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27 バレちゃった俺

 ハインツは俺を好きだと言う。


 俺は動転していても、こいつに殺されたくねええ~って恐怖は消えてない。

 だけど同時にこいつって良いとこもあるし、とても不器用な奴でもあるんだって思ったらその恐怖が薄れた。


 結構割と先入観でハインツ・デスカを見てたんだなって反省もした。


「お前の本当の名を聞かせてもらっても?」


 ベッドの端んとこで依然ハインツは真摯に俺を見下ろして、俺は面食らった心地で彼を見上げる位置関係でいる。

 他方、エドも変わらず部屋の端っこで屍のようだって感じだ。


「ダイスケ」

「ダイスケ? 男性の名にしても聞き慣れない響きだな。もしやこの国の者ではないのか?」

「あー、そこは到底信じられないとは思うけど、俺はこの国って言うかそもそもこの世界の住人ですらねえよ。異世界から魂だけで連れて来られた」

「なるほど」

「なるほどって、納得できてんの? そんなすんなり?」


 このスムーズな反応、ハインツもハインツで何か奇跡体験をしたんだろうか。

 そんなハインツは一人何かを思案するように半目を伏せる。


「この世には不可思議な力や存在が皆無ではないようだから、異世界は元よりそういう現象も時に起き得るのだろうな」

「なあ、もしかしてあんたも何か超体験した事あんの?」


 ハインツは意味深ににやりとしただけだった。どっちだよ……。


「まあいいけど、天使とかの超存在に関しては俺も同感だよ。こと俺の場合は実体験だしな。でも普通はそう簡単には信じられないだろ? 異世界云々って何つーかほら、神様を信じるのとはちょっと違うって言うかさ」

「そうだな。普通はな。だがお前の言葉だ」

「な……」


 何だよそれ、妙にこそばゆいじゃん。


「ダイスケ」

「な、何?」

「呼んでみただけだ」

「……ああそ」


 こいつがハインツ陛下じゃなければ「んだよおい」って噛み付いてるとこだぜ。


「一つ訊くが、向こうの世界に恋人はいるのか?」

「いきなりの話題転換だな。まあいいけど。今はいない。当分カノジョはいいやって期間っつーの? 直近で別れた相手とちょっと色々あってさ」

「そうか」


 ハインツは彼自身、周囲に群がる女性たちを思い浮かべたのかもしれない。ちょっとうんざりしたような表情を作った。


「まあ、ダイスケに特定の相手がいなかったのは、言い方は悪いが私にとっては好都合だと思っていいな」

「あー、ははは」


 こいつって案外ストレートなのな。最初は寡黙な男かとも思ってたけどこうして喋ってくれるし。


「しかし不思議な感じだな。言い慣れない名のせいか、恋人を呼ぶのに照れ臭さを感じるのは初めてだ」

「こっ恋人おおお!? いやちょっとまだ俺承諾してねえけど!」

「その体、つまりアデレイド・ロジェは私の恋人と認識されているようだが?」

「あー、そうだったねー」


 けど俺はハインツラブって振る舞うつもりはねえぞ。

 ハインツがふっと笑ったような息を吐く。


「遠慮なく私を本当の恋人と思って接してくれていい」

「あ、はは……そりゃどうも」


 もし俺が好きになれないって言ったら殺されるんだろうか。試す勇気はないけど。

 それに何だか変に甘やかされてるような空気に落ち着かないんだよ。

 とりあえずは、この近い距離をどうにかしよう。


「えっとあのさ、もうきっとこの街の状況も好転するだろうし、安心して皇帝業に戻って大丈夫だから。シスターに頼んでこっそりこっから出してもらえるようにするし」


 だから帰れって明るくからりとして言ってやれば、ハインツは俺の腕を引いた。目論見に反してぐっと距離が近くなる。


「なら、共に帰ろう」

「え」


 ハインツの真面目な面持ちが既に出ている俺の答えを鈍らせる。まだ帰るわけにはいかないのに、ひたと見据えてくる双眸が落胆の色に染まるのを見たくないと思ってしまった。


「悪いけど、まだ帰れない」


 絞り出した声には苦渋が滲んだ。


「何故だ? ここの者たちが心配だと言うなら、もうじきここに留まる理由はなくなるだろうに。もしや、確実な好転を目にしなければと思っているのか? それなら二、三日もすれば見えてくるだろう。その時に改めて迎えに来よう」

