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短編集・散文集

風の時

作者: Berthe

 風が吹いていた。レースカーテンがばさばさと鳴る。たちまち網戸にぴったりくっついて、ひっそりする。しかしそれはものの三秒ほど。ときには、十秒くらいつづくこともあった。二十秒ほどのときも。けれど、わたしはその時間を頭のなかで唱えたわけではない。指折り数えてもいない。だから適当なのだ。ふわふわと過ぎてゆくその時間を、切りのいい数字で示しただけのこと。でもさっきより長い気がして、二十秒ほどとしたり、さっきより短い気がして、三秒くらいと決めたりする。


「ねえ、十秒くらいだよね」


 ひとりで数えつづけるのにも飽きてきて、()(ひと)に尋ねてみる。すると彼は、机にむかってパソコンを見ていた顔を、静かにこちらにむけた。マウスに置かれた手はそのままに、何のことかとわたしを見返る。ぴったりと出会った二人の瞳。理人の顔が冷たくて優しい。ただ冷たいのでも、優しいばかりでもなく、二つがなめらかに入り混じった表情。それを、わたしは期待していた。違う、そうではない。理人がなかなか振り返らないから、待っている時間を埋めるように、頭のなかでこしらえたのだ。ほんの少しの時間を、とても長く感じる。


 理人はわたしの呼びかけに、振り向いてくれない。二人でいるというのに、どうしてわたしは一人、妄想をたくましくしているんだろう。はらりと風をはらんだレースカーテン越しに、曇った空がみえる。薄暗いながらも、灰色の膜のむこうが明るい気がするのは、まだおやつどきだからだろうか。口寂しい。絨毯の上にくずしていた脚を、すうっとのばす。ぴんとしてみると、くるぶしがくっついて、膝と膝がふれあう。脚のゆがみはなくて、正常なしるし。それは嬉しいこと。けれどその代わり、わたしは背骨がすこし曲がっている。周りから気づかれないくらいに、ほんの少し。そのせいでいつも、腰が痛い。でも、その代わりというのは、違うか。だけど、よく「みんなどこかしらが痛い」と聞くし、そう思うとちょっとだけ、やさしくなれる気がする。


 理人がふいに、両腕を頭の上にのばす。途端に長袖の腕があらわになって、手の甲にくっきりと、骨の筋が浮き立つ。それから腕を水平にのばしたり、背後へのばしたり。そして指を組んで、頭の後ろに持ってくると、それを枕にしてゆっくりもたれかかった。肘掛椅子の背がしなり、かすかな音をたてる。机の下の両足ものびていた。わたしと一緒だ。そう思った矢先、左足をあげて、右足の上にのせ、足首のあたりで交差する。わたしも真似をしてみる。左足をあげて、右足にのせて。満足したのもつかの間、すぐに気づいてしまう。逆の方が心地良いことに。それで仕方なく、足の交差を解き、右足をあげて、左足にのせる。すると、とても気持ちいい。へそ曲がりな腰が、これで良いとささやく。決して反対にしてはだめと、耳もとでささやいてくる。

読んでいただきありがとうございました。

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