090 予選突破はギリギリで(前編)
2022年10月 7日(金)〜8日(土)異世界サイド〜
………今日を乗り切れば予選の審査が終わる……
イディさんが用意してくれた朝食はあまり食欲が湧かなかったので遠慮した。朝からボアの香草焼きとかヘビーすぎますって……
足取り重く向かうは王宮の離れ。一週間続いた料理コンテストの審査員は思ったよりもハードスケジュールだった。一口大の味見とはいえ、チリも積もれば何とやらだ。しかも美味しい物だけだったら新しい発見などがあって楽しめるのだけど、『素材に誤れ!』ってレベルもあったから……楓さんが錬金術で作ってくれた胃薬を飲んで何とか今日までこれたよ……
そもそも料理人でもない普通の高校生が審査員なんて出来るの?そんな疑問もあったけど
「この世界はまだ産まれたての赤子のような物だ。NPC達も受け取る情報量が少なければ判断出来ない………『赤ちゃんAI』って思ってくれ」
……そう桔梗さんに言われれば『やりません……出来ません』なんて言えないよ……
AI技術が進歩している……といっても勉強させる『元』が無いと判断出来ないらしい。コンピューターRPGも定型文以外のやり取り出来ない……といった感じだろうか。だから俺に白羽の矢がたったわけだけど。
来年以降になれば勉強を重ねて、旨み数値やら味のバランスで……この世界の住人でも判断出来るようになる……ってそうなると審査員も必要無いのでは?
「全て数値化されて味気ない世界になるぞ」
隣で一緒に王宮の離れに向かう樹が俺の思考を読み取り返してくるが、正にその通りだよな…
樹と舞姉ちゃんは最終日の今日が審査日だそうで、ものすごく期待している。
「それより樹はどうなの?出来栄えの方は。」
「無問題。まぁ桔梗師匠と楽しみにしててくれ」
ものすごい自信だな……とはいえ今まで「アイスクリーム」を出してきた人はいなかった……『かき氷』はいたけどね。
アンコを載せた『金時』はリリー……じゃなくてリリス王妃も大変気に入って
「うまいのじゃーーー!!」
って勢いよく食べ……案の定アイスクリーム頭痛を引き起こしてのたうち回っていたけど。無茶しやがって。
舞姉ちゃんは341番……予選審査の大トリだ。出番も夕方だから『最後の追い込みー』って朝から厨房にこもっている。ミディちゃんが尻尾振りながら厨房へついて行っているから、出来栄えは舞姉ちゃんも上々なのだろう。
ただ……甘い物を毎日食べ与えているミディちゃんの体型が心配です。今の所は変化無いけど。
「どうぞお召し上がりください」
黒が基調の執事服に身を包んだ樹が五人の審査員へ出したのは散々練習した『トルコアイス』2種類。小さな小皿に一口づつ五人の前へ置いていった。緑の方は抹茶かな?って思ったけど、食べて納得『ピスタチオ』だ。
白い方はバニラビーンズが所々に見え、予想通りのバニラの香りが…………王道だね。
「こ……これは!!」
スプーンを口に咥えたまま立ち上がり、絶句しているリリス王妃。初めてのアイスクリームは衝撃的な美味しさなのだろう……一言も話さず一心不乱に食べ尽くす。俺の分のバニラも……
「あー!!」
「もう、これも妾の物じゃ!」
………人の物を勝手に手を出して……この人本当に王族ですか?しかも300歳超え……その設定かなり無理がありますよ?
「代わりの物を……お出しします。王妃様はおかわりでよろしいですか?」
「たくさん……山の様に頼むのじゃ」
桔梗さんも気に入った様で、何と審査員全員が小皿を出しておかわりを所望している。……俺はピスタチオのフレーバーを少ししか食べてませんけど?
樹は一瞬目をパチクリした後、肩を震わせながら給仕している。見えない様にテーブルのしたでガッツポーズしていたけど、触れないでおこう。
樹の評価は………他の審査員の顔色なんて伺う必要ないな。全員おかわりしていたし。
さて……後は舞姉ちゃんか………散々練習していたし、現実世界でも上手に出来てたから大丈夫だろ。
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「次………341番の方どうぞ」
「………は………はひっ!!!」
ん?
最後……341番って舞姉ちゃんだよな?
審査会場に現れた舞姉ちゃんはフルプレートメイルを装着したまま……ガチャガチャ音を鳴らしながら入室してくる……
まるで…….こう……ロボットの様に。
「はあ……」
桔梗さん?
「舞は昔からああなんだよ……剣道の大会でも、県大会では素晴らしい動きで代表になるのだが……」
へえ……母ちゃんってそんなに強かったんだ
「全国大会や国体とかで、決勝なんかはテレビ中継が入るだろ?そうなると、途端にああなる」
母ちゃんの意外な一面が見られて嬉しいけど……
「え?これって予選ですよ?」
テレビ中継なんて無いし……
「竜司君が見てるから、いい所見せようと気合い入っているのかもな……」
……それでガチガチになっていると。
そんな状態で調理出来るの?




