092 秘策は重曹で
2022年10月 8日(土)現実世界サイド〜
……………
寝室に充満しているトマトの匂いでめが覚めた……
「母ちゃん?」
二段ベットの下段を見るがすでに母ちゃんの姿は無く
「竜司君ーおはよー。…………よっと!……おかしい。こんなはずじゃ!……………今朝ごはん作ってるから待っててー」
台所から賑やかな声と音が聞こえてくるなぁ……
何をやらかしたんだろうと半ば諦めながらベットから降りる。それにしても換気扇くらい回して欲しい……布団に匂いが染み込みそうだよ?
「お待たせー。たくさん食べてねー」
テーブルにドンっと置かれたラーメン丼に山盛りのナポリタン2つ……
朝からこれはヘビーすぎるだろ。
「どうしたの?これ?」
「ちょっと作りすぎちゃって……」
ちょっと?
「ほら……パックご飯って1人前200グラムじゃない?」
……なるほど。それで2人前だから400グラム……4束のパスタを茹でたと。乾麺のパスタは茹でると2倍以上になるのを知らなかったんだね。しかも茹でた後に炒めるから……
「半分食べて残りは昼食に回そうよ……」
「そうしたい所だけど、今日は買い出しに行かないとー」
地方の山奥に住んでいてスーパーなんて近くには無い。1ヶ月に1〜2回車で買い出しに出かけるのだけど……
「俺も手伝う?」
荷物運び要員として
「竜司君はー中間テストの勉強してなさい。明後日からでしょ?」
……う………そうでした。連休明けに中間テストがあったわ
「それに今日は家庭教師頼んであるから」
こんな山奥まで来てくれる家庭教師なんて聞いてないぞ。
それにそんな金銭的余裕ないはずでは?
「大丈夫よ。樹君だから。」
………同級生に家庭教師依頼ですか。
「しかも実験だ……試食を手伝ってくれれば良いって」
今サラッと『実験台』とか言わなかった?ひょっとして試食を避ける為に買い出しの口実作ってないか?
「はは……キノセイダヨー」
こっちを見ながらもう一回言ってみて。
……
………
「それじゃ行って来まーす」
母ちゃんが車で出るのを見送ったあと、キッチンに戻って後片付けをする。
2つの山盛りナポリタンは二人で頑張って半分を食べ終えました……お腹いっぱい。残った一つはラップで包んで粗熱を取って……後で冷蔵庫へ入れておこう。
……そういや樹も決勝ラウンドへ進んだから、樹もパスタ作るよな……そうなると昼もパスタ?
「ひょっとして決勝までの3週間……毎日パスタなのかな……」
嫌な予感がするけど、とりあえずは中間テスト勉強だよ。
………
……………
ピンポンーピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
「連打やめーい!」
「来ちゃった」
いつものやりとりを経て樹が入って来る。
「あ。舞師匠も早速パスタ作っているのかー」
テーブルに置かれたナポリタンを見てふむふむと頷く樹。
「樹は何にするか決まったの?」
「大体はなー。勉強見る代わりに試食付き合ってもらうけど。」
………昼食もパスタか……
………
……………
「……とりあえずこんな所かな」
……すごい。同じ勉強なのに樹が教えてくれると理解度が段違いだ。これで中間テストも何とかなる?
「昼食作っておくから、その間数学な」
「………はい」
試験範囲の内、特に重要なポイントを教えてもらい……問題を解いていく……
「……ん?」
キッチンから漂って来るこの匂いは……醤油?
「出来たぞー伸びない内に食べてくれ」
……そこには見た目も匂いも……『醤油ラーメン』
「へ?パスタじゃないのか?」
「いや。麺はパスタだよ。パスタを茹でる時、重曹を入れると中華麺になる。」
具が全く無い……『素ラーメン』だけどパスタがラーメンに変わるとはびっくりだ。
ズズズ……ズズズ……
「どう?」
「………本当に中華麺だ。」
もっちりした食感は正しく中華麺。重曹にこんな使い方があるなんて……
「レシピサイトに載っていたんだ。日本食が手に入らない海外でラーメンを食べたい人が編み出したらしい。」
……食に対する執念って恐ろしいな。
「パスタやうどんと中華麺の違いって『かんすい』だからね。重曹は異世界では手に入らないけど、姉貴の竹炭を使って代用は可能だから」
「なるほどねー。でも異世界は醤油もないぞ?」
「その点も大丈夫。今回使ったのは『しょっつる』だから」
秋田の魚醤か。魚醤は丸山さんの件で異世界でも入手は可能だ。
「しかし……パスタ麺が中華麺に変わるとはねぇ……ゲップ」
「あらら……ダメか。量の調整が必要だな」
俺のゲップを見た樹が何やらメモを取り始める。
「樹……ラーメンに……ゲップ……何入れた?ゲップ」
………毒?じゃないよな。
「いやね……レシピサイトに注意書きがあって、『重曹を入れすぎるとゲップが止まらなくなる』ってね」
「!!!!ゲップ」
「今回を参考に重曹の量を調節しようかと」
…………実験台だった。
それから母ちゃんが帰って来るまで3回素ラーメンを味見させられて……太るぞ………ゲップ。
とりあえず樹のおかげで中間テストは何とかなりそうだけど、代償は……『ゲップ』で済むなら安いほうか。
*******
「へー。樹君は『ラーメン』かー」
夕食………朝の残りのナポリタンをレンジで温めて食べる母ちゃんと俺。結局3食パスタか……まぁ昼はラーメンだったからまだマシな方だけど。
「母ちゃんもラーメンにする?」
「流石にそのアイデアは盗まないよー」
……ってそれよりも……母ちゃんが買い出しした物が目に入って来て……顔が青ざめる。
「え?パスタ……どんだけ買って来たの?」
「え?10キロだけど?」
しれっと悪びれも無く言い放つ母ちゃん。
「だって決勝まで3週間でしょ?1日3食でしょ?二人で200グラムとして……12キロ!!」
ドヤ顔して『フンス』と胸を張る母ちゃん……
「え?毎日パスタ?お弁当もあるんだよ?」
「もちろん。お弁当もパスタだよー。何言ってるの?」
母ちゃんこそ何を言っているんだい?
………………マジか。3食パスタとか……それが3週間?
勘弁して欲しいけど、無理なんだろうな……




