088 呼び出しは緊急で
2022年 9月18日(日)〜現実世界サイド(文化祭2日目)
「すみませーん!!ワゴン通りまーす!!」
人がごった返す廊下をワゴンを使ってフルーツポンチを運ぶ俺と樹。
「竜司……違うだろ。『にゃ』だ。『にゃ』を付ける」
………………
「………道を開けてください……にゃ」
………かなり恥ずかしい。
生徒と教職員のみ参加だった昨日の文化祭1日目と違って、一般参加可能な今日はすごい人だかり……これって思いっきり『密』なんじゃね?
結構な数を用意したフルーツポンチだけど、大丈夫かな……買い足し必要かも。
それというのも……まさかの男子生徒がメインの『冥土喫茶』が大盛況中………世の中解らんものだ。
教室内からは「キャー!」とかの黄色い声………違うな『悲鳴』に近いな……とか「ギャハハハハハ!!」などの笑い声や「………お兄ちゃん…キモい」等々の………って身内の一言は傷つくからやめてあげて。それらの喧騒が廊下まで伝わってきていた。さらに教室の入り口は10人位の待機列が……やばいよ……捌ききれてない。
飲食出来るのは1年の所と料理部・化学部コラボの調理室だけだから繁盛するのは予想出来たけど……
ちなみに2年生は『縁日』。射的や輪投げ、ガラポンを使ったクジなどがメインで、やはりこちらも盛況だ。
一方3年生は………『郷土の歴史』の展示物。
「最後の文化祭は遊び抜く!」
楓さん曰く去年、一昨年と文化祭は規模縮小だったので今年は3年分遊ぶ……と。展示物にしたのは割り当てる人数を減らして自由時間を多めに作る目的だそうで……ずるい。
とはいえ、料理部もかなりの人が来ているので部員総出で対応している。俺や樹、吉沢さんだけど、午後はメイド喫茶のシフトも入っているから、午前中は料理部の調理と冥土喫茶の運搬と………あれ?俺達……自由時間無い……の…か?
数台あるオーブンはクッキーを焼くのにフル稼働中で、合間にフルーツポンチ作成の為、フルーツ缶を開けて……混ぜ合わせたら……盛り付け担当の吉沢さんへボールを渡す……
「神代君と上野君。時間あったらビーカーの洗い物手伝ってー」
2年生の先輩からヘルプコール。通常のガラスコップだったら食洗機使えるけど、ビーカーやメスシリンダーは食洗機対応していないので………手洗いです。下手に食洗機に入れて割ったり機械を壊したら洒落にならないからね。
それにしても…………洗い物の人数増やさないと無理じゃない?料理部と化学部の人が一人ずつ洗い物と吹き上げをやっているけど、ビーカーやメスシリンダーが次から次へと準備室へ運ばれてくる。
「洗い物のヘルプは俺がやるから、竜司はフルーツポンチの運搬をお願いするにゃ」
腕まくりをして洗い場へと向かう樹………クッ……先に取られたか。
「神代君……ごめんなさい……戦力になれなくて…」
フルーツポンチを盛り付ける手を止めて吉沢さんが謝罪してくる。一般参加可能な2日目……不特定多数との接触はどうしても怖いそうなので………吉沢さんはメイド喫茶を含めて裏方役だ。
まぁ、クラスメイトも吉沢さんの男嫌いは慣れたもので、理由を聴いたりとかそんな野暮な真似はしない。最近は俺や樹、その他の男子生徒とも会話くらいはする様になってきたからね。焦っちゃダメ。………………って何を?
………それよりも……だ。裏方専属とはいえキチンとメイド服を着ている吉沢さん。胸元が強調される白エプロンと黒い布地のバランスがとても良くて……しかも高校生とは思えないほどの……
ハッ!!
ついつい視線がそっちに行きそうなのをワゴンへの積み替え作業で護摩化………落ち着け俺。ヒッヒッフー。
そういった男の視線が男嫌いの原因かもしれないから、ジロジロ見るのはやめておこう。
「さて。積み終わったから、運んでくるにゃ。」
「くすっ」
『にゃ』の語尾付き言葉も慣れて来ました。相変わらず色んな人が吹き出すけど……って吉沢さんの笑顔……初めて見たかも。残念なのはマスク越しって所なのだが……早くこのコロナ禍が落ち着いてマスクしない日常を送りたいものだ。
……
………
…………
ピンポンパンポンーーー
「生徒の呼び出しを致します。1年吉沢澪さん。至急職員室まで。繰り返します………」
校内放送で呼び出しなんて珍しい。そして対象は吉沢さんで……何があったんだろ?
教室にフルーツポンチを運んでから調理室へ戻って来た俺だったが、吉沢さんはすでにメイド服から制服へと着替えていた。…………顔面蒼白な状態がマスク越しでも伝わってくる。
「………吉沢さん。大丈夫?」
「神代君。ごめんなさい。今日は早退するので後はよろしくお願いします。…………先生お待たせしました。」
足早に去っていく吉沢さんと担任の先生………
「吉沢さんの祖母が救急搬送されたそうにゃ」
…………吉沢さんに代わって盛り付けしている樹。こういう時まで『にゃ』付きで話さなくてもいいよ?




