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異世界は剣と料理と現代知識で  作者: わかね
第二章 文化祭と王国祭編
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091 予選突破はギリギリで(後編)

………あのフルフェイス……屋敷にあったやつだよな。

一階のロビーに飾ってあった記憶がある。よくサイズがあったよ………ってそうじゃない。

いくら上がり症だといってもフルフェイスのフルプレートを装着したまま調理なんて無理でしょ?とは言え口出しは出来ないので固唾を飲んで見守るしかない。


ギギギ………


そんな擬音がピッタリくる動作で調理を始める舞姉ちゃん。クレープ生地を焼き……裏返して……あぁ……微妙に焦げてるよ。タイミングだとか細かい行程があるクレープ作成は絶対向かないでしょ……

生クリームを絞って……あれは桃のコンポートかな?を乗せて……クレープ生地を半分に折りたたみ……クルクルと巻いて………やろうとしている行程は分かるのだけど、力加減が効かないから破けたり『グチャ』っとなったり……うん。酷い。


一つ目が出来上がった所で、そのまま作業するのを諦めたのか案内係の人に手伝ってもらって籠手や胸部の鎧を外していく舞姉ちゃん……始めからそうすればいいのに……それでもフルフェイスの鎧は外さないんだね……


「……ぐすっ。ううっ。……ぐすん。」


漏れ聞こえてくるのは舞姉ちゃんの嗚咽か……鎧を脱ぐのを手伝った係員もフルフェイスには手をかけない。

両手の枷がなくなった舞姉ちゃんは、ゆっくりと丁寧に残り4つのクレープを作り上げていく。キッチンに立つのをあれだけ拒んでいた頃が嘘のようだ……。


現実世界でも気がつけばキッチンに立っていて、今日のこの日の為に練習を繰り返していたから。


1つ目よりも2つ目、2つ目よりも3つ目……と作る度に綺麗に出来上がっていくクレープは小さな花束の様になっている。最後の5個目なんかは店売りの商品かと思う出来栄えだ。


「でき……まし……た」


消えいる声に力は感じられないが、しっかりと自分の手で俺たち審査員の前へ出来たクレープを置いていく……一番最初に作ったグチャグチャな失敗作は俺の前で、最後の一番綺麗なクレープは桔梗さんの元へ。


そして桔梗さんのクレープに添えられたのは一輪の花


「シオンか………」


桔梗さんはそれだけ言うとナイフとフォークを手に食べ始める。俺を含めた残りの審査員も倣って食べ始めた。


「美味いのじゃ!!」


リリス王妃は基本『美味』か『不味い』の2通りだ。付ける点数も0か20(満点)の両極端。


料理は味だけじゃなくて見た目とか食感とか色々評価ポイントあると思うのですが………


俺に割り振られた………グチャグチャなクレープ……だが、味はかなり良い。生クリームは甘すぎず割と好み。桃のコンポートもよく浸かっていて柔らかく香りが口の中で広がる……そして作っている時見えなかったけど、中に入っていたブルーベリージャムが程よい酸味を付け加えていて……見た目を除けばかなりの高得点を付けるだろう。


「………ありがとう。ご馳走様」


桔梗さんがナイフとフォークを置いて舞姉ちゃんを見上げる……頬を伝う涙はそのままで。


「………ご指導……ありがとうございました!」


フルフェイス被ったまま深々とお辞儀した舞姉ちゃんだったが、次の瞬間


「うう………うわーん」


批評の前に審査会場を出て行ってしまった。脱兎の如く。


「…………」

「…………」


残された審査員達は批評出来ずに呆然としていたが、


「出品はされた訳だし、各々審査に入ろう」


桔梗さんの一言で皆我に帰り採点を付け始める


「あーあ。後片付けを含めて『料理』だって言ってるのに……」


クレープを作ったままの調理台を見て、舞姉ちゃんに代わって後片付けをしようとしたが


「竜司君は舞の所へ行ってあげなさい。採点は終わっているかな?後の作業は我々がやっておくよ。」


穏やかな……それでいて有無を言わさない桔梗さんの一言もあり、素早く舞姉ちゃんの採点を付けると一言告げて会場を後にした。




*******



「お帰りなさいませ。審査員お疲れ様でした。」


帰宅した俺を出迎えてくれたイディさん。首元の奴隷印はかなり薄くなっていて、このまま過ごせば年末迄には消えるだろう。その後の身の振り方はイディさん親子の判断になるけど、出来ればこのまま家のお手伝いをして欲しいとは思う。


