34.結局、何しに来たんだ?
むっとした顔で頬を膨らませる琥珀は話さない。どうやら機嫌が悪いのではなく、ベリアルが嫌いなだけらしい。初回の顔合わせが酷かったから、嫌いな奴と口を聞きたくないアピールだった。正直、現状では助かる。
服の中で状況は分からないが、声は聞こえるだろう。
『バルテル、対応を頼む』
「なぜ、もう一本あると思ったんだ?」
バルテルが交渉係として前に出る。その間に駆けつけたアルマが琥珀を抱き寄せた。我が子を守る母親のような仕草は、違和感がない。ベリアルも琥珀に注意を払うことはしなかった。
この時点で、魔力によって僕を見分けた可能性が消える。ここにいるし、言葉を発するときに多少魔力が漏れ出た。それに反応しなかったんだから、僕の魔力でバレたんじゃない。
「ないのですか?」
「よく分からんが、元は二本だったのか?」
質問に質問を返すやりとりが続き、ベリアルは肩をすくめた。
「魔王陛下はツノを二本お持ちなのですよ。戦いの後、ツノは折られていた」
だからもう一本もあるはず。そう匂わせたベリアルの思惑は分からないが、僕はバルテルに警告した。
『ツノは頭上に一本、左手の甲に一本だ。折れたのは頭上の一本だけ。引っ掛かるなよ』
魔王の頭上にいた僕の言葉に、バルテルが小さく頷く。徐にベリアルに向き直り、不思議そうに呟いた。
「魔王の頭に二本のツノがあったのか?」
「……」
ベリアルは誤魔化したり、曲解できる言い回しを使うが、嘘はつけない。これは種族的な特徴だった。だから何も言わずに無言になる。二本なかったと言い切らないバルテルによって切り返され、ベリアルは話を逸らした。
「ないならいいのですが」
「あんたの契約通り、ちゃんとツノは渡した。俺はあれしか持ってないぞ」
バルテルの言葉の裏を読むように目を細めたベリアルは「分かりました」と肩を落とした。どこかで変な情報を掴んだのか。もしかしたら左手の甲に生えた小さなツノも折れたとか? あっちは意思がなさそうだったけど。
ひらりと帰っていく後ろ姿を見ながら、森人達は首をかしげた。何のためにきたのか。あの様子ではまた来るかも知れない。あれこれと憶測や予測が飛び交い、混乱を極めた。
「シドウはどう思った?」
突然話を振られ、琥珀が首の紐を引っ張って袋を外へ出す。表面に宿った温もりが消えていくのを残念に思いながら、僕は考え込んだ。あのベリアルが、再生中の主君アスモデウスから離れてまでツノを探す理由。
『僕の存在はバレてないけど、何か違和感は覚えたのかも。魔王の復活に魔力が足りないとか』
残る可能性は、左手のツノも何らかの理由で折れた、辺りだろうか。似たようなツノをもう一本拾っていたら、そっちが左手のツノだと思った? よく分からないが、勘で動いたかも知れない。
「まあ、魔力の源であるシドウがここにいるんだから、足りないな」
ある意味、合ってる。そう呟いたバルテルに、森人達は溜め息をついた。ベリアルはまた来るかも知れない。何らかの対策が必要になった。




