076 授業参観は異世界で
ダンジョンのエリア1でコボルトから逃走するミッションが発動。
手に持つ武器(?)は長さ1メートル位の木の棒………対して俺ににじり寄ってくるコボルトは3体。木製の棒に石で出来た刃物をくくりつけたいわゆる『石斧』ってやつを構えている。
この鍾乳洞は横幅20メートル位の蒲鉾型なので広さは結構あるけど、足元が濡れていて全力で走ったら絶対転ぶ。鍾乳石は壁際に行けば背の高い……入り組んだ天然の迷路の様だけど、中央は凸凹しているだけで視界は良好だ……まぁ明かりの届く範囲でだけど。
……これ……どうやって逃げろと?
壁際に行って迷路で敵を巻く?それとも攻撃受けるのを覚悟で敵に突っ込む?樹だったら最適な回答示してくれるだろうなぁ………
救いはコボルトも同じ条件な所か。それでも3体が等間隔で俺に迫って来ているから、あまり時間的余裕は無い。
「よし。俺も男だ。覚悟を決めよう。」
3体の内、一番右側にいた1匹に狙いを定めて素早く移動する。対象となったコボルトは口角をあげ……『ニヤリ』と笑ったかに見えた。他の2体はギャンギャン喚きながらこちらに向かって来ているが、走れない分……助かる。同時に3体相手には出来ません。
さっき桔梗さんは紙で作った『こより』を鍾乳石へ突き刺した。同じ事は出来ないけど、この棒で石斧を弾ければ………
バキッ
ですよねー。
コボルトが振りかぶって上段からの石斧攻撃に対して真正面から木の棒をぶつけたら文字通り『木っ端微塵』ですよ。そしてそのまま右肩へザックリ。勢い殺したお陰で右肩へのダメージは少なく済んだけど………
それでもめちゃくちゃ痛い。誰だよ夢なら痛くないって言ったヤツは……右肩からは鮮血が出てくるし………右手が痺れて力が入らないんですけど。
『回復術LV5 周期回復』
どこからか俺に回復魔術が飛んできた。右肩の傷口はみるみる塞がり、鮮血も綺麗に消えていく……おそらく姿が見えない上空の桔梗さんかな……
『馬鹿正直に正面から突っ込まない。そんなんじゃ命がいくらあっても足りないよ。』
姿が見えないけど、ちゃんと見てはくれているようだ。そういやボアの時も母ちゃん……舞姉ちゃんに同じ事言われたような……成長しないなー俺。
それからは無我夢中でコボルトの石斧を交わしては距離を取り、振り下ろされる石斧を交わしては体当たりで弾き飛ばす。
そしてエリア1の出口を目指して転ばない程度に走るのだけど………こちらにコボルトを倒す手段が無いから、徐々にコボルトが増えて来て、最大10体に囲まれ………逃げ道が無くなり『詰んだ』と思った時
『今日はここまでかな』
声と同時に俺の目の前に桔梗さんが現れた。
透明化を解いて現れた桔梗さんの姿にコボルト10体は
固まって
青ざめて
四散していった。
………助かった……
「とりあえず、この後は足場が悪くても走れる様に体幹を鍛えようか。」
…………助かったのか?
鍾乳洞の中はもとより宣言通り『カヤモリ』まで走る事になり……日もどっぷりと暮れる頃……ようやく『カヤモリ』に……桔梗さんの家に辿り着き、そこで記憶が途絶えた。
2022年 9月 2日(金)現実世界サイド〜
「あんのBBA〜〜〜!」
朝から母ちゃんが切れてて怖いんだけど。
「竜司クンに怪我させてるじゃないかーー!」
すぐに回復術くれたから大丈夫よ?
それよりも、なんで俺の携帯を握りしめているのかな?そしてなんで無断で毎日異世界の記録を読んでいるのかな?
「それで、あの特訓って何の意味があるの?」
逃げるだけで武闘会の特訓になるのか不安だよ。
「んー?この特訓は『一寸の見切り』だねー」
一寸の見切り?
「以前話した宮本武蔵の教えの一つでもあるのよー。さらに柳生流は『二寸のひらき』ってのがあってー」
……
………
……………
要は間合い等、敵との距離感を感覚的に覚えて対処していく特訓らしい。
「むう……確かに実戦に勝る方法はないけどーー」
俺に桔梗さんの特訓内容を解説している内に納得いった様で、ぶつぶつ文句は言うけど……指導方法は間違ってはいない様だ。
「わかったわ。」
しばらく考え込んでいた母ちゃん。何かを閃いた様で、俺は不安でしかないのだけど……
「私もその特訓に参加すればいいのよー」
はい?
「だから授業参観よー異世界でー」
……………料理コンテストの練習はどうした?
「それなら大丈夫よー。予選の課題は『スイーツ』だったからー」
その自信はどこからくるんだ?
「だってお菓子作りって『〇〇を何グラム』ってキッチリしてるでしょ?」
確かに。料理だと母ちゃんが苦手な【少々】とか【適量】とかてんこ盛りだけど、お菓子は分量とかキッチリしないと失敗するからな。
「だから竜司クンの特訓に付き合ってあげるー」
ふんす!と気合い入れた母ちゃん………
桔梗(師匠)とガチバトルする気ですか?あなたは……
今夜の異世界は嵐になりそうで、ちょっと怖いです。




