表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

あの世で詐欺に遭うとは

作者: 宗あると

 目覚めると春美は和室の居間で横たわっていた。

 朧気な意識の中で記憶を辿ると、自分は確か子供部屋で娘の彩を寝かしつけていた筈だった。

 居間まで来た記憶はない。

 どういうことか。わけもわからないまま、とりあえず春美は子供部屋に向かうことにした。

 が、居間を出ようとした瞬間だった。

 引き戸と自分の間に突然、少女が現れた。

 「!!!誰!?」

 春美は思わず声をあげた。当然少女は、娘の彩ではない。西洋の顔立ちで、黒髪ショートヘアをウェーブさせている。大きな瞳で少女は薄く笑いながら、春美を見上げている。

 「この先には行けないよ。何もないから」

 少女はそう言うと、引き戸を開けてみせた。

 「え?どういう、、、」

 愕然と春美は言葉を失った。引き戸を開けた先に廊下はなく、真っ暗闇が広がっているだけだった。

 「なによ、これ。その前にあなたは誰なの?」

 冷静になろうと努めながら、春美は少女に聞いた。

 「あたしはララ。ここはね、死後の世界で、あなたは死んだの」

 「へ?死んだって、私はいまこうして、ここにいるじゃない」

 「いる世界が違うんだよ。ここは丁度この世とあの世の境目の世界で、あなたの生前の記憶が色濃く残る世界。でも、あなたが生きていた世界ではないの」

 「嘘よ、そんなの。死んだって、そんな私、健康そのものだった。健康診断だって、何の異常もなかったし」

 春美が狼狽えながら言うと、ララはまた薄く笑った。

 「確かに、あなたは死ぬ筈じゃなかった。でも、選ばれちゃったの」

 「選ばれた?何に?」

 「死神に」

 「はあ?」

 「あたしも詳しくはわからないけど、死神に選ばれた者は、寿命に関係なく命を奪われるの」

 「なによその理不尽」

 「理不尽じゃないよ。死神に選ばれて命は奪われるけど、死神になるかどうかは、あなたが決められるから」

 「私が?それなら、命を奪う前に決めさせてよ」

 「死なないとあたしとは会話できないからさ、死んでもらわないと答えが聞けないでしょ?」

 「何、その無茶苦茶な理屈」

 「あたしも詳しくは知らないから。あたしがしていることは、えらーい死神の指示に従って、生きてる人間の命を奪って、死神にスカウトすることだけ」

 「じゃあ何?あなたが、私を殺したってこと?」

 「そうだよ。でも憎まないでね。私はえらーい死神の指示に従っただけだから」

 罪悪感のカケラもない薄い笑みを浮かべて言うララに、春美は何故か怒りを感じなかった。この子に真実を問いただしても、答えは返ってこないだろうと直感でわかった。

 「さっき死神になるかは自分で決められるっていったわよね?断るとどうなるの?」

 「普通に天使とか守護霊とかが迎えに来て、あの世に連れてってくれる。この世とはバイバイだね」

 春美はホッと胸を撫でおろした。命を奪う死神になどなりたくもない。

 「じゃあ私は断るわ。人殺しなんてごめんだから」

 「いいの?この世とはバイバイで、生まれ変わったら、今世の記憶もなくして、全くの別人だよ?」

 「それは、、でもそれが宿命なんじゃないの?人が死んだ場合の」

 ララは春美の言葉に薄く笑った。

 「そこがね、死神は違うんだ。死神は生前の記憶を持ったまま、この世を徘徊できる。徘徊して、指示があったら、選ばれた人間の命を奪う。死神は他にもいるから、死神同士でなら会話もできるし、食べることも寝ることも必要ないから、生きてる時より全然楽。あたしは学校にもいかなくていい自由さに惹かれて死神を選んだ」

