021 寵愛(ちょうあい)の印は首筋で
小鳥のさえずりの中、ゆっくり目が覚める。
「知らない天井だ………」
そして全裸である事に気がついて、昨日の夜を……
記憶がなくなる直前を思い出す。
「あ………」
そうだった。ここはミリットさんの私室だ。
すでにミリットさんの姿はなく、ベットの脇にある椅子の上には綺麗に折り畳まれてある俺の衣類が。
ミリットさんの残り香が思考を混乱させるが、いつまでもこの部屋に留まる訳にはいかない。
着替えを済ませて部屋を……宿舎を後にする。
後ろめたさからかコソコソして移動するのは……側から見れば完全に間男だな。
とりあえず……家に帰るか。
「ごめんなさい。討伐クエスト取れなかった」
楓さんが申し訳なさそうにしている。
冒険者ギルド内で泊まるのと、近くの家からクエスト受注狙うのではハンデがあるからしょうがない。
現実世界で例えるなら、アトラクションのファストパス狙いと言った方がわかりやすいかな。
「討伐クエストは人気だし、気にしないで」
昨日フォレストラビット受注しといて良かったよ。
[残金 銀貨7 銅貨40]
「私が冒険者ギルド行った時は、まだ討伐クエスト残っていました。でも………」
身長が低くて掲示板に届かなかったらしい。
楓さんは現実世界だと170を超える身長なのに
こっちだと130位だから……
周りは……助けてくれないよね。
そして、ふと思う。
………舞姉ちゃんは年齢や髪の毛、肌の艶などに
………樹は筋肉が付きにくい体
現実世界のコンプレックスがこの世界では解消される容姿になっている。
ひょっとして楓さんは、現実世界の高身長を気にしてるのかもしれない。
異世界の自分自身の容姿を見た楓さんは、とても喜んでいたから。
じゃあ俺は?
年齢も身長も筋肉も………現実世界そのままだ。
他に何か要素があるのか?
……………
「竜司クンー。竜司クンー」
舞姉ちゃんの呼びかけて我に帰る。
「今日は討伐クエストないから、特訓。」
「え?特訓は樹じゃ?それに俺は夕食の準備が……」
一応の抵抗を見せてみるが、
「パンの仕込みなら私も出来るから安心して」
楓さん……なんだろう。外堀が埋まっていく感じが。
「それに現実世界で言いましたよ?強くなって下さいと」
………そうでしたね。
2時間ほど練習した時、俺と樹の右手に発光が。
「これって……」
俺と樹に『剣術 1/10』が生えてた。
早くないか?まだほんの触りしか練習してないぞ。
「なるほどねー」
舞姉ちゃんは納得した感じだけど。
「3級程度になれば、素質ありと認められるのねー」
樹と顔を見合わせるが、お互い『???』って感じだ。
「今、練習したのはー基本1から4なのよー」
正式名称が『木刀による剣道基本技稽古法』で
2時間ずっとその基本1〜4を繰り返してた。
「それでー、3級の基準がこの基本1から4なのよー」
これで剣術スキルが出なかったら
基本1から6(2級相当)
基本1から9(1級相当)
と試す予定だったらしい。
剣術スキルが生えて良かったよ。
夕食作りがあるので俺は解放され、引き続き樹は特訓へと戻っていった。……嬉々として。
「なんか……こう筋肉と会話しているみたいで………気持ちいいぞ!!」
へー。会話できるんだ。
樹って結構Mかも知れない。
冒険者ギルドに着くと……ミリットさんが走り寄って来た。
昨夜のキスを思い出し、恥ずかしくなる。
「リュウジさん。昨日はありがとうございました。」
なんか……肌のツヤとかすごくないですか?
昨日の夜とは別人みたいだ。
これも『食事』の効果か?
カーリさんの
「いいなー俺も欲しいなー」
ってつぶやきと視線が非常に怖い。
さらに怖い事に、ミリットさんが耳元に唇を寄せ
「今晩も……お願いしてもよろしいですか?」
と言うやいなや、首筋へキスされた。
破壊力抜群の……文字通り『悪魔のささやき』
パンツの件が無かったら絶対に落ちてます。
返答に困ってアワアワしていると、厨房から助け舟が。
「竜司君!!」
振り返ると………楓さんが………
微笑み浮かべ呼びかけて来た。
目が笑ってないけど。
「先に厨房で夕食作ってて下さい!!私はミリットさんとお話ししてきます!」
わー。ものすごい激おこだ。
俺はその場から逃げるように厨房へと向かう。
夕食はリクエストがあったので『ボアカツ』の再登板。
身体が資本の冒険者だけあって、夕食はコッテリ系が好むらしい。今回はラードがあるから本物の『カツ』だけどね。
そして今日がボアだったので、またラードが使えるように。
ボア→ウサギ→ヘビのローテーションでいいかなー
孤児院用のバスケットは今回3つ用意した。
子供達45人分としては微妙だけど
これ以上は俺が死ぬ。
………過労で。
受け取りは現実世界の予告通り楓さんとミリットさん
そしてなぜか樹とカーリさん、シェリルさんも。
「話し合いの結果……こうなりました。」
どう話し合ったら『こう』なるの?
楓さんに……元気というか生気が感じられない。
そして………2人の首筋にはキスマーク?
「魅了状態………2人共なのー」
舞姉ちゃんの氣功術LV 2 『状態確認』で
2人の置かれている状況は分かった。対処出来ないけど。
こりゃ舞姉ちゃんにもミリットさん達の正体を話して
対策を考えないといけないなー。
現実世界の明日は土曜日。
孤児院へ向かう5人を
俺と舞姉ちゃんは見送るしか出来なかった。




