017 お弁当はサプライズで
「どうしよう……」
朝食を食べ終え、出勤や登校まで時間があったので、母ちゃんに相談する。
相談する内容は、異世界でのキスの事ではなく、母ちゃんに指摘された
「この文脈だと、私……死んだ事になってないー?」
という一言だ。
「え!?」
改めて『日誌』を読み返してみるのだけど……
「確かに……これ……誤解されてる?」
そうなると……ミリットさんの同情を買って……
「俺って最低なヤツじゃないか。」
正直に話す?『実は舞姉ちゃんが母ちゃんで……』
それが出来ないから、こうなったんだし……
うーん。うーん。うーん。
「元々ミリットちゃんは、竜司クンに好意あったから、そこまで気にしなくてもいいとは思うけどー?」
そうなの?『ミリットちゃんも顔にすぐ出てる』って……
俺は全く気付かなかったけど……それに『も』って……俺?
「これも『恋愛の経験値』ってやつよー。」
『年の功』とは言わないんだなー。
「それよりもー。どうだった?ファーストキスはー。」
「いってきまーす。」
あぶない。あぶない。君子じゃないけど、危うきに近寄っちゃダメ。
逃げる様に登校したのだが
「どうだった?」
そういや、ここにもいましたよ。目撃者が。
「どうもこうもないだろ。いきなりだったし、一瞬だったし、訳わからんわ。」
「なるほど。記憶が飛ぶ程に嬉しかったと。」
どこをどう変換すればその受け取り方になるのかな?
「そんな竜司にプレゼントだ。」
俺の右手に握らせたのは、小さな正方形で「0.03」とだけ書かれている……ってオイ!!
なんて物を学校に持ってくるんだよ。……今日……持ち物検査とかないだろうな。無いよね?フラグじゃないよ?
「昨日、姉貴の出現位置を黙っててくれたお礼だよ。」
バレてたか。でも、樹が出現した時を思い出せば分かると思うけど。BLな展開になるかと思ってビックリしたが。
「それに、これ……どうやって異世界に持っていくんだよ。」
「別に持っていく意味で渡した訳じゃないぞ。避妊の心構えで渡しただけだ。」
え?樹って……すでに大人?
「……な訳ないだろ。一緒だよ。」
………どうやら、俺も思った事が顔に出てるようだ。
「とりあえず、財布にしまっとけよ。」
言われるまま財布にしまっておく。樹なりの祝福なのだろう。天邪鬼め。
「今日は、母が作りまして………」
お昼休みの調理室。1年で参加は俺だけで、上級生達が見守る中……母が作った弁当を取り出す。
そうなんだよ。今日は母ちゃんが作ったんだよ。
何年振りだろう。
……とはいっても早朝から電子レンジがフル稼働していたから、冷凍食品の詰め合わせだと思うけど。
台所に立ち入るのを禁止され、しかもお昼休みまで開封しないように何度も念を押された。
『鶴の恩返し』とかか?もしくは『おむすびころりん』の葛籠だ。
「料理部としては、自分自身で作って欲しい所です。」
ですよね。まぁ、今日だけだと思うけど。
とりあえず開けてみますか。
ブロッコリーとプチトマト。ミニハンバーグに海老フライ。
ほうれん草の胡麻和えとフライドポテト。
プチトマト以外は冷凍食品のつめ合わせで予想通り。
予想外だったのは、
ご飯が………お赤飯。
むう………やられたわ。
これか。これが狙いだったのか。
帰宅した母ちゃんを問い詰めると、
「『一応女の子』とか『舞おばさん』とか、酷いことを何度も言った竜司クンへのささやかな仕返しです。」
やっぱり母ちゃんを台所に立たせるのはやめとこう。
シンクも酷い状態だったし。
夕食後。ゲームをやりたかったけど、調べ物があったわ。
「髪の毛だけど、石鹸で洗うしか無いようだよ。」
母ちゃん……すんごい表情してますよ。この世の終わりみたいな。
「洗った後そのままにすると、ゴワゴワの髪の毛になってしまうので、髪の毛を弱酸性に戻す必要があります……か。」
母ちゃんの目に光が灯る。
「お酢やクエン酸で代用できそうだねー。保湿の方は椿油か。」
楓さんにもこの情報をLINEする。
すぐに既読つくとか……女性は大変だなー。
結局……樹が言った『石鹸で洗う』は正解だった訳だ。
そのあとのケアさえ十分にすればだけど。
異世界で椿油とか売ってるのかなー。
楓さんからはメラメラ燃えるLINE熊のスタンプが何度も送られてくる。
こういう所は姉弟なんだなーって思った。




