41.魔王城攻撃作戦
ばさり……大きな羽を広げて飛ぶシェンは、背中ではしゃいだ声を上げる琥珀に声をかける。
「その綱を離すでないぞ。落ちたら痛いからな」
普通は痛いじゃ済まない。間違いなく地面でミンチだと思うが、琥珀は僕を首にかけている。魔力供給源の僕が途中で離れない限り、魔法で何とかするだろう。それ以前に僕も魔法が使えるし。厨二呪文の羞恥に耐えれば、かなり使える魔法使いのはずだ。
「わかった。シェン、次はあっち」
「散歩じゃないんだがな」
そう言って笑うくせに、ちゃんと遠回りしてあげるあたり、子どもが好きなんだろう。シェンはふらふらと左右に寄り道しながら、魔王城へ軌道を修正する。
「今からすごい魔法を見せてやる」
宣言して期待値を高めたシェンは、魔王城へ滑空した。結界で保護されているが、飛んでくる矢や攻撃魔法が降ってくる。それらを掻い潜った古龍が火を噴いた。ぶわっと熱が結界越しに伝わる。高温の炎に焼かれ、迎撃に出てきた魔族が落下した。
翼を持つ魔族はおよそ四割、ドラゴンに勝てる種族はいない。ベリアルさえ、空中戦ではドラゴンに勝てないだろう。圧倒的強者の立場で、魔王城を襲った。右往左往する魔族を放置して、ひとつの魔力が消える。魔力を探っていた僕の網に引っかかったのは、ベリアルの魔力だろう。いつもより明らかに弱いが、今の魔族に彼を凌ぐ魔力の持ち主はいない。
暗黒山の洞窟、裏庭の泉の底、毒の沼地――全ての場所に探りを入れる。沼地は遠くて無理か? 魔王と切り離されたことで、僕の魔力も不安定になっている。いつもなら届く範囲だが、無理かも知れないな。溜め息を吐く気分で探る僕は、シェンに叫んだ。
『暗黒山の洞窟だ!』
反応が引っかかった。シェンが最後の一撃を魔王城の塔に撃ち込み、尻尾を揺らして方向転換する。左側に聳える大きな山肌は黒く、暗黒山と呼ばれてきた。瘴気が噴き出る噴火口の中、溶岩の手前にある洞窟を思い浮かべる。あの洞窟は出入り口がひとつしかない。
「あれか。かなり弱体化している」
指定されて感じ取ったシェンも、同じような感想を抱いた。ベリアルの魔力は僕が知る彼の半分近くまで落ちている。こんな状態で襲うのは卑怯だが、こっちが担いだ御輿はまだ幼児だ。そこはハンデとして見逃してもらおう。
『琥珀、僕が言うことをよく聞いて。こないだ僕と琥珀を引き離そうとした奴のところへ行く』
「やだ」
取られちゃうと不満に唇を尖らせる幼児は、僕を袋の上から握った。
『僕と琥珀を二度と離したりしないように閉じ込めよう。昨日練習した収納だ。成功したら僕達はずっと一緒にいられる』
ぱちくりと目を瞬かせた琥珀は、嬉しそうに頷いた。
「頑張る」
殺すのは忍びないという結論に至る。だから妥協案を出した。何より、まだ幼く判断が未熟な琥珀に人殺しをさせたくない。収納と呼ばれる別空間に閉じ込め、封印することにした。シェンによれば、世界の理はこまかい。新たな王となる琥珀自身が、魔王を仕留める必要があった。だが、地位の継承は殺害ではなく、相手を無力化することだ。
殺さずに片付くよう、琥珀の手の中で祈った。




