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Ep 3/8 モモンガと妖精が飛ぶ宿・しろぴよ亭 2/2 - ヘタレに飼われる現金なヘタレ -

「今日はよろしくね、ティア! はぁぁっ、来てよかった……。こんなかわいい子いるなら、最初から言ってよ、エドガー!」

「でへ……そーゆーのなー、てれるぞー。エドガーも、ちゃんと、いいこいるよにーちゃん? っていわなきゃ、ダメだぞー?」


 最初から心配なんてしてなかったけど、ランさんとティアは僕が間に入らなくても上手くやっていけそうだ。

 ランさんは僕に眉を上げて理不尽な文句を言った後、抱き締められてもまるで人形のように素直な少女にだらしない顔をしていた。


 ランさんの事情を知る立場からすると、少しだけ複雑な気分になる情景だ……。

 それが落ち着くと僕たちはクルスさんに中へと招かれて、酒場の大きなラウンドテーブルに腰掛けた。


「ところでエドガー様、例の、白いモモンガさんの方は……あら?」

「ちょっ、なんかいるんだけど!?」


 二人が僕の左隣のティアを見て驚いている。

 目線を追うと、ティアの頭にいつの間にか妖精ウィスピーベルが乗っていた。

 美しく透けるその羽と、まるで着せ替え人形のように小さなその身体は、女の子の嗜好を刺激するみたいだ。


「あ、えっと、それは……それはあまり気にしないで……。あ、レオくん僕の部屋にいるから、連れてくるね……」


 説明に困った僕は立ち上がって、なあなあにして二階の自分の部屋を目指すことにした。


「妖精……妖精ですの……っ! 気にしないでなんて、無理ですのっ、ああなんて愛らしい……」

「うっわーっ、かわいいかわいいっ、生きてるお人形さんみたい……。ねぇねぇ、ティア、どうしたのこの子っ!?」

「あのねー、このこねー、レオポンの、おともだち。なまえはなー、ウッピー」


「ウッピーちゃん、ですの? 少し変わった名前ですのね……。あっ、ところで、レオポンというのはどなたなのでしょうか……?」

「わかったっ、モモンガの名前でしょ!」


「だいせいかいー! レオポンは、まじゅいおうさま、だぞー。みょうなけんあるくさんの、けらいなんだー」


 ツッコミや訂正を入れたい気持ちを押さえて、僕は自分の部屋に戻った。

 だけど捜し物のレオくんの姿がいつものベッドにない。


「あれ、レオくん……?」


 散歩に行ってしまったのだろうか。僕は部屋を見回した。

 あ、いた……。机の陰から長くてふさふさの尻尾だけがはみ出ている。


「レオくん、悪いけど僕と一緒に――」

「やだ、ボクチン、いかない!」


「え、嫌なの?」


 レオくんが机から顔を出して、大きな黒目で僕を見た。

 見せ物小屋で生活していた頃もあったそうだし、こういうのは嫌なのだろうか。

 逆の立場になってみれば、僕だって自分を人に見せびらかされるのはいい気分がしない。


「だって……だってボクチンなんて、ピィィ……」

「わっ、泣かないでレオくん……」


 世にも悲しげな鳴き声に僕が一歩を踏み出すと、レオくんが胸に飛び込んで来た。

 やわらかくてシャボンの匂いがまだ少しだけ残っているモモンガを、そっと抱き締める。


「あのね、ごすずん、ボクチンね……」

「いいんだよ。レオくんが嫌なら、僕がちゃんと二人に言うから……」


「違うんだ。ボクチン、ウィスピーちゃんとか、ティアほどかわいくないよ……? きっとガッカリさせて、ごすずんの顔を、つぶしちゃう……」


 レオくんは小さく震えながら、世にも愛らしい瞳で僕を見つめながらそう言った。

 レオくんって、思っていたより自己評価が低い……。こんなにかわいいのに……。


「なんだ、そんなこと気にしてたんだ? それなら大丈夫だよ。レオくんのかわいさは、あの二人とは全然方向性が違うから」

「それは言われなくてもわかってるけど……ピッピィィッ?! は、離してぇっごすずんっ、行きたくないっ、行きたくないよぉっ!」


「大丈夫だよ、僕が保証するから。それに今日はレオくんのために、特別なお菓子を作るんだから、来てくれないと困るかな……」

「お菓子!? ごすずん、ボクチンに、お菓子作ってくれるのかっ!? あ……やぁっ、でも、やっぱり、知らない人、怖い……。おろしてー、ごすずんーっ! うわーっ、やだやだーっ、モモンガ(さら)いーっ!」


