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1.魔王と勇者の戦いで、僕は折れた

「死ねっ! 魔王!!」


「勇者よ、そなたの実力では到底及ばぬ」


 ふはははっ、笑いながら魔王が剣を受け流す。魔王の周囲に立ち込める黒い霧と紫電がパリパリと音を立てて反応し、自動的に勇者の仲間を攻撃した。魔法を使う賢者、治癒担当の神官、勇者の補佐として剣を揮う剣士、誰もが満身創痍だ。


 魔王城に辿り着くまで魔物との戦いの連続で、勇者一行は疲労していた。万全の態勢で迎えた魔王に翻弄され、もう数時間に及ぶ戦いが繰り広げられている。魔王の側近が控える広間は、すでにボロボロだった。


 この世界は魔族と人族が戦い、領地を奪い合う。恒例の戦いを見ながら、仲良く暮らせばいいのにと思う。だって戦って奪った土地も、数十年でまた奪い返されるだけ。繰り返す争いで魔族も人族も疲弊するし、数が減るし、いいことは何もなかった。


 もう飽きちゃった。何十回と繰り返される戦いにぼやく。


 圧倒的な魔力を武器に、己の周囲に自動防御を張り巡らせた魔王の戦いを、僕は特等席で見ていた。どちらが正義で悪かなんて、僕に関係ない。どうせ手出し出来ないし、話しかけるのも無理だから。目の前で起きる現象を見続けることだけが、僕に出来る全てだった。


「滅びよっ!」


「笑止!」


 振り上げた聖剣が魔王の頭部を狙い、逸れてツノに当たった。カキン、甲高い音が響いてツノが折れる。魔王が膝を突き、そこで振り抜かれた聖剣が彼の首を落とした。魔族の能力はツノによって制御されるため、折れてしまうと急激に弱くなる。側近が慌てて手を伸ばすが、間に合わなかった。


 首を落とされる直前、魔王が繰り出した魔力の刃が、勇者の腹を貫く。ぐはっと血が口から吐き出され、僕の身を濡らした。生暖かくて気持ち悪い。


 ごろんと転がる魔王の首を見ながら、僕は痛む身を捩った。毎回巻き添えにされるけど、早く戻して欲しい。首が落ちた魔王は数年かけて復活するけど、僕も一緒に拾わないと後で困るよ。


「ああ、我が君……」


 嘆く側近が、落ちた首を大切そうに拾い上げる。別の巨人が体を回収し、そのまま行ってしまった。え? 僕はどうしたら?


「くそっ、今度こそ倒した、と思った……のに」


 がくりと膝を突いた勇者が肩で息をしながら叫んだ。腹を貫かれた割に元気そう。青ざめた彼がぐらりと倒れた。駆け寄った神官が手を翳す。残り少ない力で癒やそうとした。


 勇者を含め、賢者、神官、戦士に追い掛ける余力はなかった。魔王軍も混乱していて、僕の存在を見落としてる。どうしよう、このまま放置されたら。


 首や体を部下が回収したので、数十年後に魔王は復活する。つまり魔王対勇者の戦いは続く。人族の寿命は100年ほどだから、きっと次の勇者が戦うんだろう。


「撤退しよう。これ以上の戦闘は無理だ、帰還する」


 賢者が最後の力を振り絞って、空間移動の魔法を繰り出す。どうしよう、移動に巻き込まれる。足元に広がる魔法陣を見ながら、誰にも聞こえないのを承知で叫んだ。


 ――誰か、僕を助けて。


 願いも空しく……魔王の頭部を飾った自慢の()()は勇者達の転移に巻き込まれた。

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