閑話 その3
……仕事量が同じで待遇と設備が上なら、みんなそっちに行くよねー。私だって同じ仕事なら年収高い方に行きます。
結局……医療開発部門に残った人は相笠君と私の2人。これ……存続の危機なのでは?
とりあえず現在の異世界内を調査することになり、3ヶ月前……イタリアを模した綺麗な石畳みの街並みを思い馳せていた。軍事訓練場所となった異世界………血生臭くなっているのだろうか………
相笠君と共に久しぶりの異世界は……怪獣大戦争よろしく目の前で魔物同士が戦っている。しかも出現したの周囲を飛び交う魔物の数も尋常じゃない。間近に行われる戦闘から逃げ出したくても………ゆっくりとしか動けない………まぁ、魔物たちの戦闘もコマ送りスローモーションだから、近々の危険はないのだけど……だから『怪獣大戦争』って感じたのか。
綺麗だった石畳みの街並みは見る影もなく……あちこちに穴が空いて、建物は半数以上が崩壊。廃墟と化していた。
「え?この3ヶ月で何が起きたの?」
夢を安定させるために魔物を出現させて、それと戦闘する。それはいい。問題はその数。
「いやー大変でしたよ。日本の妖怪やゾロアスターやキリスト。ソロモン72柱など古今東西の悪魔や魔物を全ブフォ」
「元凶はお前かあぁぁぁぁぁ!!!!」
容赦なく相笠君の腹部にレバーブローを叩き込む。えぐるように深い左フックを。
「……え?……了解を得たので……大量の魔物を投入したのですが?」
体をくの字にして悶絶し、お腹を抑えながら言葉を絞り出す相笠君。……私そんな了解出してないけど?
「白石さんが、『連携の訓練』って茅森さんからの許可とりましたって……」
………もう。ひとが休んでいる事をいいことに、好き勝手に運営してくれるわね………こんな魑魅魍魎がウロウロしている世界、澪ちゃんを連れてこれる訳ないでしょうが。
「一応人間の味方になるようプログラムされた熾天使も投入してますが……」
異世界に入って動きが鈍い原因もわかった気がする。スパコンならまだしも、一般的なPCでは処理に時間かかるよね。
「これらを虱潰しで殲滅させないと、何も出来ないわね。」
それからはただひたすらに……がむしゃらに悪魔や魔物を討伐する日々。私は回復術と錬金術。相笠君は魔術に秀でていたが、2人ともいわゆる『後衛職』……群がり大量に押し寄せてくる敵に処理しきれず……
「『血反吐を吐く』って中々出来ない体験ね」
「何度も経験したく無いッス」
現実世界の技術やスキルが異世界に投影されるように設計されていて、戦闘技術が無いのにスキルを付与しても使いこなせない。魔術等も万能ではなくてパーティーでの連携は必須だ。
「知り合いに前衛任せられる人いないッスか?」
「…………1人いるにはいるけど……」
もうすぐ古希になる母親が。さすがに師範の座は後進に譲ったが、毎日の稽古は欠かさずに健康な母親だ。………だけどねぇ。体力的に無理がないか?
「その点なら問題無いッス」
この世界で重要なのは『脳』。認知症を患っているなら問題があるけど、『脳』が正常なら本人が希望する年齢に置き換えられて活動出来る……って私……現実世界とあまり変わってないのですけど?
「現実世界が充実していて、不満が無いからじゃないッスかね?」
確かに……研修医だった頃、20歳をとっくに超えているにも関わらず、飲み屋で身分証の提示を毎回求められるのに辟易していたからなぁ。アラフォーの現在、身分証の提示を求められる事は無くなったのは寂しいけど、ありがたい。
「とりあえず母親に話してみるわ」
「……………さすがにそれは反則では?」
『澪の為なら』って二つ返事で引き受けてくれた母親はアプリの説明もそこそこに快諾。早速3人で討伐することになったのだけど………異世界に現れた姿は澪ちゃんと瓜二つ。希望する年齢に設定出来るそうだけど、思わず『詐欺だ!』って叫んで思いっきり殴られた。DV反対。
しかも胸……盛ってない?え?昔は大きかった?確かに双子の姉も大きかった……
ペタペタ…………ううぅっ。
「大丈夫ッス。無くても需要グボォ!!」
デリカシーのない相笠君にレバーブローを決め、母親の武器……太刀へ祝福かけていく。
前衛が1人だと……って相笠君がドラゴンを従魔設定してプログラミング………生み出し、戦力は大幅にアップ。
それからの半年間は……『蹂躙』という言葉がピッタリ……カクカクしていた動きも段々と滑らかに動くようになってきた。
討伐の道中、相笠君が『人間の味方』になるように投入した熾天使も助け出して、異世界内の内政、運営を任せる頃には……主だった悪魔、魔物は駆逐完了。改めて母親の強さというか凄さを見せつけられた。
澪ちゃんは結局……中学1年生をもう一度送る事になってしまったけど、慌てなくていいから……少しずつでもいいから異世界と現実世界を使ってゆっくり養生してほしい。