「い、いや実はしばらく滞在しようって思ってて~……。ほ、ほらハインツの安産いやいやいや安全を祈りたいなって思ってさ!」

「ここでなくともいいだろう?」

「いいや、ここじゃないと駄目だ」


 俺の頑固な口ぶりにハインツは不服そうに口元を引き結ぶ。そして何を思ったか俺の腰に腕を回して自分の方に引いた。必然的に立たされ密着する。抱き寄せられているから顔と顔の距離がキスできる程に近い。


 ナンダコノジョウキョウハ!


 掛かる吐息が思ったよりも熱いし、ラブに燃えてんのか布越しとは言えこいつの体も熱いから無駄に意識しちゃって羞恥心が込み上げる。


「お前がここに居ては、教会との取り決めがあるから自由に魔法を使えず、好きな時にお前の顔を見れない」


 ハッハ~だからこそのチョイスなんだぜ~いハインツ君、とは口が裂けても言えねえ……。

 俺の動揺と慄きを知ってか知らずか、ハインツは困ったような弱ったような表情を浮かべた。


「お前は、私と会えなくて少しも寂しいと思ってはくれないのか?」


 ……ええっと、こいつはハインツだよな? ホントにあの威風堂々たる冷酷皇帝なんだよな?

 こんな切ない顔すると思わなかった。

 ぶっちゃけこいつ怖えから会わない方が精神衛生に良いぜって俺と、それと相反するこいつの傍に居てこいつを理解してやりたいって俺がいる。

 いつの間にか俺の中に芽生えていた後者の感情を、切り捨てたらいけないって何でだか思う。


「えーっと、一年! 一年待ってくれたら必ず帰るから!」

「一年?」


 怪訝にするハインツは明らかに不機嫌そうに片眉を持ち上げた。


「駄目だ、さっきは気長にと言ったが、そんなに待てない」


 急に抱き上げられて柔らかな動作でベッドに下ろされたってか寝かされた。

 え……めっちゃ天井が見えるんですけどー。


「今だって、このままお前を抱きたいのを必死で堪えているんだ」

「何いっ!?」


 とんだ破廉恥発言をしてくれたよこいつ!

 エドの存在は最早綺麗さっぱり部屋の埃扱いだ。おいこらハインツがこれ以上ラブッちゃう前にさっさと起きてくれエド~ッ。しかし俺の心の叫びも虚しくエドは黙したまま動かない。くしゃみで場を凌げるかもしれない埃の方が余程役に立つなおい!


「アデレイド、いや、ダイスケ」


 ザ・半裸ってファッションのハインツが耳元に唇を寄せてくる。


「今後のためにも試しに一度、私のものになってみるか?」

「は!?」


 はあああああ!?

 それはあれか、そういう意味か、だよな!!

 おいこら皇帝様、ここは厳格な修道院内ってわかってる? 場所を考えて物を言え!

 唖然となってしまって動けない俺の上で、色気駄々漏れなハインツがゆっくりと口の端を上げて笑む。

 冗談じゃねえ。


 だって俺は妊婦なんだ。


 子供に悪い影響が出たらどうしてくれる。まあそれなりのやり方はある……っていやいやいや、こいつは俺の妊娠を知らねえし、それ以前に気持ち的に駄目だ。

 だけど、心拍数MAXで耳まで赤くなってるだろう俺はどうしてか強い拒絶ができないでいる。

 だってさ、思い返せばさ、今までの経験からさ、俺は押しに弱かった~~ッ。

 カノジョは気の強い娘ばっかだったっけなあ~。

 ハハッ今度は気っつか殺気の強過ぎるお兄さんでどうだって?

