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異世界は剣と料理と現代知識で  作者: わかね
第一章  昇級クエスト道中編
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053 依頼クエストは現実世界で

2022年 6月 2日(木)〜 3日(金)異世界サイド〜


小高い丘を登り、ラーガミーガの町が見えてきた街道


町の全容は港町……というより漁村といった方が正解かも。小さな桟橋が数本と、停泊している船は小型船……手漕ぎボート位の大きさがほとんど。

灯台の代わりだろうか桟橋の先端に篝火かがりびのようなものはあるけど、心許ない。


「それでも海の幸が望めるって楽しみなのー」


俺としては海の幸もうれしいが(昆布とかあるかなー)それ以上に気になるのが醤油だ。


イーサイさんの話によると先週から売り出した『醤油』は始めは売れなかったが、実演販売するようになってから徐々に売れ始め、一昨日の時点では行列が出来る位の人気ぶりだとか。


イーサイさんも

「自分も実演販売で購入した口です」

って言っているので、実演販売も侮れない。テレビショッピングとか現代でも残ってるし。


その実演販売は、手のひら位の大きい2枚貝を焼いて貝が開いたら醤油を数滴たらす……聞いただけでも美味そうだよ。磯の香りと焼けた醤油……イーサイさんも思い出したのか恍惚こうこつの表情を浮かべてた。


そして気になる情報がもう一つ。


その醤油を売っていた人物が、この国では珍しい『黒髪・黒目』だという事。


楓さんは栗色だけど、俺と舞姉ちゃん……そして樹も黒髪で黒い目をしている。


「その人も俺達と同じ『来訪者』なのだろうか?」


「その可能性が高いわね。」


始まりの町で剣術を指導してくれた人以来の

同郷人かもしれない。




「それでは、昇級クエストを一時中断するのじゃ。」


冒険者ギルドでの中断宣言も慣れたなー

周囲の冒険者達からの応援や冷やかしも。


外観上は12〜15歳位のPTだから好意的な意見が多いけど。

宿泊は3部屋確保して銅貨180枚支払う。宿の値段が高くなっているのは夕食の関係で海鮮を出すからだそうだ。

(どんな料理が出てくるのかちょっと楽しみ。)


そして、これでようやく半分の150キロ。


色々あったから早く感じるけど、すでに6月なんだよね。

5月の上旬に昇級クエスト開始したから、王都に着くのはこの分だと7月位かなー。


クエストといえば、すでに今日の討伐クエストは残って無いし、路銀も余裕あるから無理して受ける必要も無い。

余計に滞在するとポイントが減算していくから明日出立してもいいのかな?

とりあえずは海鮮と醤油を求めに市場へ行きたい。


イディ親子は移動に疲れたので部屋で留守番。

樹と舞姉ちゃんは剣術の稽古だってさ。


必然的に楓さんと2人で市場へ。

楓さんは今日はいつものツインテールを左右にユッサユッサ揺らしながら一緒に……腕を組みながら歩いていく。


「2人でお買い物……」

変な事を口走る楓さんだけど、遊びに行く訳じゃないからね?『ぶー』ちょっと拗ねる楓さんを横に、頭の中では海鮮を使ったメニューを次々と思い描く。


カルパッチョはギリいけるか?


とか


お酢で締めて押し寿司なら大丈夫かなー


とか


なるべく生に近い状態で食べてみたいのは

日本人の性かもしれない。


醤油も手に入れた事だしね。


……市場をある程度見て回った結果……

生魚はあまり置いて無くて『干物』『塩漬け』が大半を占めている。足が早い生魚は市場に置いているうちに腐ってしまうから仕方ないのか……

数点置いてある生魚も、メザシや鰯など小さい魚ばかりだ


昆布なんかは置いて無くて、聞けば海藻は海岸の砂浜にゴミとして捨てられている……ってもったいない………

(後で回収しよう)


そして『醤油』の売り場は……っと

市場のはじっこに人だかりが出来ている……


この町も出店する場所によって出店費用が変わるから

醤油の店主もはじっこを選んだのだろう。


「すみません。本日の分は売り切れました。」


しばらく行列に並んでいたのだけど、残念。届かなかったか。

ゾロゾロと並んでいた列がなくなり、小さな露店には現地の言葉で『ショウユ1本銀貨2枚』の手作り看板と

その上からやはり現地の言葉で『完売』の張り紙を貼る……どう見ても東洋人。


身長は俺と同じ150センチ位の小柄な店主。

長い髪は後ろでひとまとめに縛っていて『完売』の張り紙を貼った後に『ふう』と息を吐き肩を抑えながら首を左右にゴキゴキ鳴らしてる。


ものすごいメタボリッ……ふくよかな体型の30〜40歳位のおじさんだ。


「ごめんねー。明日また売りに来るから」


俺を売り切れているのに粘っている客と勘違いしているのか

片付けをしながら対応してくる。

暗に『早く帰れ』って言ってるよね。

見事なまでの『塩対応』です。


「あの……すみません」


「だから、今日は売り……」


店主はそう言いかけたが、俺の姿を見とめ口をつむぐ。


「ひょっとして同郷かと思いまして……」


「お……お……おおお!!」


店主は俺を上から下まで食い入るように眺めた後


「やっと……やっと会えた」


俺達……初対面……ですよね?


名前を丸山 誠【まるやま まこと】と名乗った醤油売りのおじさん。聞けば2年前にこの地に現れて以降ずっとこの町で暮らしているとか。


「一応冒険者登録はしましたが、戦闘はおろか運動も苦手でして……」


2年経っても現在のランクはDD。

討伐クエストは一回も受注した事がなく、一週間に2〜3回採取クエストをこなしていたそうだ。


得意不得意は人それぞれです。

俺だって1人だけだったらこのおじさんみたいになっていたかもしれない。


丸山さんは、現実世界では醤油工場で勤めていて、ノウハウは知っているから、こっちでも醤油を作ってみようと試行錯誤していたそうだ。


「それが先週ようやく完成しまして」

「おー」「すごいです」


俺も楓さんも素直に感嘆の声をあげる


「錬金術で作る塩や水はミネラルや旨味が全くないから苦労しました。」


現実世界と同じに丸大豆で作ろうとしたけど断念して、次に挑戦したのが『魚醤』


「『魚醤』と言えばナンプラーを思う人も多いかと思いますが、日本にも『しょっつる』や『いしる』といった有名な魚醤がありまして」


現実世界と異世界を行き来するから、現実世界で調べてこっちで作って行く……俺の料理もそんなものだ。


「ただ……」


さっきまで明るい感じのおじさんが暗く沈んでいる。


「最近……じゃなくて……ここ一カ月近く寝ても目覚めないのです。」


何かの謎かけ?


「ごめんなさい。ややこしかったね。異世界こっちで寝ても現実世界あっちで目が覚めないのですよ。」


ん?どういう事?


「いきなり見ず知らずの人にお願いするのも……恐縮ですが……他に相談出来る人はいなくて……」


それで冒頭の「やっと会えた」ですか。

確かに『来訪者』じゃないと現実世界あっちの様子は分からない……か。


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