 まるで僕を見ているかのようだ……。

 小心者の息子のために、爺ちゃんが王都行きのチャンスをくれなかったら、僕はここにいなかった。


 爪を立てるレオくんを抱えたまま、酒場宿の階段を下ってみんなの前に戻った。

 その頃にはクルスさんとティアの姿が消えていた。


「まあ!」

「うっわぁぁっ、目クリクリしてるぅーっ!」


 ほらやっぱりこうなった。二人は僕の胸の中で縮こまっている小心者に熱く目を輝かせた。


「かわいい……。先ほどティアちゃんがレオポンさんのかわいさを語って下さいましたが、これはお話以上の愛らしさですの!」

「うんうんっ、早起きして来てよかった! 白くてきれーっ!」

「ごめんね、レオくん……ちょっと相手をしてくれたら、僕の部屋に戻ってくれていいから……あっ!?」


 僕もレオくんのことを自慢だったから、二人が喜んでくれて嬉しい。

 ところが胸の中のレオくんが僕を蹴って、空中へと逃げ出してしまった。


 レオくんのことだから、そのまま一目散に部屋に逃げ戻るのかと思っていたけど、どうしたことかそのままグルグルと広い酒場宿の宙を旋回している。


「飛んでますの……。わたくし、モモンガが飛ぶところ、初めて見ましたの……」

「逃げないね……、わぁ、この子賢いなぁ……。というより、あれっ、いつまで飛んでるの、この子……?」


『どうやらかわいいと言われて舞い上がっているようだ。さっきまで、つまらん臆病風に吹かれて隠れていたくせにな……』

『はは、なんかレオくんらしいね……』


 ちょっとエゴイストなアルクトゥルスだけど、レオくんの話に限っては言葉がやさしかった。


「ククク……恐れをなしたか人間ども! ボクチンの名は魔獣王レオパルドン! 空飛ぶ百獣の王だっ、キュィィーッ!!」


 レオくんが大きな膜を羽ばたかせると、身体がふわりと浮かび上がる。

 アルクトゥルスが言うには戦闘力は皆無だそうだけど、機動力に限っては並外れたものを持っていた。


 そこに妖精のウィスピーも加わった。

 彼女は蒼に輝く鱗粉を振りまきながら、レオくんと一緒になって酒場宿の高い天井を飛び回る。


 まるでサーカスみたいだ。

 僕たちは高い天井と、白いモモンガと妖精を見上げて、しばらくの間目を奪われた。

 レオくんの飼い主として誇らしい気分だった。


「じゅんび、できたぞー。すこしやすんだら、おかし、つくろなー?」


 そこにティアがシルバートレイにティーポットとカップを乗せてやって来た。

 当然、ティアも僕たちの真上で行われている演目に目を奪われた。


「おとと……。おお、エドガー、わるいなー? これも、ティアの、じょしりょく?」

「あはは……そうかもね」


 危なっかしいのでシルバートレイをティアから受け取って、みんなで一緒にテーブルへと配膳した。

 外から来た二人のために、わざわざ冷たいお茶を用意してくれたみたいだ。


「ティアちゃんも、妖精ちゃんも、モモンガちゃんもかわいい……。何ここ天国じゃん! うちここに引っ越したい!」

「そ、それはずるいですのっ、わたくしも常々、同じこと思ってしまいましたのに……!」


 二人がここに引っ越してきたら、賑やかになり過ぎて毎日が大変そうだ。

 ちょっと憧れる展開だけど――ソフィーはきっと、貴族という立場上無理だろう。


「しろぴよていは、いつでも、おきゃくだいかんげいだ。ソフィとランなら、ティアもだいかんげいだ!」

「そんなこと言われたら、わたくし真剣に心が揺らぎますの……」


「エドガーの、おかしも、たべれるぞー?」

「夜中は騒がしくて、あまり学生には向かないかもしれないけどね……」

「それでも真剣に悩みますの……。いっそ、貴族に生まれなければ、どんなによかったか……」

「やば、マジで引っ越ししたくなってきた……」


 もう少しゆっくり休んだら新作のお菓子を作ろう。

 僕はかしましいみんなの笑顔を眺めながら、クルスさんの淹れてくれた美味しい紅茶を楽しんだ。


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