39.アイツは魔王の嫁さんだからな
煮えたスープを分けて食べ始める。琥珀はよく冷まして食べるように言い聞かせたので問題なかったが、いきなり口をつけたシェンが火傷した。すぐに治るのは便利だが、気をつけろよ。飲んだ瞬間にスープを噴くから、毒キノコでも入ってたかと心配したじゃないか。
「コハクを王に立てる話は、集落で話し合う必要がある」
「当然だな。すでにシドウ殿が庇護者になっておるが、我もコハクの後見者となろう」
古龍シェンが仲間になった……ゲームならこんなテロップが出る場面だろう。圧倒的強者であるシェンが味方になれば、森人も動くかも知れない。懸念材料だったベリアルの弱体化が望めるなら、協力してくれる人もいそうだ。
「まあ事勿れ主義の森人だが、やるときはやるぞ」
それは知ってる。苦笑いするバルテルに頷く。声にしないと伝わらないけどね。ベリアルが来たとき、僕と琥珀を突き出す選択肢もあった。でも森人達は集落を危険に晒しても助けてくれたのだ。その一点だけで信頼に値する。
「問題は魔王がどこに隠れているか、だが」
『僕が知ってる』
隠れ家は全部で三つ、全部分かる。場所を次々と上げていった。
『暗黒山の噴火口の脇にある洞窟、魔王城の裏庭を抜けた泉の底、それからベリアルの領地内の毒が湧き出る枯れた森の沼地だ』
詳細は近くに行ったら説明すればいい。この三箇所以外に避難場所はなかった。勇者に倒される直前まで、頭上で情報収集していた僕の話にシェンが頷いた。
「順番に潰すか」
「もし途中で邪魔されたらどうする?」
バルテルと話し合う真剣な雰囲気を壊すようで悪いが……場所は簡単に特定出来る。こういうところ、僕の知識は偏ってチートだった。
『見つけるのは簡単だよ。魔王城にシェンが攻撃を仕掛ける。ベリアルの反応があった場所が、魔王の隠れ家だ』
復活するまで魔王の魔力はほぼゼロだ。これは魔力供給源の僕の有無ではなく、そういうシステムとしか説明できなかった。おそらく勇者や他の魔族に討ち取られる可能性を消すため、何らかの処置を講じているんだろう。だが魔王城に常駐する上位魔族は、攻撃されると応戦する。その中で側近のベリアルだけが、魔王の体を守るために駆けつけるのだ。
『必ずベリアルが向かう。アイツは魔王の嫁さんだからな』
「「はぁ!?」」
魔族にとって重大な秘密だが、実はベリアルは雌雄同体だった。一番信用できる配下じゃない。唯一愛する嫁だから体を預けるのだ。前に熱烈なベッドシーンで「お前に殺されるなら諦めもつく」と魔王アスモデウスが囁いていた。おそらく睦言じゃない本音だ。
掻い摘んで説明すると、シェンが食いついた。
「そこのベッドシーンをもっと詳しく」
鼻息が荒いぞ。というか、流石に魔王のプライベートをそこまで明かすのは、可哀想だ。夫婦の秘め事だからな。何より、可愛い琥珀の教育に良くない。幼子に聞かせる内容ではなかった。濃密すぎる。
『それは断る』
きっぱり言い切ったら、がっくりと肩を落とされた。バルテルは大笑いしながらも、琥珀の耳を塞ぐファインプレイ。僕が話すと思ってた? 万が一を考えたとしても、僕への信用度が低くないか? 地味にショックが大きかった。




