突然の婚約破棄
どうしてこうなってしまったのだろう。頭の中は真っ白だ。
私の大切な婚約者、私を救ってくれる人、私の唯一の希望。目の前にいる愛しい人。
この国の第一王子であり、王太子であるその人。
その腕には私ではない女性が絡みついている。私の婚約者は一度その女性に甘くとろけるような視線を送り、それからまたこちらを睨め付けた。
彼女への態度とは反対に、視線は冷たくその口から出される言葉は槍のように心を抉る。
「ブランシェ・テネーブル、貴様との婚約を破棄する!おまえのような悪女と私が婚姻すると思ったか?」
王宮で開かれた舞踏会の真っ只中。集まる貴族たちは遠巻きにこちらを眺めている。面白いことが始まったと言わんばかりの醜悪な笑いを隠そうともせずに。
あそこにいるのは義理の妹だ。ああ義母が可笑しそうに口角を上げている。
せめて涙が溢れないように、しっかりしなくては。
「私に至らぬ点があったのは認めましょう。でも決してそちらのご令嬢を虐めるようなことなど……」
だって私は何もしていていない。信じてほしいのに。
「は、まだ言うか。おまえが愛しい私のドルチェを虐めていたのはわかっておるのだぞ!」
せめて私の味方になってくれる者はいないだろうか。ちらりと上座を見れば王と王妃もこちらを見てニヤニヤと笑っている。
王妃には直々に王妃教育を受けたが、覚えが悪いと折檻を受けるのは常だった。私は見放されたのだろう。
王に至っては息子の婚約者に対して……、口に出したくもない。事前に察知し、逃れることができたが。
「わかりました。謹んでお受けします」
よろけそうになりながら、それでも会場を後にしようとする。
家にはもう戻れないだろう。義母と義妹を愛する父が私を許すはずもない。どこか遠い修道院へ入れて貰おう。
「待て待て、話はまだ終わっていないぞ」
その言葉に視線を向ければ、元婚約者は嫌な笑みを浮かべていた。
「おまえのような女を野放しにはできないからな。罰として老辺境伯に嫁ぐがいい!!」
その言葉に周囲からどよめきと笑いが起こった。
老辺境伯、噂で聞いたことがある。この平和な世ではお飾りな辺境伯。王の覚えは悪く、加虐的な性格で人を甚振るのが大好きな冷酷な男だと。
「おまえはこの王都から離れ、一生彼の元で可愛がられればいい!死ぬまでな!」
嘲る言葉に私は唇を噛み締めた。
小さな小さな希望が粉々に砕け散った瞬間だった。
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