44.当たり前のように秘密を明かされる
森人の集落は意外にも、二人を受け入れた。というか、来る者拒まずを体現した種族だな。二人だが、うち一人は石棺に入ったままだ。動き回れるベリアルは、集落の外側に魔法で石造りの家を建てた。棺も家も石だが、ベリアルは石に思い入れでもあるんだろうか。
奥へ棺を置いて、夜は魔力を流しながら祈るように過ごす。ベリアルって、尽くすタイプだったのか。そんな感想を抱きながら、昼間はあれこれと魔法で助けてもらった。集落で必要な木々の伐採や薪づくりもベリアルの魔法があれば一瞬だ。
時間が空いた分、余暇を楽しむ森人が増えたのはよい変化だった。石鹸や風呂に興味津々のベリアルは、バルテルに誘われて入浴体験する。僕が日本式を広めたため、まず体を綺麗に洗って湯船に浸かった。お湯をこんな風に使う贅沢は、魔王城の一部の者しか甘受して来なかった。
ベリアルは幹部だったし、アスモデウスが入浴好きだったので入ったことはあるが……石鹸は知らない。たっぷり泡立てて得意げな顔をする琥珀の様子に、真似をして驚いていた。ハーブを使っているので、肌に香りが残るのが気に入ったようだ。
アスモデウスも石鹸は好きだと思うぞ。綺麗好きだったし。
「魔王はいつ蘇るのだ?」
けろりと繊細な部分を抉るシェンは、泡立てた石鹸を追いかけながら尋ねる。手で掴むがぬるりと滑って、また慌てて追いかけた。その情けない後ろ姿に、悪気はないと感じたらしい。ベリアルはくすくす笑った後で、風の魔法で石鹸を拾った。
「そうですね。あと40年ほどでしょうか」
「思ったより早いな」
ドラゴンと魔族の重鎮の時間感覚はおかしい。いや、人間の感覚と違うだけか。僕や琥珀にしたら、長い年月なんだけど。少ししたら夫が出張から戻るのよ、程度の感覚で言われても。
『琥珀は、40年後にアスモデウスに王位を返せばいいのか』
その頃にはいい年齢だし、無理に王を続ける必要はないのかもな。そう思った僕に、ベリアルがきょとんとした顔で首を傾げた。
「おかしなことを言いますね。40年など一瞬でしょうに」
「そうだぞ。琥珀は人間じゃないからな」
『は?』
失礼ながら、それしか声が出なかった。ちなみに当事者の琥珀は、僕が教えたお風呂のタコさんに夢中で聞いていない。お風呂のタコさんとは、濡れた布で空気を包んでから湯船に沈める遊びだ。本当は湯船にタオルを入れたらダメなのだが、専用の布を用意することで許可した。
なので、この布はいつも風呂の端に掛けてある。顔を拭いたり体を洗うことに使われないよう、注意書きも添えられた。森人は現在幼い子どもがいないため、琥珀専用だけどな。
「コハク様からは、全盛期の私を凌駕する魔力を感じます」
『僕のせいじゃなくて?』
「ええ、まだ目覚めていないようですね。数十年は放置して平気でしょう。今の小さなお体であれほどの魔力を扱えば、成長に支障が出ます」
僕の魔力で魔法を使う方法は問題ない、と。ベリアルは魔王の側近だっただけあり、魔力や魔法について詳しい。アルマさんも太鼓判を押してくれたので、今後しばらくは魔法の先生をお願いすることにした。
人間じゃないと断言したシェンに話を聞きたいが、両親を覚えていない琥珀の前で聞きづらく……後回しにする。シェンじゃなくて、ベリアルも何か知ってそうだし。ぶくぶくと小さな気泡を出しながら、僕は琥珀によって風呂に沈められていた。この状態からの脱出が最優先だ。