 どうするよ……ッ……ッ。

 頼むエド、絶望の暗闇からマジで現実世界に戻って来てくれ。こいつだって正気の部下がいるとこじゃまさか致さないだろうし。


 俺も俺でよく考えろ。


 今のこの図を俺たちの生身じゃなくて魂に置き換えるんだ。

 美形男女のラブシーンじゃない、ハインツと俺、つまりは男と男のムサい図なんだって想像してみろ。きっとこれまでのノーマルな俺が「ノー」と言うはずだ。


 横浜の夜景並みにキラキラした中、大量の赤薔薇が咲き乱れ花弁さえ舞う下で俺とハインツが熱く見つめ合っている場面が浮かんだ。昔の漫画みたいなキューティクル多目のシャラランな顔で。


 あ、れ……?


 何だこれ、全然駄目じゃねえ……じゃん?


「ダイスケ、承諾の意と思っていいのか?」


 いや駄目だあああああ!


 その甘い囁きマジで勘弁してくれ。せめて動揺の元を見ないようにと俺はぎゅっと目を瞑った……ってキスしてどうぞだよこれじゃあああ!

 失策を悟った俺は焦って血走らせる勢いで両目をくわっと見開いた。

 しかしもう唇が触れそうな距離だった。


 陛下あ~お待ちになってくれえ~~~~っ。


「――ななな何をなさっておいでですかあああ!」


 その時、天の助けか不意の大音声にハッとなった俺は反射的に両腕を突っ張った。


 ハインツを押しやる格好で出所を見やれば、扉口でムンムが赤なのか青なのか忙しい顔色で俺以上にくわっと大きく目を見開いている。


「ム、ムンム!」


 つ、ついに来てくれたんだな。救世主が……っ!


「いくら若気の至り(再)で想いが余りに余って抑え切れなかったとしても今は駄目です! お嬢様にそのようなご無理はいけませんっ!」


 俺がベッドに押し倒されてるっつー光景が思った以上に年配者には衝撃的だったのか、ムンムは急いで俺とハインツを引き離さないと今にも俺が死ぬとでも思ってるみたいに、泡を食った顔でわたわたとこっちに駆けてくる。

 後から聞いたら、シスターに案内されてこの部屋の前にやってきたムンムだったけど、漏れ聞こえた会話から俺が迫られてるって気付いて慌てて入ったんだと。

 とにもかくにも助かったあ~。


「即刻お嬢様から離れて下さいッ!」


 ホッとする俺の耳にムンムの鋭い訴えが聞こえる。うんうんもっと言ってやれ。


「貴様に止められる筋合いはない」


 しれっと言うハインツだったけど、彼は必要ならムンムを排除しようと考えてそうな目の色だった。ムンムの方も殺気に気付いたのかごくりと唾を呑む。

 しかしムンムは引き下がらなかった。


「す、筋合いならありますとも。お嬢様の主治医なのですから。ですから見過ごすわけにはいきません」

「ほう? 人の恋路の邪魔をして命を投げ出すつもりか?」

「この老骨、必要ならば……!」


 ム、ムンムーーーーッ! ムンムムンムムンムーーーーッッ!

 惚れていいかムンムって感激している俺の傍で、ハインツがどこか嗜虐的な色を宿す。


「高々屋敷医が、どうしてそこまでする?」

「どうしてですと? そんなもの決まっております。お嬢様は、お嬢様はッ――妊娠中なのですから!」


 なのですから、なのですから、なのですから……とムンムの声がリフレインした。


 あ……?


「――あっ!」


 綺麗なあの形で口を開け蒼白になったムンムとバッチリ目が合う。


 そしてうっかり口が滑ったムンムはムンムじゃなくて、一瞬でムンクになった。あの叫ぶ奴。


 うおいッムンムッ、この馬鹿ちんがーーーーーーーーーーーーッッ!!!!


