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Ep 8/8 同化の邪法 2/2

「って、殺すのかよ……」

「ん……でも他になかったでしょ。うちもこんなの護送したくないもん」


「そりゃまあ……おっさんもゴメンこうむるわ」


 今回は疲れた……。ロングヘアのカツラを外し、俺は片手で頭を抱えた。

 コイツに、同化の邪法の間違った使い方を教えたやつがいる。


 気に入らん……。肉と肉を融合しても、生まれるのは怪物だけだ……。

 俺の術を、こんな最悪の形に悪用するだなんて――こんな使い方は間違っている……。

 これでは、力のない平民を魔法使いにする術ではなく、狂える怪物を生み出す術ではないか……。


「エドガー、大丈夫……?」

「ああ……慣れないことをして、少し疲れただけだ……」


 おっさんは家捜しを始めた。

 棚の一つに何かピンと来たのか、鍵をピッキングで外して引き出すと、苦い顔を浮かべた。


「うへ……こりゃ見ねぇ方がいいぜ……。こういうのはよ、上への報告に困るわ……」

「何が入ってたの……? あ、いやっ、うちやっぱ聞きたくないっ!」


 ジュン・ジョハはさすがに場慣れしているな……。

 彼は棚からエグい何かを見つけてしまったようで、鼻をつまみながら目をそむけた。


「ああ……。こっちの仕事は手伝えなんて言わねーよ……」

「あ、でも……生き残りはいないの……?」


「いないだろうな。さらってすぐに俺を喰らおうとしたくらいだ。あの力で飲み込まれたら、骨一つ残らん……」

「うぇぇ……うちもう帰りたい、最悪……最悪だよコイツ……」


「同感だ。お前はもう帰れ」


 俺は――帰るわけにはいかないだろうな。

 ヤツの口からアルクトゥルスの名が出てきた以上は、ジュン・ジョハの調査を監視し、尻拭いもしなければならん。


「エドガー――アルクトゥルスはどうするの?」

「俺を見分けてくれたのか」


「だって、性格もバトルスタイルも全然違うもん」

「言われてみればそうだな。……俺はここを手伝ってから帰る」

「マジか……そりゃ恩に着るぜ、エドガー……。ここで一人で仕事したかぁねぇわ……」


 だろうな。言わばここは狂気の病巣だ。怖い怖くないの問題ではない。

 いかにして正気を保つかの戦いだ。


「じゃあうちも残る。さっさと終わらせちゃお」

「そうか……マジで恩に着るわ……。ランちゃんもありがとよ……お前さん、最高にいい女だぜ……」


「へへへー、そういう手のひら返し嬉しい! 面と向かって言う気なかったけど、おっさんもなかなか渋くていい感じだよーっ♪」


 俺たちは調査と遺留品の回収をしてから、己の住処へと戻った。

 時間を食ったのもあって、ボロ家を出た頃にはもう外は真っ暗闇だった。



 ・



 ランと大通りで別れて、丸白鳥亭にたどり着くと、俺は安堵のため息を吐いた。

 エドガーも疲れているのか、あれっきり表に出てこない。


「遅かったですね。ティアと妻が心配していましたよ」


 こっそり二階に上がって休むつもりだったが、ベルートの鋭い勘には敵わなかった。


「すまん……」


 いやに素直な返事になってしまった。

 ベルートはすぐに様子を察して、カウンター席に俺を手招いた。


「女の子にでも振られましたか?」

「いや、もっと最悪だ……。酒をくれ……」


 ベルートはいつもの偽カクテルを作ってくれた。

 俺は銀貨をカウンターに置いて、酒もどきを一気飲みした。


「わたしたちはもはや家族です。こんな物いりませんよ」

「臨時収入があったんだ。受け取ってくれ……」


「ふむ……。本当にどうされたのですか?」


 彼は素直に銀貨を懐に入れて、心配そうに少年の顔をのぞき込んでくれた。

 ベルートは皮肉屋だが、エドガーが気を許すくらいにはやさしいやつだ……。


 ついつい俺まで、彼に甘えたくなった。


「俺はあんな怪物ではない……」

「怪物、ですか?」


 気づけば吐き出すように口に出していた。

 あの鬼は魔王アルクトゥルスの狂信者だった。歪んだ崇拝を俺に向けていた。


「怪物と会った……。人の肉体を、自らの肉体と同化させる異常者だ……」

「それは恐ろしい。とても正気の沙汰ではありませんね……」


 俺の生み出した技術を、あんな醜い方向に応用するだなんて……断じて許せる行いではない……。

