044 ニンニクは最凶で
空には真円の月が周囲を照らし
黒狼の時とは違い、篝火は必要ない位明るい。
周囲の灌木や草原の草は水墨画のような
モノクロの世界と化していた。
遠吠えの主は街道の南からゆっくりと
こちらへと歩み寄ってくる………
遠目から見ても以前の黒狼が子犬と思えるほど
大きい……2メートルはあるだろうか。
毛並みは月明かりを映すかのような銀。
金色の双眸が俺達を獲物と見定め動かない。
今回はリリー達を守りながらの防衛……になるが、
幸い(?)な事に、敵は大きな銀狼1頭のみ
舞姉ちゃんは焚き火から10メートル離れた位置で
刀を抜き放ち中段の構えで銀狼へと向く。
「焚き火から離れないでねー」
あの大きい銀狼を前にしても堂々としていて……
舞姉ちゃんに恐怖心が欠如しているのかと思うが
今となっては妙な安心感に包まれる。
リリー達は焚き火後方の馬車の中で
窓からこちらを見ているが、手伝う気はないようだ。
馬2頭は馬車の陰で……繋いでいなかったら
逃走しかねないくらい嘶いていた。
銀狼は舞姉ちゃんから20メートル離れた位置で
『伏せ』の状態で力を溜めている。
半開きの口からはダラダラとこぼれ落ちるよだれが
月明かりに照らされていた。
俺と樹は焚き火の両脇でショートソードを身構え
楓さんは馬車の方へ少し離れて身構えている。
「くるよー」
舞姉ちゃんの言葉と同時に
銀狼は溜めた力を一気に解放して上空まで飛び上がり
舞姉ちゃんとの間合いを詰めた
両前足による連続した振り下ろしを
舞姉ちゃんは刀でいなし、相打つ
キイィィィィィィィィン!!
甲高い金属音が響いたのを皮切りに
銀狼のフットワークを生かした上下左右からの連続攻撃
舞姉ちゃんも
袈裟斬り
返し刀
突きからの薙ぎ払い
その度に剣戟が聞こえ、
舞姉ちゃんの気合いの叫びも重なる
俺も樹も……剣道は最近始めたばかりだから無理もないが
目で追うだけで精一杯だ。
隙あらばこちらへと抜けて来ようとする銀狼を
抜かれまいと突きを繰り出し隙を作らない。
ギアを上げ高速の振り下ろし、噛みつきの攻撃を
下段からの切り上げ、最上段からの振り下ろし一閃で
抑え込む姉ちゃん……
「じ……次元が違いすぎる」
一旦距離をとって身構える銀狼……
傍観するしか出来ない俺達だったが、そんな中
「竜司!ハンバーグはあるか?」
樹が訳の分からない事言い出した。
「あるにはあるけど……何を……」
「全部出せ!早く!」
言われるがまま全部出す。
焼いたハンバーグ20枚ごとに分けられた大皿5皿。
まだ焼いてない、形成済みハンバーグが100枚分。
「姉貴と竜司は片っ端から焼いてくれ!」
そう言うと樹はハンバーグ5枚をグチャッとまとめて
ハンドボール位の大きさにすると
20メートル離れた銀狼に向かって投げつけた。
「なっ!!何……」
「文句は後で受け付ける!今はどんどん焼いてくれ!」
樹はどんどんまとめて
銀狼へと投げつけるが、余裕でかわされるし
例え当たったとしても………
ダメージなんて与えられる訳がない。
もったいない………
そのうち……これが食べ物と分かった銀狼は
回避するのをやめ、フライングディスクのように
飛んでくるハンバーグをキャッチして食べ始めた。
大きい銀狼からすればハンドボール大の肉など一口。
銀狼は周囲に落ちているハンバーグも食べている
土埃に汚れたハンバーグもパクパクと……
………3秒ルールは気にしないよね……
(これでお腹いっぱいにして見逃してもらう気?)
樹の狙いが全く見えない中、俺と楓さんは一心不乱に
ひたすらハンバーグを焼いていく。
………戦闘中に料理をするなんてはじめてです。
焼き上がったら
今度はフライパンをラクロスのラケットに見立てて
銀狼へハンバーグを投げつける樹…………
舞姉ちゃんは警戒しつつも、
事の成り行きを見守っている感じだ。
……
………
…………
これを………膠着状態というのだろうか?
焼き上げては樹が投げつけ
銀狼はハンバーグを一気に食べる。
焼いている間、銀狼がこちらを攻撃する気配は……無い。
「これでラストだぞ」
ハンバーグどころか食糧のストック全部放出してまで……
最後のフライパンを投げようとした樹は
「よし!やっと効いてきた!」
と投げるのをやめ、フライパンを俺に返してきた。
銀狼は……立ち上がってこちらを見ているが……
フラフラ……フラフラ……と
足元がおぼつかない。
「???」
そして……とうとう横向きに倒れた銀狼。
ピクピク痙攣しているようにも見える。
「樹……これがお前の狙い?」
「ああ………竜司は聞いた事ないか?犬や猫に玉ねぎ食べさせたらダメって」
犬も猫も飼った事ないからなー
「だからハンバーグ食べさせてみた。」
でもあのハンバーグって肉100%なんだけど……
「知ってるか?ニンニクもヒガンバナ科ネギ属なんだよ」
「あ!有機チオ硫酸化合物!」
楓さんは樹の行動を理解したらしい。
俺にはさっぱりだ。
「ねーあれって大丈夫なのー?」
舞姉ちゃんも、銀狼が倒れているので安心と
こっちに駆け寄って来た。
「ああなったら大丈夫だよ。」
樹の説明によると、犬や猫に玉ねぎなどを与えると
有機チオ硫酸化合物の影響で溶血性貧血になるそうだ。
少量なら問題はないが、大量に摂取すると
溶血性……赤血球が壊され酸素が回らなくなり
最悪死に至る…………って怖っ!!
つまり、銀狼は大量の摂取で………
………あ……口から泡吹いてる
そして次の瞬間……
銀狼は
イディさんへと姿を変えていった。
一糸纏わぬ姿で…………
「竜司クンー」
「樹ー!」
それぞれ肉親によって意識をなくした俺と樹は
現実世界へと帰っていった。




