただ彼女を見つめて尋ねた。
「し、白…私は…き、君を探し、探しに行くところだった…今…」彼女は目をそらしながら、小さいけれど聞こえる声で言った。
「僕を探す?姉、姉さん…こんな時間に部屋の外で見るのは珍しいよ…」僕は近づきながら言った。姉を部屋の外で見られて少し安心したので、衝動的に彼女を抱きしめたくなった。
でも彼女は後ずさりした。
「き、君は母、母さんと喧、喧嘩した…でしょう?」彼女は自分の部屋のドアに手をかけ、必要なら逃げる準備をしながら尋ねた。「今、今朝…君たちは私、私のせいでまた喧嘩したんでしょう…?」
「姉さん、そんなことない…!僕たちが喧嘩したのは-」
「う、嘘つかないで!」彼女は叫んだ。「私、私のせいで喧、喧嘩したって分かってるわ!」
「あさ姉…!」
「ご、ごめんなさい…私が…」彼女は目に涙を浮かべながら言い始めた。「ご、ごめんなさい…こんな役、役立たずで…!」
僕はしばらく動けずにいた、彼女が泣いているのをただ見つめていた。何もできなかった。近づけば、彼女はまた部屋に閉じこもってしまう。次に会えるのはいつになるかわからない。
「き、君は私のことを…恥、恥ずかしく思ってるんでしょう…姉として…」彼女は素早く部屋に入り、ドアを閉めた。あまりに速くて、僕は反応できなかった。
鍵をかける音が聞こえた瞬間、僕はドアに駆け寄り、叩き始めた。「姉さん!」僕は叫んだ。「ドアを開けて、話をしよう、ね?」
返事はない。
もっと強く叩いた。「姉さん!」
返事はない。
「あさ姉!」
…返事はない。
僕はしばらくドアの前に立っていた。姉がこんな風に泣くのを見たのは初めてだった。そして、それは僕のせいだった。それは僕を打ちのめし、僕も泣き出してしまった。
小さく泣きながら、僕は自分の部屋に入った。この日を終わらせて次の日に行きたかった。でも、何時間経っても、泣き止んでも、眠れなかった。
「葵…」僕はベッドに横たわったまま、横を向いて呼んだ。「会いたいな…」枕に顔を埋めながら言った。
「葵…」呼んだ。「葵…」もう一度呼んだ。
「葵!」僕は急に起き上がり、めまいを無視しようとした。「今日学校に来なかった理由を聞くメッセージを送るの忘れてた!」
そう言って、携帯を取り出し、葵に電話をかけた。
「もしもし?シーちゃん?」向こう側から葵の声が聞こえた。
「あ…小花さん!声が聞けて良かった…」僕は安堵して言った。「大丈夫?今日学校に来なかったのはなぜ?」
「それは…」彼女は弱々しい声で答えた。「風邪をひいちゃったの、シーちゃん。たぶん昨日の雪のせいだと思う。連絡しなくてごめんね。」
罪悪感を感じた。自分の問題に気を取られすぎて、葵のことを考えもしなかった。それでも僕は彼女を愛していると言える?
「心配しないで」僕は急いで答えた。「今は良くなった?」
「ちょっとね」彼女は言って、そっとくしゃみをした。「でも医者が数日は家で休むように言ったの…ごめんね、シーちゃん」
僕の心は少し沈んだ。葵に会えない数日間は、特に今日のような地獄のような日の後では、永遠のように感じられた。
「そうか…授業のノート持っていこうか?」僕は彼女に会う口実を作ろうとして提案した。
「あ、気を遣わなくていいよ、シーちゃん!」彼女は声がかすれていても元気そうに答えた。「クラスメイトの木枝さんが全部持ってきてくれるって言ってくれたの」彼女はそう言って、少し咳をした。
木枝さん?赤士、生徒会の会計係?少し嫉妬を感じたが、無視しようとした。
「あ、それは良かった」僕は明るく聞こえるように努めて答えた。「それで…冬祭りのこと知ってる?」
「うん!木枝さんが焚き火とダンスのこと教えてくれたの。楽しそうだよね?」
僕の心臓が速く鼓動し始めた。彼女を誘うには完璧なチャンスだった。
「そうだね」僕は勇気を振り絞って始めた。「実は、小花さん、君と一緒に…」
その時、廊下から物音が聞こえた。階段を降りる足音だった。母はまだ仕事中のはず…じゃあ姉?また部屋から出てきたの?