今は頑なに拒否している給金も相場よりは上だから多少なりとも期待している。


「出迎えありがとう。悪いけど、今日も夕食は辞退するよ」


この1週間……少量ずつとはいえ、スイーツばかりの食生活は色々やばい。異世界で体重や体型は変化はしないのはありがたいけど、現実世界でも甘味が多めなので(主に母ちゃんの実験台)少々食傷気味だ。予選は今日までだったのはありがたい……というか助かった。こんな生活が続いていたら甘味が嫌いになる……『まんじゅう怖い』じゃないけど。


「そういえば……母ち……舞姉ちゃんは戻ってきた?」

「舞様でしたら中庭の花壇エリアに……」


歯切れの悪いイディさんの視線上にはロビーに飾られた西洋鎧……の頭部が無いバージョン。


「まだ被ったままなのか……」


胴体部等はさっきまで一緒に戻していたそうで………手を煩わせてごめんなさい。


屋敷の中庭には色とりどりの花が咲き、来る者を和ませる空間になっている。花壇の手入れもイディさんが担当しているそうで本当頭が下がります。


その花壇の末端には先ほどの審査で桔梗さんの前に置いた……確か『シオン』だったか……のエリアとその前にフルフェイスを被ったまま体育座りをしている舞姉ちゃんがいた。


「………舞姉ちゃん」


ゆっくり近づこうとしたけど


「この花はね……『シオン』って言って『貴方を忘れない』『追憶』って花言葉なの……『今昔物語』にも……」


肩を震わせながらも必死に嗚咽をこらえ言葉を紡ぎ出す姿に近寄る事が出来ない。


………

……………

…………………


空がオレンジから紫へと色を変えて……どれぐらいこの場に佇んでいたのだろうか。その間母ちゃんが語る桔梗さんとのエピソードはおかしくもあり、微笑ましくもあった。……それはまるで第二の母のようで


「現実世界ではお別れ出来なかったから……」


コロナに罹患して亡くなった桔梗さんは、葬儀も告別式も出来ずお骨になって帰って来たそうだ。……そういえば吉沢さんも文化祭以来登校してない……大丈夫かな。


「それでこの予選の時に『お別れ』したのか」


まぁまだ四十九日には時間あるけど。


「最後の方になると上手くお礼言えるか……」


母ちゃんらしくない


「だからもう少しここにいるのー」


空は完全な闇へと変わり、中庭の花壇には屋敷の細々とした灯りが届くのみ


「あまり遅くならないでね」


そう言い残して屋敷へと戻っていった。


「お!!来たな!舞師匠は一緒じゃないのか?」


破顔一笑の樹が出迎えてくるが……何かあった?


「たった今、使い魔のコウモリが便りを持って来て、俺も舞師匠も予選通過したんだよ!」


集計や結果報告……審査員の仕事を丸投げして来ちゃった?……いや、でも『舞姉ちゃんの側にいてくれ』言われてたから……桔梗さん……リリス王妃……すんません!


ってそれよりもだ。


樹 92/100  7位タイ

舞 90/100  11位


本当だ……2人共に予選通過してる……舞姉ちゃんなんて俺が10/20だったから、俺以外の全員が満点だったんだ……


そして3週間後の決勝戦の課題も書いてあり……


「決勝戦は『パスタ』か……どんなパスタにしよう」


………現実世界でも……しばらくはパスタ生活になりそうだな………嫌いではないけど、スイーツといい……偏った食生活は遠慮したい。


そして明日は武闘大会の予選だ。バトルロイヤルとは聞いているけど、どういう感じか一切わからない。経験ないし。

………それでも樹や舞姉ちゃんも予選通過したんだ。


「次は俺の番だな」


両頬にパチンと気合いを入れると、アイテムボックスから竹刀を取り出し、再び中庭へと戻っていった。

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