039 食物連鎖は目前で
2022年 5月14(土)〜15(日)異世界サイド〜
夜が明けたばかりのターガナ町の北門。
俺達は見送りに来てた人達に挨拶と握手をしていた。
この町へ来た時に案内してくれたビガーさんもいる。
ビガーさんは昇級クエストで
俺達がガラリーの町へ戻ると思っていたらしい。
そして黒狼を退治して
ガラリーとの交易が再開するのを望んでいた。
(俺達を囮に使おうとしていた?)
……いや。人を邪推するのは良くない。
こうやって見送りに来てくれたしね。
黒狼はそっちで何とかしてもらおう。
そしてこの町の騎士団長ソーバルさんの姿も。
「旅の無事と貴殿の活躍を願う。」
そう言って馬を一頭プレゼントしてくれた。
スパイスレシピのお礼……という事なのだが……
早速何人かの町人がスパイスレシピを求めて来たので
約束通り無償で提供したそうだ。
昨日の今日で早いな。
この馬は町の特産品を生み出してくれたお礼……
そう言われると断れない。
見事な黒毛の大きい馬だ。
サラブレッドの様な競走馬とは違って
足が太くて、ばん馬みたいな印象。
ただ……悲しいかな
俺達……誰も乗馬の経験は無い。
舞姉ちゃんも首を横に振っている。
乗馬経験あると思ったけどね。
年の功……ハッ!!危ない。
思考も『記録』されるんだった。
乗馬用というより荷物運搬用かな。
「ご厚意。感謝致します。」
スパイスの配合レシピはレシピサイトの受け売りなので
何だか他人のふんどしで戦う様な……変な気分だ。
「あのレシピが全てではなくて、色々組み合わせてみるのも面白いですよ。」
辛さに特化した料理にはなって欲しくないけど……
「それじゃ、また会いましょう。」
………
…………
……………
俺達8人は再び北への街道を歩き出す。
野営用の荷物は全て馬にくくりつけているので、
歩く速度も自然と早くなる。
……これ快適だわ
2時間位は歩いただろうか。
もうターガナの町影は全く見えない。
舞姉ちゃんはずっと楽しげに歩くので
理由を聞いてみた。
「なんかこうー諸国漫遊する時代劇みたいなのー」
そういえば大好きでしたね。
印籠振り回して暴れる時代劇。
それになぞらえると、俺と樹はお供で舞姉ちゃんが……
おっと……また地雷踏むかもしれないから、
思考を切り替えないと。
「しばらく街道を進むので問題ない。」
アズさんは淡々と
「街道の近くを水牛の群れが通りますが、こちらから手出ししなければ大丈夫です。」
コリさんは粛々と
「ただし、1人でいると危険だ。ハイエナに狙われるぜ。」
シランさんは生き生きと情報を与えてくれる。
それにしても3人共元気だなー。おぃ。
今朝、現実世界で目覚めた時
介護用パンツがはち切れんばかりの保水していたので
昨夜も相当搾り取られた事が伺える。
「で?リリーはどうしたの?」
北門を出る時は
「昇級クエスト再開じゃー!」
って力強く宣言してたのに、
その後馬車に籠ったまま、全く顔を出さない。
カーテンも締め切りで中の様子もさっぱりだ。
「リリー様は昨夜の疲れが抜け切れておりません。くれぐれも起こさぬ様お願い致します。」
コリさんが答えてくれた。
こっちの方が疲れて……ないのが不思議。
…………………じぃーーーーーー
…………楓さん?こっちを睨むのやめて下さい。
「よう。ロリ」
樹は黙ってろ。
リリーの所在を確認したのは藪蛇だったか。
情報によると次の町までは70キロ離れていて、
途中の30キロに小さな村があるという。
ターガナとガラリーの町間は草原と森だったのに対し、
ここから70キロはほぼ平原。所々に灌木がある
アフリカのサバンナを彷彿させる光景だ。
しかも高低差もほとんどなく、
街道の近くを水牛の群れが餌場を求めて移動している。
しかし……すごい頭数だな。
100〜200頭の群れの塊が何ヶ所か出来ている。
そしてその水牛を遠目に
隙をうかがっているハイエナの集団。
異世界版サファリパークって感じかな?
もっとも現実世界の様に安全に車窓から眺める……なんて
のんびり出来ないけどね。ハイエナいるし。
言ってるそばからハイエナが5匹……
水牛の群れからはぐれた2頭の親子の水牛を
執拗に追い詰めている。
ハイエナも群れで徒党を組んでいる水牛には
手出し出来ないが
こうやって群れについて行けない
はぐれた水牛を狙ってたのか。
アズさん達は行進を止めて、事の推移を見守っている。
俺達も倣ってアズさん達と離れない位置に止まった。
水牛の親子からは150メートル位の距離なので、
いつこっちにハイエナが向かってくるかわからない。
折角もらった馬が狙われても厄介だし
舞姉ちゃんも先頭に立って睨みを利かせている。
親子の水牛は群れに戻ろうと試みるが
2頭のハイエナに阻まれ、
残った3匹が子牛へと攻撃を仕掛け
親牛がそれを頭の角で追い払う
ただ……そうやって何度も攻防していると、
群れからはさらに距離がひらいてしまい
合流させまいとガードしていた2頭も攻撃に加わる。
さすがに5頭の攻撃は防ぎきれずに
とうとう子牛はハイエナに足を噛みつかれて
倒れてしまった。
起きあがろうとするも
足をやられたので立ち上がれない。
ハイエナたちはトドメは刺さずに
親牛へと攻撃対象を移す。
5頭はヒットアンドウェイを繰り返して
親牛の足ばかり狙い…………
まるで格闘ゲームでローキックしか繰り出さない……
「弱キックのハメ技だな」
「友達無くすプレイだねー」
………あんた達もよく俺にやってくれてたよね。
水牛とハイエナは友達ではないから構わないのか。
親牛は最後まで懸命に戦ったが、子牛と同じ道を辿る。
そして親の水牛が倒れた瞬間。
「今」
アズさんとコリさんが駆け出して
5頭のハイエナへと突進した。
………
折角倒した水牛の親子を持ち運べないハイエナ達。
獲物への一瞬の未練は
5頭のハイエナの運命を決定づけた。
魔術LV5『光弾連射』
魔術LV5『光弾連射』
素早く間合いを詰めたアズさんとコリさんから
同時に光の矢が複数放たれて
寸分違わずハイエナ達へと突き刺さる。
次の瞬間には5頭のハイエナは倒れ、
ピクリとも動かない。
あまりの早技に声を失う俺達4人。
アズさん達は苦しそうにもがく
親子の水牛にトドメを刺すと、
ハイエナ5頭含めて全てアイテムボックスへと収納した。
「今日の夕食は水牛を使って」
食物連鎖の頂点は身近にいたのか………




