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せめての慈悲を

 家に帰ると父と義母が待ち構えていた。

 父から労れることなどないとはわかっていた。


「おまえのような面白みのない女は婚約破棄されるのも妥当だろう」

「お父様、申し訳ありません」

「だが本来その立場は可愛い妹ビアンカのためのものだ。そんな提案もできないのか」


 まさかそう詰られるとは。


「まさか男爵令嬢に盗られるとは思わなかったわ」

 義妹も呆れた様子だ。殿下は私よりも彼女の方がよかったのか。


「家に迷惑をかけ、申し訳ありません。可能であれば修道院に行きたいのです」


 頭を下げ、それでも慈悲を求める。よくわからない人に嫁ぐより、修道院で神に祈っていたい。どうか家に迷惑をかけたりしないから、そのくらいは許してほしい。


「そうね、お姉様みたいな人には修道院がお似合いだわ」


 義妹も肯定する。彼女にとっても私はいなくていい存在だ。どこへ行こうとどうでもいいのであろう。

 しかし義母はうーん、と考え込むような仕草を見せた。


「それじゃつまらないわ。だって可愛い私の子が王太子の婚約者になる筈だったのに」


 嫌な予感がする。


「それに辺境伯って鞭がお好きなんですって。あなたのような駄目な娘はきっと厳しく躾けて貰えるわよ?」


 愉快そうな嗜虐的な笑みを浮かべ、義母はそう言った。


「何しろ結構なお年だと言うし。きっとしわしわの枯れ枝のような手でおまえのことを可愛がってくれるでしょうね」


 今にも舌なめずりをしそうな表情は肉食獣にそっくりだ。彼女にとって私が苦しめば苦しむほど嬉しいのだろう。


「何より殿下が決めたこと、私達は覆せないわ」


 そう言い放つと部屋にやって来た従者の側へ行く。何やら耳打ちされている。


「まあまあ、よほど嫌われていたのね。今夜中に経つよう迎えの馬車が来たようよ」


 別れを伝える相手もいないけれど、それでも猶予があると思っていたのに。まさかもうここを出ることになるとは。


「さすがに早すぎない?」

 義妹も驚いたように眉をひそめた。そんな彼女に侍女が近寄った。私の大切な侍女、母がいた時からずっといてくれた、義妹に取られた侍女だ。


「ビアンカお嬢様、お願いでございます」

「なに?」

「どうか私をブランシェお嬢様と一緒に辺境へ連れて行ってください」

「あなたを?」


 ああ、嬉しい。彼女がいてくれたらどんなに心強いだろう。そんな期待が顔に出ていたのだろうか。


「駄目よ。お姉様には私の侍女を付けるわ。あなたは私のお気に入り、あなたの主人はこの私よ」

 私の侍女、と呼ばれたその侍女は口角をにたりと上げて、私を見て鼻で笑い、こう言った。


「さ、ブランシェ様、さっさと荷物をまとめてください。迎えの馬車を待たせるのは失礼ですよ」


 私は少ない荷物をまとめると家を出た。誰の見送りもない。義妹の侍女だけが付いてきた、面倒臭そうな顔を隠そうともせずに。


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