閑話 その2
〜2ヶ月後
学校を変わりたくない澪ちゃんだったけど、今の澪ちゃんに学校での居場所は無いそうで、登校しても寂しい日々を送っている。クラスメイトからのイジメは無いと澪ちゃんは気丈に笑うけど、孤立って一種のイジメだと思うのですが……
元気をつけてもらう為にも、今日は澪ちゃんの大好物エビグラタンでも作りますか。
小鍋に入れたバターを溶かしてから小麦粉を少しずつ投入して……さらにコンソメと牛乳を入れてホワイトソース(ベシャメル)を作っていく。
ガタン!!
夕食を作っている最中に浴室から大きな音が。
「澪ちゃん!?」
IHのスイッチを切って慌てて風呂場に駆け寄ると、制服姿の澪ちゃんが湯船に左手を入れて微動だにしない。手首付近の透明なお湯が徐々に赤く染まっていて………
「澪ちゃん!!」
エプロンを外して紐の部分で澪ちゃんの上腕部分を縛って止血。同様に左手首の傷口を圧迫してこれ以上出血しないように処置をする。……首の頸動脈で脈があるのを確認すると119番通報し、浴室に転がっているカッターと………
トイレにあった陽性反応の出ている……妊娠検査キットを回収した。
暴漢の被害にあった日……素直に申し出ていれば緊急避妊薬などの処置を受けれただろうに……と思っても13歳の少女には厳しいか。
……しかも澪ちゃんが自死を選んだ事実に……愕然とする。少しずつだけど会話するようになってきたし、それなりに信頼関係が構築出来たと思っていたから……
発見が早かったのと処置が適切だった事もあり、命に別状はないのはせめてもの救いか。
とりあえず快方した澪ちゃんと話し合って中絶手術をする事に……費用の心配はしないで。公的機関へ申請すれば戻ってくるから。
少しでも澪ちゃんの負担が少ないように手動式吸引方(MVA)を予約。
もちろん手術は成功で、術後の後遺症は無いのだけど……すっかり塞ぎ込んで……次の日から不登校が続くようになった。
自傷行為はあの日以降なくなったけど、人間不信……というか男性に対する嫌悪感がすさまじい。
リハビリも兼ねて近くのコンビニに買い物行く時も男性とすれ違う度に私の腕を強く抱きしめ、ガタガタ震える始末。
スーパーのレジも空いている男性店員のレジには行かずに混んでいても女性店員のレジに並んだり……相当重症です。
「澪ちゃん……もし……良かったらなんだけど、開発中のアプリを試してみない?」
そんな澪ちゃんを見かねて……こういう人の為にアプリを開発してたじゃないか。まさか姪の為に使うとは思ってなかったし、まだ………完成してないけど。
「『治験』という形になるから、研究所の許可がいるけど……おばさんの勤めている研究所だから、なんとかするから。」
「………」(コクン)
正気のない目でうなずく澪ちゃん……
「それと……何でも……些細な事でも私に話して。私はどんな事があっても澪ちゃんの味方だから。」
姉の忘れ形見……何としても守り抜く決意を固めて、交渉すべく研究所へ。
「あれ?」
3ヶ月ぶりの研究所は殺風景というか……もぬけのからと言うべきか……人が減っていて、設備も……縮小している?
ゲーム部門と医療部門で別れた時……かなりの人員を増やしたはずなのに……ゲームはまだリリースされてないからそのままの人数だと思っていたのに……
「茅森さん。こんにちは」
白石さんが出迎えてくれたけど……私が休んでいる間に何があったの?ゲームは……リリースしてないよね?
「あれはゲームではありません。シミュレーションシステムです。」
?????どういうこと??
「これからの研究は本国で行います。もちろん特許申請は研究所名義で取得済みです」
白石さんは淡々と現状について説明する。
3ヶ月前私が休み始めた頃からすでに実用実験に入っていた事。特許申請をして他国に技術が渡っても莫大な利益を得るようにした事。資金提供を含めて全ては本国のCEOの計画通りに進行していた事など……
「では……異世界内で死亡した時、精神に障害が発生するバグは直ったのですか?」
「その必要はありませんでしたので、そのままです。兵器に感情は要りませんから。」
………兵器?
「はい。夢の中でも戦闘訓練が出来るシミュレーションシステムです」
……そんな運用……聞いてないのですけど……
「鉄器や火薬に始まり、陸上、海洋、空域……人工衛星に宇宙開発……ドローンやAIに至るまで……軍事開発が主導で技術が発展してきた歴史はご存知かと思いますが」
……確かに人類の歴史は戦争の歴史でもあり、争いがあって各種技術が発展してきた経緯はあるけど……
「そして今度は『時間』という素晴らしいコンセプトですわ。」
軍事に携わる人達が文字通り『寝ても覚めても』戦闘訓練したら……精神が支障……どころか崩壊してしまうのでは?
「ですから先程も申し上げたように、兵器に感情も精神も要りません」
兵器って……人を殺人機械に仕立てる気?
私の疑問はそのままに、一通り説明した白石さんは事務机から一枚の……A5の紙を取り出して私に手渡す。
「……解任通知書……って私はクビ……ですか?」
「姉の忌引という事でしたので休暇は許可しましたが、介護休暇の申請はされていませんよね?まぁ、介護休暇の申請をした所で家族ではない人物の介護は認めておりませんが。」
やられた。これって程の良い乗っ取りじゃない。
………無理にでも養子縁組すればよかったか?いや……澪ちゃんの意思を尊重しないと、治るものも治らない。
「……わかりました……」
力無くうなずくしかできない私。
「医療用の開発はそのまま続けてもいいですよ。」
要は『研究所の所長』は解任で開発中の医療部門はそのまま継続しても構わないそうだ。……機器やスタッフはほとんど引き上げ、残るスタッフや機器は昔の……貧乏研究に戻っただけだけど。
「一応許可は得られた……って事で良いのかしら。」
白石さんはそのままゲーム……軍事部門への移動という事で別れを告げたけど、私としては医療開発の方に残れただけでも助かる。……あとは異世界内を調査してアプリを完成させて……
「僕もこちらに残る事になりましたのでよろしくお願いします。」
相笠君も医療開発の方に残ってくれるようだ。
「あっちの方が設備も報酬も上だけどいいの?」
「この研究の立ち上げからいる身としては、軍事転用より医療用の方がスッキリします。」
そう言ってくれると助かる。
「でも………スパコン引き上げられたから開発に時間かかりそうですね……」
………むう。一般的なPCじゃダメ?………そうですか。演算速度が違いますか……せめてGPU搭載のPCが必須なのね……それを3台!?……値段……聞いてもいいかしら。
値段を聞いてビックリ。………高級な車買えますよ。
しかも、それでも最低限なスペックで……今までのように全世界を網羅した世界は無理との事。せいぜい小さな島3〜4個位らしい。人数や魔物の個体数も制限が必要で……個人が運営するには限界あるのね。
………澪ちゃんを救う為だと割り切って、貯金を費やしてサーバーとなるPCを導入する事に。
……都内の心療内科を続けてて良かったと本気で思った。
次回も閑話 その3です
ようやく次回で閑話がひと段落つきそうです。
見通し悪くてすみません。




