028 野営の見張りは家族単位で
2022年 5月 9日(月)現実世界サイド〜
今日から4日間にかけて行われる中間テストは全部で12教科ある。毎日3教科で午前中のみ。
部活動は禁止期間で、最終日から解禁される。
料理部も午前中で終わるので、お弁当タイムも無し。
どのみち母ちゃんのお弁当は作らないといけないから、あまり関係はないけど……
作り終わった自分用のお弁当を冷蔵庫にしまっている時、LINEメッセージが届いた。
『姉貴がすまない事したって謝ってる。』
同時に謝ってるLINE熊のスタンプ。
本当この姉弟はLINE熊のスタンプ好きだなー
しかし……
もうちょっと早く冷静になって欲しかったよ……
とりあえずは『気にしないで。起こった事はしょうがない。』って返信したけどね。
成り行きで、慌ただしく始まった『昇級クエスト』
昨夜の異世界は結局ガラリーの町から2時間位歩いて、森のかなり手前の平野で野営した。町から7キロ位かな。
街灯も何もない異世界で夜間に森に入るのは自殺行為だと母ちゃんが言うので、まだ明るい内から野営の準備をしたのだ。
その判断は正解だったようで、
『アドバイスは不公平なのでしないのじゃ!』
と息巻いていたリリーも納得顔だった。
(そもそも片道40キロの往復護衛クエストが、何で300キロ護衛クエストに変わるのかと)
距離数3.7倍アップですよ。不公平すぎるだろ。
アドバイス位くれても良いバランスだと思うぞ。
………っていかんいかん。今日からは中間テスト。
思考を切り替えないと………怒りで英単語忘れてしまう。
さて、そろそろ7時だ。母ちゃんを起こさないと……
……そんな時、母ちゃんはのそりと台所に顔を出す。
「ごめんねー竜司クンー『新品』の寝袋」
………思い出してしまった。
『新品の寝袋』
また昨夜の異世界での事だけど、
テントと寝袋の買い出し用にって樹と母ちゃんに
渡したの。お金を。
所 持 金 全 額 袋 ご と
渡したの。
あの時の俺を殴り飛ばしたい。
全力で。容赦なく。
そして買ってきたのは
中古品の2人用テント1
同じく中古品の寝袋が2
なぜか『新品』の寝袋が2
所持金全額使い切って来やがったのだ。
[所持金 0]
しかも事が発覚したのは野営準備が完了した直後。
当然返品も変更もできません。
俺以外の3人は、『宵越しの金は持たない』を自で行っているんだ……と痛感したよ。
まさか全額使って来るとは思わなかったし、
絶対にお金の管理はさせないと誓ったよ。
………… はっ!!
やばいよ……こんな精神不安定の状態で、試験に集中なんて無理だよ………
…………
悪い予感というのは的中するようで
英語は最悪だった。
平均点の半分以下が赤点なので、他の人達次第だけど……
免れてはいると……思いたい。
「試験どうだった?」
平均点あげるヤツがここにいたわ。
「スペルミスが2箇所分かって落ち込んでる所。」
自己採点でも40〜45だよ。
「まぁ、始まったばかりだ。気持ちを切り替えて行こう。」
……くそう……余裕あるな。
今日の残り2教科は得意の理数系だから、英語を重点的にやったというのに………
確かに、気持ちを切り替えるか……
異世界の方も。
2022年 5月 9日(月)〜10(火)異世界サイド〜
「交代の時間だ」
真夜中に樹の声で目が覚める。
隣りで寝ている舞姉ちゃんを起こし、テントを出る。
桶に錬金術で作った水を張り、顔を洗っていると舞姉ちゃんも欠伸をしながらテントから出てきた。
見張りの順番とコンビはあっさり決まった。妥当な組み合わせといえば組み合わせか。
「そういえば、竜司に聞きたい事がある。」
ん?…何だろ。
「今日の英語の試験範囲はどこだった?」
………!!!
そうか。樹はまだ入眠してないから、
試験前日なのか!!
……本当に樹は抜け目無いな。
明日……というか今日?は見張りの番交代しようかな
そんな事を考え、今日の試験問題を話そうとしたら、
「ズルは許しません。」
舞姉ちゃんが仁王立ちして睨んでいる。
舞姉ちゃんの性格を忘れてました。反省。
異常無しの引き継ぎを経て、
俺と舞姉ちゃんが見張りを始めた。
見張りといっても、火の番をしながらただ時間が過ぎるのを待つ。
周囲に物音があれば注視するが、大抵は風による葉音。
もしくは焚き火の枝が爆ぜる音。
「油断はダメなのよー」
舞姉ちゃんの感は鋭い。緊張感が緩む瞬間を見逃さない。
星空と焚き火の火が光源の全てだ。
野営が森の中では厳しい理由もうなずける。
そして、それらを終始無言で見つめている視線が。
試験官のリリーは何をいうでもなく、ただ単に視線を送ってくるだけ。
試験官も大変だな。
そうそう。300キロって言われてもピンと来なかったから、現実世界で調べたの。
東京-仙台間が303キロだって。
新幹線で2時間かからない300キロ。
交通手段が無い異世界はどのくらいかかるんだろ。
そしてその道中での町や村など、いろんな人とすれ違うはずだ。楽しみの方が不安より勝つ。
1人だと厳しいけど、俺には頼もしいPTメンバーがいる。
白み始めた大気に軽く息をはくと、木の枝を竹刀に見立てて素振りを繰り返していった。




