077 予選の品は決定で
〜放課後〜
今日は金曜なので料理部の部活動がある日なのだが……
「なんで樹がいるんだ?」
樹が白いエプロンを付けて両手を念入りに洗っている。付近の先輩達はキャーキャー黄色い声をあげながら指導していて、
「神代君は『生意気な弟』って感じだけど、上野君は『カッコいいお兄ちゃん』って感じなんだよね。」
………生意気な弟で悪かったな。
これでも樹と同い年なんですけど……
「この学校は兼部オッケーだから、勉強させてもらう。」
剣道部は三年が引退するので引き継ぎの関係で一年はお休みなんだそうだ。文化部である料理部は文化祭で切り替わるから、若干のズレはあるけど……もうそんな時期なんだ。
「母ちゃんから聞いたけど、予選は『スイーツ』だって?何作るか決まったのか?」
「全く思いつかない。何か良いアイデアないか?」
あったら母ちゃんに言ってるって。母ちゃんは『楽勝』みたいに構えてるけど、大変だと思うぞ。この世界にはあるけど異世界には無いものが多いからな……
例えば小麦粉はあるけど、ベーキングパウダーが無いからケーキとかは無理。重曹で代用出来るけど、シフォンケーキとか作りたかったらやっぱりベーキングパウダーじゃないとね……
桔梗さんに製粉技術はあるのに料理が発展しなかった理由を聞いたら、勇者の一人『茅森理乃』さん……都内で開業医している娘さんだけど、都内在住で料理はからっきしだとか。普段の食事もコンビニやスーパー、もしくは出前で済ませる事が多く、異世界内での食事の充実は後回しになったそうで……俺が色々メニューを考案……(動画サイトの受け売りだけど)してくれて大変感謝しているとか。
都内って便利だけど、技術取得には向かないのか。
とりあえず今日の料理部はホットケーキミックスを使ったチーズハットグ。生地を伸ばしてチーズを包んでいく訳だが……樹が器用にチーズを包んで棒に巻きつけていく。
「なんだ。結構上手く出来るじゃないか。」
上野家では楓さんが料理していて樹は台所に立った事無かったはずなのに……
「コンテスト出場する事が決まってからは俺も台所に立つ様にしてる。」
にしても……母ちゃんより手際が良い。しかも油でハットグを揚げながら、洗い物を片付けている。料理初心者なんて調理に集中し過ぎて、洗い物は手付かずのシンク山積みとかザラなのに……今朝の神代家が正にそうだったから。
「姉貴に『片付けするまでが料理です』って言われたからな。揚がるのを待つ間とかで片付け出来る」
『帰るまでが遠足です』と同義語だな。
「あつっ。うまっ。あつっ。うまっ」
揚げたてのチーズハットグを頬張る面々。溶けてビローンと伸びるチーズ。熱いけどうまい。
「あ……これだ。」
樹はチーズハットグから何かヒントを得た様だけど、異世界にホットケーキミックスはないぞ?
「違う違う。そうじゃなくて、アイスだよ。トルコアイス!」
だから異世界に増粘剤はないんだって
「日本で売っているのはトルコ風アイスな。本番のトルコアイスはサーレップっていう花の球根の粉末を使う。」
「え?樹君、トルコアイス作ってくれるの?」
『トルコアイス』という言葉に反応する先輩達。食べ物の事になると耳ざといというか……今チーズハットグ食べているだろうに……。
「作りたいけど、『サーレップ粉』は輸出禁止で手に入らないんです。ごめんなさい。」
頭を下げる樹だけど、俺にはその知識量が怖いよ。
「竜司がカレースパイス作った時みたいに、サーレップ粉も薬として使えるから市場で手に入るかもしれない。」
なるほど。樹はトルコアイスか……完成出来れば予選突破は確実だろう。
………むう。シャーベットは樹と被るから除外するか。
「なるほどねー。樹君はトルコアイスかー」
妙に落ち着いている母ちゃん。夕飯食べながら料理部での出来事を話しても『暖簾に腕押し』状態だ。母ちゃんは何作るのか決めたのかな?
「何作るか決めてたしー、被らなくてほっとしてるよー」
ちなみに…………何作るか聞いてもいいかな?
「クレープ」
…………確かに材料的には出来るけど、予選突破を考えるともうちょっと捻りが欲しい。
「そこはー竜司クン。考えて欲しいのー。」
丸投げかい!!!
でも『クレープ』って発想は悪くは無いかな。フルーツや生クリーム等を……あ。
そういえば、バターはあるけど生クリームってあったっけ?
チョコ……カカオも無かった様な……
「それよりも竜司クン。『カヤモリ』に急いで行くから待っててねー」
………そうだった。母ちゃんも今日から特訓について来る言ってたっけ……