 ハインツがゆるりと身を起こし俺からゆっくりと離れた。


「……今、何と言った? 妊娠中、だと? アデレイドが?」


 低い、ハインツの気色ばんだ声が耳朶を打つ。


 肩を震わせてビク付いた俺は皇帝様の方を見れずに硬直するしかできない。

 ああもう、こんなの死亡フラグ確定じゃん!

 ムンムの後ろに居たおばちゃんシスターは手を口に当てて「あらまあ」って驚嘆の声を上げている。でもその顔にはやっぱりそういう理由でここに来たのねって感じの合点が薄ら含まれていた。


「答えろ。アデレイドは、現在妊娠しているのか?」


 俺もムンムも放心してて、すぐにはハインツの問い掛けに答えられない精神状態だった。

 だって誰しも首をギロチンに固定された状態で冷静でいられるかっての。いつ断罪の刃が落とされるとも知れねえのに。

 子供ができたら処刑だって言うし、よしここは冗談だったって誤魔化すのが唯一の生存への道だあ~……なんて手が通じる相手じゃねえ。駄目だ詰んだ。めっちゃ詰んだ。


 どうして何でここまで来て口が滑るんだよムンム!


 嘆いてみても、俺たちの処断は今やハインツの手の中だ。

 俺たちの死後硬直いやいや極度の硬直を見て取ったのか、ハインツはしばし反応を待った後小さく溜息を落とすと「一旦座って、少し落ち着いてから話を聞かせてもらおうか」って提案してきた。無論誰も否やを言えない。まあ当然だ。シスターは彼の服の調達を口実にこの場を辞したけど、何となくしばらく戻って来ない気がする。誰だって命は惜しい。今のこの部屋に留まるのは生命のリスクしかねえもんな。


 テーブルを囲んで着席したのは俺とムンムと向かいにハインツの三人だ。


 エドは、まあ、未だに床で死んでる。

 一分経って二分経って五分経った。テーブルの上には変わらずに大きな沈黙が鎮座している。俺もムンムも俯いたまま押し黙り微動だにできない。

 ハインツも眉間にしわを寄せて両目を閉じて怒りを堪えているのか唇はへの字だ。

 いつまでこの時間は続くんだ。気圧が標準の二倍はあるように感じるぜ。

 しかし、自分からハインツに声を掛けるのは躊躇われた。だって怖えもん。

 ムンムに何か言えって意味で横肘を突いて促せば、居心地悪そうな眼差しが返ってくる。

 俺にこそ何か言ってくれって目だ。

 ……ふう、仕方がない。


「ところでムンム、どうしてこの街に来たんだよ」


 急に本題だと思考回路が硬化するからまずは全然違う話題で気を取り直そうぜ!

 小声の俺にムンムはお前状況見えてないのって顔でより青くなったけど、俺は答えを期待して敢えての無邪気顔だ。


「お、お嬢様……」


 俺の言動の中心にある「気分一新・現実逃避・心機一転!」ってよく教室前方の壁とかにある学校の理念みたいな文言を酌み取ったのか、ムンムは観念したように肩で嘆息する。そしてぼそぼそと答えをくれた。

 ムンムは医師同士のネットワークでこの街の異常を知り、そこの修道院に俺がいるからこそ心配で来たらしかった。俺に女子修道院を勧めたのはムンムだし、ロジェ家の医師としての責任感もあったんだろう。必要なら俺の健康状況をチェックして相応の対応をシスターたちに要求するつもりでもあったんだとか。

 ムンム……ッ。ちょっと感動すらした俺だったけど、この最悪な状況の元凶はこいつの口だったぜ。


 俺たちのコソコソ話を不愉快に思ったのか、向かいの席のハインツが小声で何かを言った。


 俺もムンムも肩をビクッとさせて飛び上がりそうになる。

 恐る恐る目を向ければ、彼は目を閉じ俺たちに注意を向けている様子はないからたぶん独り言だったんだな。


 でも何だろ?


