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鬼に嫁ぐ日  作者: 珀尾
1/10

1・紫苑



 生まれてから16年。

 良いことなんて一つもなかった。



 ──私は今日、『鬼』に嫁ぐ。




 身寄りのない子供たちが暮らす施設から、この『夜行院(やぎょういん)家』に引き取られたのは、4歳を過ぎた頃だった。


 自分を除く全ての女児たちが変死した、あの日。

 唯一生き残った私は、ゴミ捨て場から金塊でも見つけたような声で名を与えられた。


 夜行院(やぎょういん) 紫苑(しおん)、と。


 私の瞳には、同じ名を持つ花の色が宿っているという。

『未来を視る』という、特別な色が。


 そのせいで、私は光を失うことになった。



 夜行院は戦国時代から代々続く名家で、この辺り一帯の大地主だった。大富豪と呼んでも差し支えないほどの権力と財力を持っている。

 私がいた施設も、そんな夜行院家の所有物の一つだった。


 引き取られた先の夜行院の屋敷がどんな建物で、どれほどの者が暮らしているのか、私は何も知らない。だって、一度も見たことがないから。


 私の目はあの日に閉ざされ、それからは何を映すこともなくなった。

 どんなに力を入れようとも、目に貼りつけられた羽根のような物が外れることはない。


 ただ、見えなくても気配は感じられた。

 夜行院の屋敷には、常にたくさんの気配がある。自分が座っている場所よりも、ずっと下の方にある異質な気配。コレには屋敷に連れてこられた時から気づいていた。


 ……きっと、コレが『鬼』。


 この家の跡継ぎである梗司郎(きょうしろう)は、いつも言っていた。

 16歳となった月の無い夜に、私は『鬼に嫁ぐ』のだと。そしてその鬼に喰われ、私は死ぬのだと。


 死……。


 この何も見えない真っ暗な世界が終わる。

 全てのことを他人に管理され、世話をされ、せまい(おり)の中で手探りするだけの日々が終わる。


 それだけで、死ぬのは人生で初めて訪れる良いことのように思えた。

 だって、限られた音と感触しかないこの暗い世界には、とっくの昔に飽きていたから。


  挿絵(By みてみん)


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