30.複製品ですらない、偽物
「本当にいいのか?」
『思い切ってやってくれ』
叫んでぐっと堪える。腕を捥ぐような激痛を覚悟したが、ぽろっと欠けた。刃を当てて落とした部分は小指の先ほど……。
「い、痛いか」
『不思議なほど痛くない』
返事をしながら思い到ったのは、もしかしたら斬り落とした部分が僕の本体じゃない可能性だ。前に付け足された魔獣のツノじゃないか? 切り落とされた先端を見ながら苦笑いした。魔獣のツノと魔獣のツノを合わせたら、僕の要素ゼロじゃん。
『多分だけど、前に付け足した部分じゃないかな』
「なるほど、魔力は同じに感じるぞ」
僕の一部になって一緒に魔力を巡らせてたから、先端部分も僕の魔力に染まっているのだろう。これを獲物だった鹿の魔獣のツノに混ぜ込んだ。魔力を見るのはアルマが得意で、彼女が言うには粉にして混ぜて固め直すのがいい。均等に魔力が行き渡るからだ。さらに上掛けで、琥珀が魔法をかけることにした。
粉を固める魔法を覚えるが、いまいち精度が悪い。アルマが工夫した結果、砕けたビスケットを戻す練習をさせた。食べ物に関して執着心が強い琥珀は、すぐ覚えて使いこなす。教える方法に苦笑いだった。まあ、覚えたならいいか。
「コハク、これを昨日のビスケットみたいに固めるのよ。形は手に握ってるシドウと同じ。出来る?」
『頑張れ、琥珀なら出来るさ』
うんと頷いた琥珀が僕の魔力を使って魔法を発動する。練習の時は自分の魔力を使った琥珀だが、今回は僕の魔力を使う必要があった。全体に僕の魔力を纏わせるためだ。ぐねぐねと踊る粉が細長くなり、出来上がった……あ、先端が欠けてる。
「ここ、どうする?」
バルテルが笑いながら指さした。たしかに握った僕にそっくりだが、今回の作戦用に折った先端も再現されてしまった。アルマがくすくす笑いながら、使わなかったツノの粉を差し出す。
「シドウの先端が欠けてるから直してくれる?」
「うん! やる!!」
請け負った琥珀が僕の上に魔鹿のツノを付け足した。以前から持ち歩いていたから、ほぼ完ぺきな再現だった。今度は僕を指さし、作ったばかりの偽物を前に置く。
「同じ形になるかしら」
「……やる」
なぜかテンションの低い琥珀だが、僕の魔力で練り直して固めた。出来上がったツノはそっくりだ。こんこんと指背で叩いたバルテルが「こりゃ、良く出来てる」と笑った。皆に褒めてもらい、琥珀は嬉しそうだ。頭を撫でてもらう行為もビクビクしていたが、今では満面の笑みで受け入れる。
愛されるこの子の成長のためだ。騙し切るぞ!
『琥珀、出来上がったツノをこないだのベリアルに渡すんだ』
「やだ」
『いや、僕はちゃんと残るから。こっちを渡すの、わかる?』
「やだ」
短く否定してくる。アルマが根気強く理由を聞き出したところ、僕の粉が入ってるからダメだと言う。なんだそれ、可愛すぎるだろ。あれこれ話し合った結果、バルテルが琥珀を捕まえている間にアルマの息子ロルフがベリアルに渡す。魔法が得意なロルフなら、ベリアルの一撃くらいは防げるだろう。
アルマが立候補したが、満場一致で却下された。この集落は、女性や子どもに優しいからな。不満そうなアルマには悪いが、当然の結果だった。




