069 盗賊は自作自演で
2022年 6月19日(日)〜20日(月)異世界サイド〜
「もし良かったら使ってくれないだろうか」
依頼された物を納品して、出発する旨の挨拶をする為に訪れたカヤモリさんの邸宅。
お礼に……と桔梗さんから渡された羊皮紙だけど、『けん……りしょ』まだ文字を読むのに時間がかかるな……って『権利書』!?聞けば王都にある茅森さん所有の物件だとか。そりゃ、嬉しいけど……いいんですか?一昨日出会ったばかりの赤の他人ですよ?舞姉ちゃんとは知り合いっぽいけど………師弟で。
「人が住まないと家屋ってすぐ朽ち果ててしまうから」
……確かに空き家になって数ヶ月で廃屋になった話も聞きますが
「あの……家賃は?」
貧乏PTに王都でのマイホームなんて夢のまた夢ですよ。まぁ夢の中なんだけど……。
「ははっ。そんなものはいらないよ。むしろこれからも相談に乗って欲しいし、可愛い孫弟子へのささやかなプレゼントと思ってくれて構わない。」
話し方もずいぶんフランクになってきて、これが桔梗さん本来の姿なんだなーって思う。さっきから舞姉ちゃんは緊張したまま一言も発してない。
「それでは有り難く使わせていただきます。」
どのくらいの大きさかわからないけど、これで王都での活動拠点としても期待出来るし、毎日宿代で四苦八苦する事もなくなる。しかも家賃はタダ。ようやく運が向いてきた?
「それじゃあ昇級クエスト頑張るんだよ」
いつものように町の門でリリーによるクエストの再開宣言。この長かった行程も残すは40キロ。マラソンの距離より短い……とはいえ走らないよ。ずっと上り坂だし。
6月下旬だと現実世界では連日25℃を超える『夏日』が続くし、すでに30℃超える地方も出てる。その点異世界はまだまだ過ごしやすい……むしろ朝晩など肌寒い位だ。
「その分、冬は厳しそうだけどな」
樹が嘆息つきながらつぶやく。あれ?また言いたい事が顔に出てた?
何でも『小豆』は平均気温『20〜25℃』が望ましい環境で、近年は地球温暖化の影響から北海道ですら小豆の栽培を諦める農家も増えてきたとか………怖いな。
「それに……ほら街道沿いにあるぶどう畑だけど……」
『リースリング』と『ピノ・ノワール』って寒冷地でも栽培できるワイン用の品種だそうで……それぞれ白と赤ワインの有名な品種だとか。……ところで樹さん?俺たちまだ未成年で飲めないけど、どこでそんな知識を?小豆にしたって農家じゃないのに……
………クイズを解くために必要な知識って……俺は知らないけど、ゲームセンターに置いてある魔法学園に入学してクイズで競うやつだそうで……そんなゲームがあるんだ。
それにしても街道沿いにぶどう畑があったり、行き交う人が多かったりで……
「王都とカヤモリの往復が昇級クエストとして一番楽なのでは?」
ついつい思ってしまう。黒狼が出る森も無いし、ハイエナがいる草原も通らない。もちろん300キロなんていう膨大な距離を歩かなくても良い。のどかな畑が広がるこの空間で『昇級クエスト』って言われてもピクニックの延長のような気がするけど……
「大丈夫じゃ。ギルド職員が『盗賊』に扮して冒険者を襲うから。……もちろん手加減はするのじゃ。」
………何そのマッチポンプ。
それに手加減しなかったら全滅するって。
行き交う人も『自作自演』がわかっているから手出ししない暗黙の了解ってやつか。
そろそろ王都とカヤモリの中間地点かな?って思ったあたりにかなりの人だかりが出来ている。
商隊や冒険者達が一定の距離を置いて野営準備をしている風景はまさしく現実世界でいうところのオートキャンプ場です。
その中でも、たどたどしく野営準備をしている男女2人づつ4人PTが目につく。年齢は俺たちより年下の見た目小学生だよな……丸山さんの桃ちゃんよりは上だろうけど。
火おこしが中々出来なかったり、2人用のテントを張ろうとしても、支える人がいないから上手く張れない。
そういえば俺たちはすぐ出来てたけど……?
「ボーイスカウトでキャンプの経験があったからな」
全て樹がやってくれてました。
周囲の人達もヤキモキしているけど手出しはせず、生暖かく見守っている。……全ては経験か。
監査役っぽい人が俺たちに気がついて(というよりリリーに気がついて)駆け寄ってくる。
「リリ………マスターも昇級クエストの監視中で?」
「王都までの行程だからもうすぐ終了じゃがの。」
……この人もサキュバスだな。チラチラと俺と樹を見てくるから。
その後リリーとごにょごにょ内緒話で盛り上がる2人。
そして俺たちに向けてニッコリ微笑んだリリーはとんでもない事を言い出した。
「呪霊術で変装させるので、盗賊役を引き受けて欲しいのじゃ。」
はい?何故に俺たちが?




