011 入学式は意外な再会で
「…………」
入学式当日の朝。清々しい気分……ではなく、どんより気が重い。
原因はもちろん昨夜の悪夢だ。アプリの記録にも
[無償バイト 残り100日]
と記載されてある。
「大丈夫よー。100日なんてあっという間だからー」
さすが年の功。経験者は語るってやつだな。
でも、バイトしている期間は町周辺のクエしか出来ないぞ?
しかも夕食用の買い出しと仕込みを考えたら、せいぜい午前中位か。
「それとねー。どうも私達3人はPT認定されている状態なのよー。」
「………ん?どういう事?」
「昨日、竜司クン薬草採取のクエ受けたでしょー?そのポイントが私と樹クンに入っていたのよー」
「な……なんだって!!」
「一昨日のスピアーズボアも私2頭、竜司クン1頭の討伐だったのに2人共15ポイントづつ入ってたでしょー?」
やっべ。初回以降ギルドカード確認してなかったわ。
「だから危険な外敵クエは私と樹クンで対処しますー」
「それだとランクだけ上がって経験が積めないのでは?」
現実世界のゲームみたいにソロだと役立たずになりそうで怖い。
「大丈夫よー私が訓練所で
徹 底 的 に 鍛 え ま す。」
何だろう。死刑宣告に聞こえたような。
「直線的にしか攻撃してこないスピアーズボアに対して、直線で対応してたら……命や残機がいくつあっても足りません。」
命はひとつだよ。残機なんてないよ。
「まずは自分自身を守る最低限の力を手に入れないとー」
それで一昨日スピアーズボアと戦っていた時、手を出さなかったのか。
俺の実力を見極める為に……
「それに、胸だけの小娘なんかよりも……私の方が教えるの上手なんだから!!」
………本音はそこかい。
嫉妬?いや違うな。母ちゃんのプライドか。
ん?それって……ああ……異世界2日目のアレかー。
銅貨10枚払って訓練してくれたBBランクのお姉さん。黒髪ロングの……確かに……革鎧越しだけど、結構大きかった。
「はっ!!」
無言で見つめて来るのやめませんか?目が怖い。
その殺気……息子相手に出しちゃダメ。絶対。
入学式は午後からなので、ゆっくりと朝食。
片道40分だから明日からは6時起きかなー。
自転車通学は認められているけど、延々と坂道なので……行きは楽チン帰りは地獄。おとなしく徒歩通学だな。
今日は母ちゃんの軽自動車。毎日送って……くれないよね。
まだ時間に余裕あったからゲームの討伐クエ。
何回も死に戻りしたからか、段々と敵の攻撃パターンが見えてきた。母ちゃんみたいにギリギリの回避は出来ないけど、回避しつつ攻撃……カウンターが決まりはじめた。
「異世界でもこんな感じに出来れば、安心して一緒にクエ行けるよー」
なるほど。目標はこれかー
切りがいい所で時間的にもそろそろ行くかな。
山の麓にある県立高校。全日制で生徒数は全校生徒合わせても100人以下の小さな学校だ。ほとんど地元の中学出身で占め、クラスは各学年1クラスのみ。
体育館の入り口で入学資料をもらい、新1年の人数を確認。
男子10女子19の29人だ。
「男子さらに2名減った?」
「都市部の進学校に行ったんじゃね?」
「逆に女子が1人増えたか。」
定刻なるまでの時間を隣の樹と小声で雑談。
元々定員割れしている学校だ。合格発表から入学式までの間にこういった人数の増減があるのも地方ならではの事。
「樹は進学校にしなかったんだよなー」
「片道2時間とか嫌だよ。勉強はネットで十分。学校は近場1択なの。」
真に出来るやつは言う事が違うね。
入学式の式典、担任と副担任の紹介を経て教室へ移動。
席順は名前順なので中学と同じく、樹の後ろの席だ。
「お!あの子が編入生かな?」
樹が窓際に座る女子を目ざとく見つける。
「おいおい。ここは県立で、私立のエスカレーター式じゃ……」
そう言いかけて固まってしまった。
窓際の席にポツンと腰掛ける同級生は、異世界で俺に戦い方を教えてくれたお姉さんにそっくりな顔と髪と……胸をしていた。
その後……自己紹介とか入学初日のイベントが色々あったけど、ほとんど覚えていない。
ただ覚えているのは
吉沢 澪 (よしざわ みお)
彼女の名前だけだった。