 あまつさえ、俺を気色の悪い崇拝の対象にして、アルクトゥルスの名の下に罪もない人間を喰らっていたなど……。


 誰だ……誰がこんな、世にもおぞましい悪用をさせたのだ……。


「どうぞ」

「悪い……」


 言葉を忘れた俺に、ベルートが新しいカクテルを差し出してくれた。

 俺はそれを怒り混じりに一気飲みした。


「うっ……!?」

「今日だけ特別です」


 それはホンモノの味だった。


「不意打ちだぞ、ベルート……」

「フフフ……その苦笑いが見たかったのですよ。それに、何が起きたのかは存じませんが――あなたは決して怪物ではありませんよ。あなたほど、やさしい子をわたしたちは知りません」


 さらには不意打ちに次ぐ不意打ちを放ってきた。

 やさしい声で、ベルートは俺を慰めてくれた。


 エドガーの若い肉体に引っ張られているのか、俺は無防備な顔で彼を見上げるばかりだった。


「喩えもう一人のあなたがどんな罪を背負っていようとも、わたしたちには関係ありません。この宿にずっといて下さいね。……でないと、水虫に悩む王都市民がむせび泣いてしまいますので」

「あの水虫を治すボーロか……。かの一件はいまだに頭の理解が追いつかん……。なぜ菓子で水虫が治るのだ……」


「治るのだからそれでいいでしょう」

「やはりこの宿の連中は大ざっぱ過ぎる……。だが、あんな愉快な菓子を作れるのは、エドガーだけか……」


 励ましと特別製のカクテルのおかげで、沈んでいた気持ちが上向いて来た。

 どうやらヤツの狂気に飲まれかかっていたようだ。


「ええ、あなたが来て下さってから、ティアの笑いが絶えません」

「結局そこなのか?」


「ええ、当然です。あの子はわたしの全てですから」


 普段クールにしているベルートが、ティアのことになると笑顔でいっぱいになる。

 ティアのような娘を持てば、誰だってこうなるかもしれないな。ティアはこの宿の太陽であり看板娘だ。


「世話をかけた。どうやら弱気になっていたようだ」

「いえいえ、お気になさらず。ただわたしは、あなたに伝えたいことを伝えただけです」


 仰々しく、いやに古風にベルートはお辞儀をした。

 この男、本当に何者なのだろうか。


「おいベルート、取りあえずビール三人前頼む!」


 しかし彼はここの店主だ、いつまでも俺の相手をしていられない。

 客の注文を受けて、カウンター裏の酒樽へと酒を注ぎに行った。


「しかし……参ったな。慰められたところで現実は変わらんか……」


 俺が同化の邪法を生み出さなければ、少女たちは食われなかった。

 これは過去の俺がやりたい放題やってきたツケだろう。

 そして、今もこの世界のどこかで、魔王アルクトゥルスの研究を暴き、歪め、冒涜しているやつがいる。


 絶対に許さん。絶対に事件の黒幕を探し出して、同化の邪法ごとこの世から消し去ってやる。

 肉体と肉体の融合など、それこそ正真正銘の邪法だ。悪用以外の何物でもない。


 同化の邪法を扱えるのは俺一人だけで十分だ。

 俺は魔王と呼ばれていた時代のツケを、これから手探りで清算してゆくことに決めた。


 それは義務感や贖罪が動機ではない。

 単に、俺をぶっ殺した上に人の技術を盗んだ連中が、スットコドッコイな運用法をしているのが、気に入らんだけだ。

これにて第一部・完結です。

これから時間の合間を使って書き貯めてゆきますので、第二部の公開まで短くて一月ほど待っていただくことになるかと思います。


また明日から、予告していた新連載を始めます。


『冷やし魔大陸はじめました』

 監獄暮らしの元王太子は、浮遊都市で国家を跨ぐ (((((((((((っ・ω・)っ  - 領土侵犯? 国土を踏んでないからセフセフ -」


ザマァ系です。幽閉されていた王子が古代遺物だらけの浮遊大陸を手に入れて、大陸の下部に巨大な砲門があるとも知らずに、無慈悲なる里帰りを果たします。


人の迷惑などお構いなしに、国々を戦慄させながら上空を通り過ぎる浮遊大陸での物語を、ぜひ読みに来て下さい。

誰もが憧れる浮遊大陸へのロマンを大盛りに、キッチリとザマァ系としてザマァします。


楽しいお話に仕上がっていますので、ぜひ楽しんでやって下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第二部を楽しみにしてます!
[一言] 連載再開を楽しみにしてます
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