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クロスポイント

作者: 超伝説巨匠じゅんぶんが君

挿絵(By みてみん)


軍曹はささやいた

撃て

引き金を引いた

オバアが倒れた

銃声はたった一発

二等兵は涙をこぼした


軍曹は知っていた

オバアであることを

モンペがくすんで

ここからは見えない

でも

あれはオバアだ

二等兵は知っていた

でも

ここは

クロスポイント


誰も通せない十字路

クロスポイント


北はアメリカが隙を伺い

南は玉砕覚悟の日本軍

東に焼かれた沖縄民

西には死ぬための崖


ただ堕ちるために

ただ逃げるために

そこから

いまある地獄から

逃れるために


飛び込む

クロスポイント


誰も通れない

誰も通さない

誰もが通らなければならない


南部はもう

死ぬしかなくて


地獄から逃れるためには


死ぬしかなくて


軍曹は知っていて

誰も通せなくて

夜をまってオバアを葬る


明日は誰が駆け抜ける

クロスポイント


照準は

火線は

隙間なく

陽光に揺れる陽炎を狙う

月光に震える影を撃つ


二等兵は知っている

おかっぱ頭の少女が

西の崖を目指し駆け抜けようと

涙をこぼし

引き金を引く


死は誰にも平等に

死の恐怖におびえながら

死を望まざるを得ない

幸福は誰にも微笑まず


業火に焼かれることを

知っていて


少女は

オバアは

軍曹は

二等兵は


ただ

生きる

その場を


己の命を一瞬の運命に賭けて

クロスポイント


死の十字路

そこにいたすべての人の

背負わされた十字架


クロスポイント

月下の塹壕


すすり泣く

二等兵

軍曹は差し出す

乾いたパン

今日は

おかっぱ頭の少女を

撃ちました


パンはいりません


軍曹は差し出す

乾いたパン

明日

いがぐり頭の少年を

撃つために


喰え


クロスポイント

通れない十字路

命を賭けて

渡った向こうの崖に


誰もいない海がある

死体は波にかき消され

この生き地獄から

開放される


少女は

オバアは

少年は

オジイは

とうちゃんは

かあちゃんは


崖を目指して

クロスポイントを駆ける


今日も銃声が響く

撃ったのは

北か

南か

いや

両方か


せめて海をみて

死にたいんだ


だから

通してくれ


撃たないでくれ


せめて

海に


ニライカナイの海に

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