22.石鹸は好評だけど改良の余地あり
石鹸は半端ない勢いで消費された。正直、翌朝まで風呂場に放置する余裕はない。仕事が終わって集まった森人がこぞって使いたがり、一日で使い終わった。
うん、割り切って考えればこれでいいのかも。毎日消費するからまとめて作り、水気がないツリーハウスの倉庫で保管すれば溶ける心配もない。そう告げると、アルマが笑顔で僕と琥珀を連れて歩き出した。石鹸の配合を書いたメモをバルテルから貰った彼女は、ある森人のツリーハウスに入っていく。
手を繋いで歩いてきた琥珀も当たり前のように入った。僕は首の袋内にいるから問題ないが、これって不法侵入じゃないか? 叱られたら……アルマに責任を取ってもらおう。そう思っていたが、中は留守だ。ほっとしたのが半分、恐怖が半分だった。
これは住人が帰ってきたら叱られるパターンだ。どきどきする僕をよそに、アルマは当たり前のように他人の家でお茶を淹れる。親戚か何かか? 僕は飲めないのに、目の前に小さな器で用意される。人間扱いみたいでむず痒い。有難くお礼を言った後、琥珀に飲んでもらった。
先に飲み干してから、自分のお茶も一気飲みする。琥珀のこの癖は虐待された過去のせいかも。そう思うとお行儀が悪いとか言えない。それ以前に、森人は誰も気にしてなかった。だから僕もあえて指摘しない。もっと大人になってから覚えてもいいさ。
今は食べることを邪魔しないのが一番だ。
「もう一杯飲む? 茶菓子も……確かこの辺に」
ごそごそと棚を漁り、アルマは干した果物を並べた。見た目は林檎やマンゴーのようだ。アルマはひとつ手に取り、琥珀の手に乗せた。じっと見つめた後、鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。普段ならニーが最初にしてくれるんだけど、今日は部屋で子猫とお留守番だった。
くんくんと確認して、安全だと思ったらしい。だけど僕に尋ねる。
「しどう、これ」
食べていいぞ。きっと甘い。干した果物は甘さが凝縮されてるから、お菓子みたいなものだ。ぺろりと舐めた琥珀が目を見開いた。目の前でアルマが齧るのを見て、真似する。もぐもぐと動く口元が綻んで、すぐに頬や顔全体が嬉しそうな笑みに彩られた。
やっぱ可愛いな。手があったら抱き締めて撫でまわすのに。残りを口に押し込んで、もぐもぐ咀嚼する間に両手に1個ずつ握る。誰も取らないから安心して食べろと伝えたら、大きく頷いた。生存競争激しそうな野生の生活してたんだし、仕方ないだろう。
アルマはにこにこしていたが、下から誰かが上がってきた。振り返ると大柄な男性が立っている。森人は全員が濃いめの肌をしている。髪や瞳は緑が多く、濃淡があった。その濃淡がアルマに似ている。
「あら。いい勘してるわ、シドウ。この子は私の息子よ」
「ロルフだ」
はぁ、お邪魔してます。思わず丁寧にご挨拶してしまい、親子に大笑いされてしまった。こんな小さい女性から、大男が産まれるのか。産まれた時は小さいけど、成長した結果……遺伝とかどうなってるんだ? アルマの夫が大きい人だったのかも。
「この子に石鹸を改良してもらおうと思ったのよ。もう少し硬い方がいいんでしょう?」
「石鹸とは、今日使った風呂のあれか! 泡が出る。任せろ」
勝手に話が決まり、石鹸はお風呂の湿度でも溶けない硬さに調整してもらえるらしい。僕の異世界知識が中途半端で迷惑おかけします。




