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Ep 3/5 格の違い

・●


 正直、少し見直した。エドガーが戦意を見せたことにだ。

 だが悲しいかな、エドガーには経験がまるで足りていなかった。


「うぐっ?!」

「おやおや、加減を間違えてしまったかな。痛かったかい、エドくん?」

「やーん、ツァルト様やさしー♪」


 思い上がった雑魚貴族ごときに、真正面から飛びかかってはマジックアローを打ち込まれて、吹き飛ばされていた。

 さらにヤツはわざと術を連発して追い打ちを放ち、エドガーを鞠のように跳ねさせた。


「ま、まだいけます……あぐっ?!」

「さすが下民! タフだねぇっ、私たちの壁役はこうではなくてはね!」


「まだ……平気です」

「だっさーい♪ ツァルト様に勝てるわけないのに、下民ってバカみたい♪」

「まあまあそう言うな。彼らは頭が悪いからね、わからないのだよ。名門の血筋の偉大さに!」


 学長はそれを怒りも笑いもせず、冷たい目で見つめていた。

 そろそろ俺も腹が立ってきた。特に平民が貴族には勝てないという、ヤツの発言が気に入らない。


 最果ての魔王と呼ばれた世界最悪の魔導師は、貴族階級の生まれではない。

 やつらの蔑む下民の生まれで、最初はまともな魔力を持たなかった。


「もう止めたまえ、ほら、私の手を取りたまえ……」

「ぁ……ありが――うああっっ?!」


「ハハハハッ、敵を信用したらいけないよ、エドくん!」


 ヤツは助け起こすと見せかけて手を振り払い、エドガーの顔面にマジックアローを打ち込んだ。

 それでもエドガーは立ち上がる。エドガーは雑魚の魔法程度でダメージなどほとんど受けないからだ。


「しかし、コイツ、痛みを感じていないのか……? ええいっ、そろそろしつこいぞ下民くん!」

「僕は、爺ちゃんの子だ……。爺ちゃんの顔だけは、潰せない……。うわああっっ?!」


 なかなかダウンしてくれないので、その後もエドガーにかなりヤキモキさせられた。

 手加減を止めていた勘違い貴族は、持ちうる魔力の限りのマジックアロー――つまりはマジックブラストをエドガーに放ち、ようやく気絶させることに成功したようだった。


 まさかそれが立ち上がるとは、ヤツは思ってもいなかっただろう。

 手足が自由に動く。俺は立ち上がって、外道に軽蔑の目を向けた。


 いつしか黄色い声は消えていた。見るに堪えない光景だったのだろうな。


「ぜ、全力だったのに、なぜ立てる……。い、いや、今のはたった20%の力だっ! どうやら手加減しすぎたようだよ、エドくん! 次はおとなしく倒れたまえ!」


 笑わせる。俺は屁の抜けたマジックアローを素手で弾き飛ばした。


「……なん、だとぉぉっっ?!!」

「これは驚きましたな。さすがはクリフの息子、素手で魔法を弾き返すとは」


 俺はやり方を改めるべきなのかもしれない。

 俺が最強に育てたエドガーは、やさしいやつだったが、全くと言って戦闘に向いていなかった。


 ジジィも無茶苦茶な要求をする。自分だというのに、ついついエドガーに同情してしまう。


「どうした貴族様、貴族は平民すら倒せないのか? それでは口だけではないか、もっと撃って来い」

「このっ、下民ごときが、このツァルト様を愚弄したなッッ!! 舐めるぬぁぁぁっっ!!」


 舐めプはしない。だが今回ばかりは、じっくりと相手の顔を潰したいところだ。

 平静を失ったヤツは、お得意のマジックアローを次々と連発してきた。


「キャァァァッッ、ツァルト様助けてっ!! 止め、ああっっ?!」


 そこで流れ弾に見せかけて、やかましくてたまらなかった取り巻きどもに、マジックアローの軌道をそらしてぶつけた。

 全滅だ。ヤツは術を止めて、大好きな観客たちが消えたことに驚き振り返っていた。


 学長の方にも飛ばしてみたが、ヤツは魔法盾を生み出して易々と受け流してくれた。


「どうかされましたかな、エドガーくん」

「いや、流れ弾が行ったようで悪かったな、学長」


「いえいえ、なかなか刺激的で、これはこれで、フフフ……」


 そういえば昔、こんなやつと戦ったような気がする。

 まさかコイツ、クリフのジジィの元パーティメンバーか?


「やつを転ばせればいいんだったな?」

「はい、方法はなんだってかまいません」


「……では一つ、芸を見せてやろう」

「女に手を出すなど最低だぞ、貴様! だから貴様は下民なのだっ、魂レベルで下等だから下民に生まれたのだっ、貴様らはっっ!!」


「魔法が貴族の特権だと思っているならば、それは間違いだ。――アースクエイク」


 この術はアルクトゥルスだった頃はほぼ使うことがなかった。

 放つと自分まで地震に巻き込まれて、頑丈さに乏しいアルクトゥルスが瓦礫の下敷きになるからだ。


 一度死にかけて、もう二度と使うまいと固く誓った術の、封印を解いた。


「地震魔法? そんな超高位の術を、下民が使え――――お、おおおおおおーっっ?!!」


 訓練場に局所的な激震が起こった。

 壁に掛けられた剣、盾、金属製の全身鎧、ありとあらゆる物が次々と倒れて、建物を恐怖で支配した。


 エドガーと名付けられた新しいこの肉体ならば、この術はかなり使えそうだ。

 大地震は人に恐怖を与え、戦意を喪失させるだろう。


 前後したが、名門のツァルトは、俺の目の前で無様に尻を突いていた。

 揺れが収まっても、ヤツは放心状態だった。

 大地が激しく揺れる。ただそれだけだが、慣れぬ者には大きな恐怖だった。


「転んだぞ」

「そのようで。合格です、エドガーくん。……同時に、用務員の方々の残業が決まったようですが」


「ならば、学内で地震を起こしてはいけないと、校則に付け加えておけ」

「検討しましょう」


 ところが学長と話していると、背中の向こうに剣を抜いたツァルトがいた。

 戦意を今さら取り戻し、見下していた存在に顔を潰されて、すっかり冷静さを失っている。


「貴様ッ、この私にっ、ツァルト様に恥をかかせたなっっ! 貴様は、貴様は無礼罪だっ! 今すぐこの場で、ぶっ殺してやるぞっっ!!」

「ずいぶんと高そうな剣だな」


「死ねぇぇっっ!!」


 エドガーの肉体に物理攻撃は効かない。

 恐らくは豪邸が建つほどの宝剣が、エドガーの肩に向けて振り下ろされ、案の定へし折れた。


「…………あ。あ、あああああ。あ、ああああああああっっ、わわわわっ、我が家の家宝がぁぁぁーっっっ?!!」


 家宝で人を殴るやつが悪い。自業自得だ。

 俺たちは馬鹿者を無視して学長室に戻った。


以降は明日投稿になります。

また宣伝となりますが、9月30日に書籍「超天才錬金術師」3巻が発売します。

もしよかったら手に取ってみて下さい。

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