082 文化祭前日は急転直下で(後編)
「では販売価格は300円とします」
試食が終わった1年生の教室。何人かおかわりもして、今日作ったフルーツポンチは無くなりました。大体40人前位かなー………盛る量にもよるけど。
値段も300円設定になりました。全員の時間帯シフトも決定し……午前中は男子多めの『冥土喫茶』午後は女子メインの『めいど喫茶』
なぜか俺と樹は午後にエントリーされているのだけど?
昼食後はそれぞれ部活動での準備にあたるので、一旦着替えてから集合…………なのに
「樹?着替えないの?」
いつまでもメイド服でいる樹に声をかける。
「姉貴に着替えを没収された」
「………」
かわいそうに……男女間の骨格の関係で肩幅と胸の辺りがキツイって樹の発言だけど、女性からすれば……それでも胸の事言われたって思うんだろうな。樹のボロボロになった顔が……楓さんの怒りの凄さを物語っている。
「『ジャストフィットのそのメイド服で下校すれば』って相当怒ってたよ……姉貴」
鞄と弁当袋を力無く下げる樹。トボトボと調理室へと向かう足取りは哀愁感すさまじい。メイド服で下校とか罰ゲームだとしても酷い。
「………ジャージは持って来て無いのか?無かったら貸そうか?」
「それなら、猫耳カチューシャ貸して」
はうっ!!
楓さん……背後から急に声を掛けるのやめてください。心臓に悪すぎる………ん?猫耳カチューシャ?
「樹に付けさせるから」
「!!!」
樹の顔が………絶望や悲壮、屈辱………そういった負の感情がいっぱい詰まった顔をしている。うん。強くイ㌔。
「舞おばさんには連絡して、許可取ったから」
え?って事は俺は猫耳カチューシャ付けなくて良くなったのか?
「予備があるから大丈夫だって」
……………世の中そんなに甘くは無いか。って俺と樹で猫耳メイド?…………胃が痛くなってきそう。
「それよりも料理部の方でも試作品が出来たから味見して」
料理部は化学部とコラボして文化祭では出品する。
化学部からは、ビーカーやメスシリンダーで提供する飲み物。料理部からは、水ようかん(ぜんざいは残暑が厳しいから中止)、そしてアルファベットを形どったクッキーだ。
白い小皿には、一口サイズに切り分けられた水ようかんと
『O』(酸素)
『Ag』(銀)
『Pt』(白金)
のクッキー………なるほど。アルファベットかと思ってたら、元素記号だったのね。確かに化学部コラボだなー。
一方、樹が持つ白い小皿の上には水ようかんと……
『As』(ヒ素)
『Hg』(水銀)
『Pu』(プルトニウム)
のクッキー……………3つ全部毒じゃねーか。
「クッキーの味は一緒よ」
…………そういう問題じゃないと思うんだけど……
目をつぶって『Hg』(水銀)のクッキーを食べる樹………
「……クッキーは美味しいけど……」
……料理は見た目も重要だ。
………
…………
……………
精神衛生上よろしくないので、『毒を持つ元素記号のクッキー』は販売しないで部員達で処分する事に。ベリリウムとかカドミウムとかね。それと同時に放射性元素も取り除く。
それにしても上手に焼けているな……もちろんこれもホットケーキミックスを使って作ってるとはいえ、中までしっかり焼けているし、外側も焦げてなくてサツサク。市販のものと遜色ない。
……………最近『料理部』じゃなくて『お菓子部』じゃね?って思うけど………気にしないでおこう。俺もお菓子は嫌いじゃない。
「あーあー。文化祭が終わったら部活動引退かー」
楓さんが『F』(フッ素)クッキーを食べながらつぶやく……そういえばそんな時期だったか。料理部からは楓さんを含めて5人が引退する。
「新入生歓待のバーベキューもしたかったけどねー」
「結局……1回もバーベキューやらないままか……」
3年生の先輩達はクッキーを食べる手を止めて……なぜか俺の方を見てくる……?
コロナ禍で活動が制限されていた時期に設定したから中止になったバーベキューだが、こうして文化祭は制約がある中でも開催出来る様になったし………これってバーベキューワンチャンあるのか?………でも、なんで俺に視線が集まる?
「そりゃ今の2年が食べ専で、アテにならないからだよ」
………新部長はその2年生ですけど……
「どこの社会にもあるじゃない。お飾りの代表って」
言い切ったよ……そして2年の先輩達もウンウンうなずかない!
「冬休み以降だと受験とかで忙しくなるからー」
「2学期中にバーベキュー開催でよろしく」
え?決定……なの?
そして計画とか……俺なの?
「そこは1年生3人で協力してもいいから」
「3年間で一度も体験してない可哀想な先輩の為に」
………マジか。
文化祭前日に何故かバーベキュー開催をゴリ押しされ、しかも計画等丸投げされたよ。