「ごめん、小花さん、ちょっと待って?」僕は誘いを、そして告白を中断して頼んだ。
「いいよ、シーちゃん」彼女は少し困惑した様子で答えた。
電話をミュートにして、静かに部屋のドアを開けた。姉の浅緑が躊躇いがちな足取りで階段を降りていくのが見えた。彼女は何かを手に持っているようだった。
僕の心臓が高鳴った。姉が本当に再び部屋から出てきた、同じ日に二回も。葵との電話のことを一時的に忘れ、静かに姉の後を追った。
浅緑は台所に着き、持っていたものをテーブルの上に置いた。蓋をしたお皿が乗ったトレイだった。彼女は冷蔵庫を開け、水のボトルを取り出し、お皿の横に置いた。
「姉さん?」僕は驚かせないようにそっと呼びかけた。
彼女は素早く振り向き、驚きと恐れで目を見開いた。「し、白!」彼女は叫んだ。「私はただ…ただ…」
僕はゆっくりと近づき、何もしないことを示すために手を上げた。「大丈夫だよ、姉さん。何をしてるの?」
彼女は床を見つめ、僕を見ないようにした。「私は…き、君のために夕、夕食を作ったの」彼女はつぶやいた。「さ、さっきのことの…お、お詫びとして」
僕は目に涙が浮かぶのを感じた。ほとんど部屋から出ない姉が、僕のために料理をしてくれた。「あさ姉…」僕は言い始めたが、彼女に遮られた。
「な、何も言わないで」彼女は震える声で言った。「私が…君と母さんの重、重荷になってることは分かってる。せ、せめて一度くらい…役に立つことをしたかったの」
僕は我慢できなかった。前に進み、彼女をしっかりと抱きしめた。触れられて彼女が硬直したのを無視して。「姉さんは決して重荷じゃない」僕はささやいた。「姉さんは僕の姉で、僕は姉さんを愛してる。それは何も変わらない」
彼女が僕の腕の中でゆっくりとリラックスするのを感じた。そして、驚いたことに、彼女は泣き始めた。さっきの絶望的な嗚咽ではなく、柔らかな、ほとんど安堵したような泣き声だった。
僕たちはしばらくそうしていた。台所で抱き合い、何年もの痛みと孤独を静かな涙の中に溶かしていった。ようやく離れたとき、彼女の顔に小さな笑顔が見えた。何年ぶりかの笑顔だった。
「あ、ありがとう、白」彼女は柔らかく言った。「私…私、よくなろうと…努力する」
僕は喉の詰まりで話せず、ただうなずいた。彼女はゆっくりと階段を上がり始めたが、消える前に振り返った。「夕、夕食はカレーよ。気に入ってくれるといいな」
僕はしばらく台所に立ったまま、今起こったことを理解しようとした。そして、葵のことと電話のことを思い出した!
急いで部屋に戻り、電話を取った。「あ…こ、小花さん?ごめん、僕…」
「シーちゃん?」葵の声は心配そうに、まだ少しかすれて聞こえた。「大丈夫?10分近く音がしなかったよ!」
「あ、うん、ごめん」僕は考えをまとめようとしながら答えた。「姉のことがあって、でも今は大丈夫だよ」
「よかった」彼女は安心したように言った。「それで、さっき何か聞きたいことがあったんじゃない?」
僕は部屋のドアを見て、今しがた姉と経験したシーンのことを考えた。突然、葵をダンスに誘うことはそれほど重要ではなくなった気がした。
「あ、僕は…ただ明日何か持っていく必要があるか聞きたかっただけだよ。薬とか食べ物とか、なんでも」
「あ、優しいね、シーちゃん!」葵は声を弾ませた。「でも心配しなくていいよ。両親が全部面倒見てくれてるから!」彼女はそう言って、少し咳をした。
「わかった」僕は答えた。「じゃあ、ゆっくり休んでね?早く良くなることを祈ってるよ」
別れの言葉を交わした後、電話を切り、台所に向かった。浅緑が置いていったお皿の蓋を開けると、強い焦げたカレーの匂いが立ち上った。僕は笑顔になった。当然、彼女は料理を焦がすだろう。やっぱり僕の姉だ。
焦げていても、僕は食べた。そして笑顔が止まらなかった。
「味がないな…」僕は食べ終わってお皿を閉じながら言った。