 するとハインツがまた独り言を呟いた。


 その眉間には峻厳な奈落の谷を思わせる溝が深く刻まれ、実に苦悩に満ちている。


 ちょうど興味本位で耳を欹てていた俺は、その一部をたまたま聞き取れてしまった。ムンムもじっと耳を澄ませていたっぽいけど、年なのかちょっと聞こえてないみたいだ。


 スッと血の気が引いた……。


 だってハインツの奴、ハインツの奴……ッ。


 ――やはり殺すしかないのか。


 ってそう呟いてた。

 その文の目的語、つまりは殺されちゃう相手ってのはこの限られた状況から言ってエド……なわけねえなっ、俺だよ俺ッアデレイドだよッ! もしかしたらムンムもその随伴に加えられるかもしんない。


「ム、ムムムム~……ッ」

「ど、どうされましたお嬢様!? 陣痛ですか!?」


 急な恐怖で一時的に呂律も回らなくなった俺が涙目で言葉にならない危機を訴える。


「落ち着いて下さいお嬢様! はい、いきんでー!」

「いやそっちこそ落ち着け! まだまだ先だろ! それより、今の聞こえたか? ハインツの台詞聞こえたかっ?」


 言語を回復し器用に小声で叫ぶ俺へとムンムは困惑して首を振る。


「殺すしかないって、殺すしかないって言ってたんだよあいつ……!」

「な、何ですと!?」


 さすがにムンムもこればかりはチビりそうに顔色を失くした。


「きっと俺とムンムは一蓮托生の運命だったんだな」

「お嬢様あ……っ」

「――お前と一蓮托生? 何の話だ?」


 ひいッ!

 急に割り込んだ声に俺もムンムも竦み上がった。

 ハインツだ。


「どういう意味だ、お前とそこの老人が一蓮托生とは」

「だ、だってあんた、おおお俺を殺す気なんだろ。妊娠を一緒に隠してたムンムも連座だろうからだよ」

「……」


 何もしないよりはマシと俺は両手を合わせて頭を下げる。


「頼む見逃してくれッ! あんたに迷惑はかけねえッ。どっか遠くの外国に行ってもいい! だから腹の子も俺も、ついでにムンムの命も助けてくれ!」


 憤慨のためかハインツは喋らない。

 俺は背中が石膏になるんじゃねえのってくらいに硬直して処断を待つしかない。さっきとは全然別のドキドキで心臓がはち切れそうだ。ゴクリと何度唾を飲み込んだだろう。隣のムンムも同様だ。

 ハインツは険しい顔のまま再び両目を閉じている。

 こいつの中で俺たちの処断を迷っているのか? 仮にも俺に告白してきたばっかだし、好きな相手を冥府送りにするのは忍びないとか思ってんの?

 だとしたら生き延びる道はある?


 ハインツは考え過ぎているのか、どこか顔色も悪い。


「ハインツ?」


 返事はない。


「ええと、怒ってるんだよな、ハインツ?」


 この問いにも反応はなかった。

 しばらく経っても何も言わないからさすがに俺も不審に思ってテーブルを回り込む。


「なあ、ハインツ、きちんと話をしたいんだけど」


 そっと肩を揺すってみた。


 すると、ぐらりとハインツの頭が傾いで、俺に寄り掛かってくる。


「え、ハインツ? どうし……熱い?」


 驚いてハインツを支えた手が彼の額に触れて、その熱の高さが伝わってきた。


 何でこんなに熱いんだ?


 意識もない。


 よくよく見れば具合の悪い人が見せるような冷や汗が滲んでいて呼吸も浅かった。


 もしかしてずっと苦い顔をしていたのは体調が悪かったから?


 苦しげなハインツが小さく呻いた。

 まさかこいつもこの街の住人と同じ病に罹ったのか?

 言いたくないけど、修道院や街中の患者には死人だって出ていた。

 一気に胸中に言い知れない不安が膨れ上がる。


「おいハインツ、ハインツ! しっかりしろって!」


 どうしよう、こいつを助けてくれって俺は縋るような目でムンムを見やった。


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