 「子供ね。幾ら自由でも人の命を奪う以外何も出来ないんじゃ、最悪な上に退屈じゃない」

 「そう思う?あなたはじゃあ簡単にこの世を捨てれるの?この世のあなたはこれっきりなんだよ?あなたがいたこの世界にいられるのは、死神を断ればそれが最後だよ?」

 そうララが言った瞬間、春美の目の前に自分の人生が走馬灯のように映し出された。幼少期から青春時代、夫と出会って娘の彩が生まれるまでの幸福しかなかった人生が。

 気がつくと春美の頬に涙がつたっていた。

 「やめて。死神になったところで、娘や主人にも、それに友達とだって触れ合えないんでしょ?そんなの辛いだけじゃない」

 「そうだけど、見守ることはできるよ?」

 「見守る?」

 「例えばね。あなたの娘さんの命を死神が奪おうとした時に、止めることができる」

 春美はララの言葉に、我を失った。

 「ちょっと待って!あなた達、私の娘にまで!?」

 「あたしは詳しくしらないけど、死神にスカウトされる人間の傾向ならわかる。死神になってでも守りたい愛する人のいる、心の清らかな人間。そういう人間は断らないから。死神になることを」

 「でも待って、守れるのは死神からだけで、不慮の事故や病気からは守れないんでしょ?もしそうなったら、ただ見てるしかないじゃない」

 「それは生きてても同じでしょ?でも生きてたら死神からは守れない」

 「そうかもしれないけど、、、。でも、愛する人を守りたい清らかな人間なんて、幾らでもいるじゃない」

 「表向きはそうは見えても実際のところはって人がほとんどかな。だいたい死神にはならずに転生を選ぶから。自分が一番大事ってこと。数打てば当たるって感じだもん、スカウトって。自分の愛する人が死神にスカウトされるかも運次第だしね」

 「そうまでして、あなた達死神はなにがしたいの?目的はなに?」

 「それはあたしにはわからない。知ってる死神にも会ったことはない」

 「そんなの、そんな適当なことなら、私だって、死神は選ばないわよ。この死が寿命だったんだって受け入れて、あの世にいくわ」

 「あーやっぱり?まぁ、あたしはそれでかまわないけどね。断られたところで罰も何もないし」

 「そうなの。で、私はどうすればいいの?これから」

 「そのうち守護霊みたいなのが迎えにくるよ。そしたらあの世にいけば?」

 「そう。わかった」

 「本当にいいの?娘と別れて」

 「別れたくないわよ。でも仕方ないじゃない。死神なんて怪しいし、あなたの言ってることが真実かもわからないし。だいたい人の命を奪ってまで見守るなんて、私にはできない」

 「あたしはできるけどな」

 「あなたは子供だからよ。命の重みだってわかってないでしょ?」

 「ああ、ひとつ言い忘れてた」

 「何?」

 「死神になるとね。引き換えに失うものがあるの」

 「やっぱり。何かあると思った」

 春美は溜息を吐いた。

 「感情」

 「感情?」

 「感情を失うの。だから、人の命を奪うことだって平気になるよ?」

 「ちょっと、感情をなくしたら、娘を愛してたことまで忘れちゃうじゃない」

 「あー、そうかもね」

 「だったら見守る意味だって」

 「わからなくなるね」

 「そんな大事なこと言い忘れるなんて、最低じゃない、あなた」

 「そうなの?よくわかんないな。まぁ死神にならないなら、あたしはもう行くよ。じゃあね」

 そう言うと、ララは開けた引き戸の奥の暗闇の中へと消えていった。

 春美は、その後、現れた守護霊にあの世へと導かれたが、あの世からでも娘は見守ることはできると聞き、安堵した。

 死神に関しては、すべて出鱈目と思いなさいと言われた。

 生きてる時にあう詐欺師みたいなものだと。

 死神が人の命を奪えることなど真っ赤な嘘だとも言われた。

 彼らはただ、未浄化霊の仲間を増やしたいだけだと。死後も魂をこの世に留まらせて。


 死んでも詐欺に遭うとはね。春美は呆れながら、呟いた。

 

 そういう輩は、あの世にだっているから、気をつけなさい。守護霊は春美に伝え、春美をあの世へと送っていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