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異世界は剣と料理と現代知識で  作者: わかね
第二章 文化祭と王国祭編
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閑話 心残りは孫の未来で(後編)

「…………」

「………………」

「………」

「………………」

「………………ま………まずいのじゃ。」


王宮の離れの一角に設けられた臨時の調理場と出来上がった物を試食するスペース。料理コンテスト参加者は予選の日付と順番が割り当てられ、当日自分の順番が来たら会場で作り出来立てを試食してもらいその場で採点……その点数で本戦出場出来るかを争う。参加者は340名……1日50人近くを採点し上位12名を決める。


予選は一週間かけて行われ、本戦では国王をはじめ、四人の王妃も試食することが出来るのだけど……なぜか第一王妃リリスが予選の試食にも現れて現場はピリピリしていた。



王国祭は今朝から国王の開催宣言によって始まり、1ヶ月続く。まずは今年収穫された農作物や水揚げされた海産物が神輿の様に装飾され、王都各地を練り歩く『豊作、豊漁の感謝』から始まる。


街中至る所に露店が並び、この期間は露店の出店料は無料とあって、かなりの賑わいを見せているのだが……


「こんな事なら露店巡りの方が良かったのじゃ……」

「無理に審査に加わらなくても良いと言ったではないか」


自分から審査員を買って出て、文句は言わないで欲しい。


町中の喧騒とは離れ、ここはひっそりとした空間だ。

審査を待つ30歳位の女性がリリスの『まずい』発言にヒクヒクと頬を引きつらせていて……リリスが散々な評価をしているのも一因か。



凍り付いたこの場を収める為に、一つ咳払いをした後


「小豆に関するレシピは公開してあったと思うが……」


女性のこの……….作品に対する言い分を聞く。


下処理をしてない小豆と砂糖が入っていない『あんこ』はお世辞にも………素材の味で勝負しようとしたのかな?


隣で一緒に審査員を引き受けてくれた竜司君も苦虫を噛み潰した顔をしている……



予選は今日から一週間。舞や樹君は大丈夫だろうと思うが、『スイーツ』という認識はまだ市井まで広まってはいないのだろう。たまに美味しい物もあるが、こういった……遠慮したい物もあり、『玉石混合』だ。


武闘会は料理コンテストの予選後に予選が行われ、出場者は数日の休養期間の後……特設コロシアムで本戦トーナメントが開催される。決勝戦は王国祭のフィナーレ。

優勝者が戴冠して王国祭の終了を宣言……それが今日から始まる王国祭のスケジュールだ。


そして王国祭が終わった時、自分自身の消滅へのカウントダウンが残りわずかとなる事も意味している。




*************



「…………ふう。」


最後の審査を終え、王国祭の一日目はあっという間に終わる。いくら少量ずつとはいえ、朝から夕方まで試食と採点を繰り返すと食事をしようという気にはならない。それは他の審査員も同様で、皆まっすぐ帰路に着くようだ。


「私も帰るとするかな……」


そう独りごちてから


魔術レベル6 空間転移テレポート


を使用してカヤモリにある自宅に戻る。瞬時に行きたい場所へと移動出来るこの魔術はありがたい。


静まりかえった屋敷の中、鶯張りの音だけ響く……使用人達も夕刻を過ぎたので、それぞれ自宅へ帰ったのだろう。


主(私)不在の時が多いが、廊下は塵一つ落ちておらず。また枯山水の庭園も見事。仕事ぶりに頭が下がる。


「……彼らにも告げないと……」


迫り来る最後の時。私がこの世界を去った後の事。


「そして…………」


屋敷の奥座敷の御簾みすをくぐると寝所となっていて

そこには桔梗と瓜二つの少女が寝息をたてている。


「澪……」


いつものように呪霊術を使って澪の身体に入り込み、軽く運動する……寝たきりだと床ずれや筋肉が衰えていくが、桔梗の献身的な行動によって澪の身体は健康体そのものだ。


そしていつものように結跏趺坐けっかふざに座り、深層心理にいるであろう澪に対して瞑想して呼びかける


(……澪……おばあちゃんは、もうすぐお別れだよ。現実世界ではすでにお別れしているけど、こっちならもう少し時間があるんだよ……)


『お別れ』という言葉にピクリと少し反応があるが、返事は無い…………


(苦しい事……辛い事……耐え難い事があったから閉じこもっているのは……仕方ない事かもしれないけど、おばあちゃんも理乃も澪の味方なんだよ)


澪の目から涙がこぼれ落ちているが……どちらの感情から来ているものかはわからない。


(今日から王国祭が始まったよ。お祭り……澪も大好きだったよね。……文化祭……行けなくてごめんね。おばあちゃん澪のメイド服姿………見たかったな………)


…………ビクンと澪の身体が震え始める。もうすぐ憑依の時間切れ……これ以上留まると双方の魂が混ざり合って帰れなくなる。


(……また明日ね)


澪の身体を寝所の布団へ戻すと御簾みすを下ろし


「竜司君……彼なら話してもいいのだろうか……」


娘……理乃から聞いた………初期ロットの所持者『神代竜司』。彼が……澪を救ってくれる存在なのだろうか……確かに素直な好青年ではある。少しエッチな所もあるが、年頃の少年なら大概はそうだ。

だが、澪にとってそれはトラウマのフラッシュバックになりかねない。


「王国祭が終わるまでに色々決着つけないといけないか」


そう結論づけ自分の寝所へと戻っていった。


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