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異世界は剣と料理と現代知識で  作者: わかね
第二章 文化祭と王国祭編
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閑話 その1

……きっかけは些細な夢……勇者になって魔物を討伐する夢を見た……そして、その夢の内容を朝起きた時に覚えていた事が始まり。


夢……レム睡眠とノンレム睡眠を繰り返す睡眠中、主にレム睡眠の時に見える現象。昨晩やったゲームが印象深くて夢に見ただけだったが……『夢』……これを治療に使えないだろうか?


私……茅森理乃[かやもりりの]は都内で小さいながらも心療内科を開院している医師である。うつや躁うつの患者を担当する事もあるし、自閉症や最近多くなってきている発達障害……ADHDの患者などを診ている。後は心的外傷トラウマなども担当……って現代社会は心を病む人が後を絶たない。


向精神薬を処方して大丈夫な時もあれば、その逆も……とにかく治療には『時間』が一番欲しい所ではある。


1日は24時間


誰もが知っているし、増やす事は出来ない。でも、人生の内3分の1以上は睡眠だ。その睡眠をコントロールできれば?睡眠が治療に使えれば?睡眠学習みたいに睡眠で心のケアが出来れば?そう思って脳神経の友人やプログラマーの友人達と連絡をとり始め……研究がスタートした。


研究というのはとにかくお金がかかる。アルファ波やシータ波を発生させるアプリの開発とか……すみません……貯金……やばいです。将来の為に貯金していた結婚資金を切り崩せば何とか………結婚は相手が居ないから諦めた!


双子の姉は結婚して子供もいるのに……ってお母さんの愚痴というかプレッシャーが突き刺さります。でも、結婚だけが全てではないのです。孫の顔は姉の子供で我慢して下さい。

………だからお見合いはしませんって。



夢をコントロールして有意義な時間を作り出し、心の病を持つ患者へのケアに充てる……実際に完成出来れば素晴らしい事だと思いませんか?


上記のコンセプトを学会で発表したら笑い者にされました。『まさしく夢物語だな』って……私はいたって真面目に研究しているんですけど…………


そんな散々な目にあった学会だったけど、何と……スポンサーがつきました!!ヒャッホウ!!

外資系の企業で『睡眠をコントロール』『時間を生み出す』というコンセプトが気に入ったそうだ。そして資金も潤沢で、今までの貧乏研究が嘘のよう。

『特殊で膨大な演算も出来るように』ってスパコンが導入された時は震えましたよ。スパコンですよ?スパコン。

スタッフも倍増どころか10倍?プログラマーの相笠君も喜んでるし、これは……絶対に完成させなければ!!




…………むう。夢を安定させるってすごく難しい。『お花畑でランランルー』みたいな夢だと安定せず、すぐに夢が崩壊する。刺激がないとダメなのね。

でも……心的外傷の治療として使う場合、刺激は……フラッシュバックの対象となりやすいから厳しいの。例えば暴漢の被害に遭った人が刃物を見て痙攣けいれんをおこすとか………


「それなら、刃物を常時扱う環境なんてどうです?」


クライアントの白石さんが言うには、現代社会をそのまま投影するから刃物等は『非日常』と捉えられるけど、ファンタジーの世界なら……剣と魔法がある世界なら刃物や銃器は『日常』と化す。


………なるほど。確かに一理ありそうね。私が『夢』を使えないか?って思ったキッカケもファンタジーな世界だったし、現実世界と乖離かいりさせればそれは『夢』だと認識されて……しかも刺激があるから『夢』も安定する……と。


方向性が決まれば後はゲームデザイナー兼プログラマーの出番です。友人の相笠健太[あいかさけんた]氏を筆頭にファンタジー世界を構築していく。舞台はオーソドックスに中世ヨーロッパかな。剣と魔法をメインに置きたいから、科学技術が発達した世界は……ねぇ。


試行錯誤を繰り返し、私自身も治験を担当して……何とか形になるまで3年の歳月が流れた。アプリの名前は『アディショナル』。サッカー等で使われているアディショナルタイムから引用したけど、『追加の〜』って意味だから似たような物かな。


完成かと思ったら思わぬ落とし穴が。夢の世界で死ぬと精神にダメージを負ってしまうの。

例えば……高所から落ちる夢を見ると、落ちている最中に現実世界で目が覚める……悪夢の一種だけど、見る事あるじゃない?

