058 中古は品切れで
「結局……どうなったの?」
誠さんが光の玉と化して百合香さんのお腹に吸い込まれたのは見えた。リリーが『着床した』と言っている事から、誠さんは生まれ変わるだろうな……とは予測出来るのだけど……
「『輪廻転生』は文字通り魂を転生させる呪霊術の奥義じゃ。」
リリーは『ただし』と前置きした上で
「己の死に対して強い怨念などがあると、その場で留まったり他人を道連れにしようとする『悪霊』と化すのじゃ。」
地縛霊とかそういう類か……見たくないね。
「その場合は『輪廻転生』は抵抗されて発動しにくいのじゃが……」
リリーは百合香さんにゆっくり近付きながら
「消える際の『ありがとう』で『悪霊』になる可能性はほぼ無いと思ったまでじゃ。」
俺達の事を『お人好し』だなんて言っていたのに、リリーも人の事言えないだろ…
生まれ変わるとはいえ、それでも誠さんがいなくなったので2人で生活していかないといけないが。
「皆さん。本当にありがとうございました。」
百合香さんが俺達に深々と頭を下げる。
「主人が残してくれた魚醤の工場。地域の人との繋がり。それらを大切に、桃と二人頑張ってみます。」
お腹に手を当てる百合香さん。順調にいけば3人になるかな。現実世界と家族構成が変わるけど。
「何かあったら冒険者ギルドに相談するのじゃ。」
『もう少し主人が遺した工場を見ておきたい』と工場へ残る丸山さん親子と別れ俺達は冒険者ギルドへと戻った。
「これで一件落着なのかな……」
『死』の結果が覆せない以上、最良の結末ではないけど最善の結果なのだろう。
「昇級クエストが終わったら、また丸山さん親子の様子を見にこよう。」
中断しているクエストもそろそろ再開しないといけないし、俺達も前へ進まないと……
「明日……再開しよう」
ちょうど一区切りできたし……
他のメンバーも賛成したので携帯食糧などの備蓄品を補充すべく残量を確認したのだが……
「あれ?」
テントの布地が……切れている?
広げてみるとテントの天幕に円形の切り抜き跡と長方形の切り抜き跡が……そういや桃ちゃんの『新一年生セット』で見たなーこの色。
「樹?」
「いやー撥水性の生地って中々見つからなくてなー」
そこまで『新一年生セット』のディテールにこだわらなくてもいいじゃないか。
これ……雨降ったらアウトだし風通しも良すぎるからテントとして機能してないぞ。
「むしゃくしゃしてやった。」
介護パンツ履き忘れた一件か。現実世界で布団をグショグショにした腹いせ………と。
「それでも最後に誠さんの笑顔が見られたんだから、プライスレスだよ。」
いや。プライスレスでは無いぞ。買い直し必須だし。
まぁ……誠さんは確かに嬉しそうにしていたか。
怒ってもテントは元に戻らないので、仕方ない……道具屋行くか……。
「え!?中古品は……無い!?」
中古品に期待したのだが、中古品は誰かが売ってようやく成立する。売る人がいなければ当然無いわけで……
しかもPTメンバーが増えたから2人用テントではちょっと手狭。
「毎度ありー」
新品の3人用のテントを購入したら……残金……銀貨2枚だって。
「ははは………」
もう笑いしか出てこないよ。折角露店で稼いで路銀に余裕出てきたなーって思ったらこのザマですよ。
「次の町でまた稼げばいいのー」
舞姉ちゃんは気楽だね
「私も露店で頑張るから、元気出してよ」
楓さんは前向きだね
「そうだぞ。クヨクヨしたって始まらんだろ。」
元凶のお前が言うな。
「売り子なら私もミディも手伝います」
「パパー私も頑張る!」
だからパパじゃないって。
みんなの気持ちはありがたく受け取るけど銀貨2枚って軍資金……あまりにも少ないよ。露店開く為の場所代も必要だし材料調達はできないから今持っているストックで何とかしないといけないよな……
あれ?ちょっと待て。
今日の宿代……払うと次の町で露店すら開けなくなるんじゃないか?
「魚醤の売り場を借りて今日露店で稼ぐのは?」
「楓さんナイスアイデア!」
魚醤は昨日売り切ったし、百合香さんに頼めば……
……
………
…………
「ええ。構いませんが……」
百合香さんは『お世話になったので』と昨日の売り上げの一部を俺達に渡そうとしたけど、お金はこれから必要だと思うので辞退した。
(無事に誠さんの生まれ変わりが出産できたら身動き取れなくなるし)
百合香さんには明日出発する旨を話して露店の販売許可証を受け取る。幸い期限は今日までだ。
「さて……何を売ろうか」
路銀を少し稼げば良いだけだからなー。
「『魚醤』を使ったメニューなんてどうかしら?」
魚醤は塩分濃度が濃いから数滴使えば済むし、採用。楓さん冴えてるね。
「朝食べた焼きおにぎりは美味しかったのー」
舞姉ちゃんにしてはまともな意見だ。
お米のストックが無くなるけど、その手で行くか。
……
………
…………
焼けた磯の香りがほんのり付いた『焼きおにぎり』
『魚醤』の使い方の一つとして町に根付き、後に町の名物が生まれた瞬間であった。