自然にセーフティが働いて落ちる最中に目覚めるのが常なんだけど、このアプリで夢を見ているときはそのセーフティが働かないの。死ぬ直前までの記憶と感覚そのままに目が覚めるの。

……気分悪くなるよね……心の病を治す医師が精神的に追い込んでどうするのよ………。


「ゲームみたいにすぐ復活して戻る設定にしますか?」


プログラマーの相笠君が聞いてくるけど、人の死が軽々しく扱われそうで……ひとまず保留してもらった。確かにゲームとしては即復活なのだろうけど、目指しているのはゲームではなくて『治療』だから……


「確かにゲームとしては成り立ちますね」


クライアントの白石さんは、それはそれで製品化して……治療用として別のロジックを組むのはどうか?と。ベースとなる世界観は統一だから、開発はそのまま続けても問題はない。


ゲームとして製品化を目指すチームと医療用を目指すチームに別れる事になったけど……あれ?ゲーム部門の方に人多くないですか?……確かにゲーム部門で製品化させて収入が得られるようになれば安泰ですけど………



そんな最中だった。姉の……姉夫婦の訃報が届いたのは。






連日押し寄せるテレビ局のレポーター達から逃げるように自宅のマンションに入る。……マンションの一室には憔悴しょうすいした姪の吉沢澪ちゃんが。インターホンが鳴る度に澪ちゃんはビクッと身体を震わせガタガタ震えて……見ていて居た堪れない。事件の被害にあった若干13歳の少女に対して配慮というものがないの?インターホンの電源を切って澪ちゃんの頭を撫でる。


「大丈夫よ。私は澪ちゃんの味方だから。」

「…………理乃おばさん……ありがとう……」


…………『おばさん』って結構ダメージ来るのね。


研究所にはしばらく休む旨の連絡をして、お母さんに電話を入れる。吉沢さん……姉さんの旦那さんに身寄りはいないので、澪ちゃんの保護者が必要になるのだけど………養子縁組は『吉沢』の姓が消えるから……と澪ちゃんに断られました。お姉さんや義兄さんを消したくないって。


お母さん……澪ちゃんのおばあちゃんと一緒に生活する?という案もあったけど、本人の希望で私と住む事に。理由は、学校を変えるのがイヤだったから。今どきの子はしっかりとした意思を持って強いね……おさん感心するよ。



………情報化社会って怖いね。ワイドショーではもちろん匿名で扱ってくれたけど、SNS等が普及した現代社会で情報を隠匿するのは無理みたい。

暴漢の被害にあった少女として知れ渡った澪ちゃんは、クラスメイトから浮いた存在となり……以前の明るく活発な少女は影を潜め、内気で周囲にビクビクする……すっかり別人になってしまった。私はそんな澪ちゃんに付きっきりで介護し、アプリの開発や研究所の運営は白石さんに任せっぱなしに。


それでも……澪ちゃんを救いたかったから、たとえ研究所をクビになっても仕方ない……と割り切っている。姪の一人救えなくて何が心療内科医師を名乗れようか。


献身的な介護の効果が現れ、少しずつだけど会話を交わすようになって来て……やはり治療には『時間』が重要なんだと再認識したの。悔やむべくはアプリの開発が間に合っていたら澪ちゃんに使ってもらえるのに……。


次回も閑話 その2です。

ちょっとドロドロしますが、アプリ『胡蝶の夢』が生まれる経緯なのでご容赦ください。


澪ちゃんのおばあちゃんである桔梗さん。そして理乃おばさんが勇者として暴れまわる所まで書ければと思います。

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