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Ep 1/8 三回目の迷宮実習 剣術よりも冴えた方法 2/3 - そもそもの間違い -

・●


「しっかし、お前はお前で器用というか、不器用というか……」


 リョースの呆れた目がこちらを見た。

 俺も同感だ。エドガーは折れた剣を当たり前のように使いこなし、巧みとは言い難い一つ覚えの居合いだけで、これまでの敵を撃退していた。


「エドガー様に何か文句でもありますの? 少なくともリョースよりは敵を倒してますの」

「数えてたのかよ……。いや、文句はねーよ。やっぱ変なやつだなって思っただけだわ」

「でもエドガーって超いい子だよっ! かわいくて、やさしくて、うちのお嫁さんになって欲しいくらいだし!」


「え、ええっ!? いや、あの、それは……」


 ちなみに見ての通り、ランは完全に開き直ったようだ。

 秘密の共有は両者の関係を進展させ、ランは好意を持つエドガーを、同じ沼に引きずり込もうとしていた。


「お前さんも何言ってんだよ……」

「えー? リョースはエドガーのこと、かわいいって思わない?」


「バカ抜かせ、男が男をかわいいと思ったらその時点でホモだろ……っ」

「わ、わたくしは少しわかりますの……。荒っぽい方のエドガー様はカッコイイですが、やさしい方のエドガー様は、言われてみれば、とても女子力が高く、それにやさしくて……」


 エドガーはすこぶる不満だったようだが、文句を言わずに率先して先に進むようにしたようだ。

 これはエドガーをその気にさせるための、ランの策略でもあるのかもしれん。

 厄介な友人を持ってしまったものだな。


 まもなくして地下8階への下り階段が現れた。

 土壁型のフロアが地底湖型に変化して、青白い湖水を輝かせていた。


「注意して進めよ。引きずり込まれたら下手すりゃ死ぬぜ。ガブゥゥッッ! ってよ」

「う、うん……」


 水棲系のモンスターは不意打ちが得意と相場が決まっている。

 湖水に注意を向けながら、一行は地下8階を進んでいった。


 ピラニア型の小型モンスターが湖から飛び上がっては、エドガーが反射神経任せにそれを居合いで叩き斬ってゆく。

 バカの一つ覚えで、エドガーは居合いの技術だけが上達していた。


「おっ、ボス部屋かな……。なんか嫌な予感」

「同感ですの。エドガー様がいなかったらと思うと、この階層は気が気じゃありませんの……」

「クソでっかいタコが出てきたりしてなぁ!」


 反面、見晴らしのいいフロアだった。

 彼方に見える一際大きな扉を目指して進むと、案の定そこがボス部屋だ。


「や、止めて下さいませ……っ!」

「ま、水棲系って基本グロいもんねー……。覚悟しといた方がいいのかも……」


「ええっ……そ、そういうものなんですの……?」


 鳥肌が立ったのかソフィーが両肩を抱いた。

 とはいえ何が出ようと、この編成ならば負けることなどないだろう。


「うっし、いくぞ。運が良けりゃレアドロゲットだ、前向きに行こうぜ!」

「タコじゃなくてさ、でっかいウミウシとかが出てくるかもねー♪」

「ひ、ひぃっ、や、止めて下さいですの……っ。あの、ところで、ウミウシって、なんですの?」


 知らないで声を上げていたのか……。

 ウミウシとは、海にいる変なナメクジだ。変な色をしていて、変な生態を持っている。

 かくして扉は開かれ、部屋の奥に水棲系のボスが現れた。


「……なんだありゃ、ザリガニか?」


 それはエドガーの首の辺りまでありそうな青白いザリガニだった。

 珍しいモンスターだ。俺も初めて見るので名前は知らん。

 便宜上、キングロブスターとでも名付けるか。キングザリガニでは締まらんからな。


「臭っ、ザリガニ臭っ!」

「はははっ、なんだよそれ、お前ザリガニ食ったことあるのかよ?」


「あるよ! じゃなくて、来るよっ!」

「え、あるんですのっ!? キャァァッッ!!?」


 シーフギルドに入るまで、ランにも色々とあったのだろう。

 調理法と水質次第では、美味く食えるとも聞く。わざわざ食いたいとも思わんが。


「うおっ、速っ?!」


 バカでかいとはいえ、それはザリガニだ。

 一見は鈍いようで、一瞬の瞬発力が桁違いだった。


 突進と共に繰り出されたその爪を、リョースが長剣で弾き、すかさず反撃の刃を入れた。

 見ての通り硬かった。強靱な外骨格には傷一つ生じない。威嚇なのは敵は両手のハサミを掲げていた。


「こりゃヤベェわ。ここは一斉にいくぞ、エドガー!」

「うん!」


 エドガーとリョースは連携して、左右から挟み込むように斬りかかった。

 結果はさっきと同じだ。どちらの斬撃もはじき返されてしまった。


「て、手が痺れ、こいつ、硬い……」


 なまじ馬鹿力な分、反動もそれだけ大きいようだ。

 エドガーは痺れる右手を抱えたまま、わずかな傷こそ付いたが破壊にはほど遠い青白い外骨格を見つめた。


「うへ、エドガーでも斬れないとか、コイツ硬過ぎじゃん!」


 ランは射撃を諦めてダガーを抜いた。


「ならっ、ファイアボルトですのっ!」


 ゆいいつソフィーのファイアボルトならば、ダメージを与えることが出来た。

 だが致命傷には遠いな……。それにこれでは、撃てば撃つほどソフィーが狙われることになる。


『このままではソフィーが狙い撃ちにされるぞ。エドガー、お前が守れ』

『アルクトゥルス!? まさかずっと僕らを見てたの……!?』


『俺はいつでもお前を見ている。それより早くソフィーをカバーしろ』

『それもそうだね……わかった!』


 エドガーがカバーに動くと、すぐにキングロブスターの方も動いてハサミと突進を繰り出した。

 エドガーはそれも何度も易々と受け止める。


 その隙にソフィーがファイアボルトを放ち、リョースとランも骨格の隙間に刃を突き刺した。

 硬いので浅くしか入らんが、動きを鈍らせるなら十分だ。


 ちょっと前まで戦いになると腰を抜かしていた少年が、今ではこうして見事な連携を果たしている。

 ジジィに見せてやりたいくらいだ。それに良いパーティだった。


 戦況の方はというと、居合いばかりのエドガーと同じく、敵も突進、ハサミによる強引な近接攻撃、無意味な威嚇ばかりだ。

 人間の強さというのは、状況に合わせて戦術を変える応用力の高さにあると俺は思うのだが、今のエドガーにはまだ早いようだった。


『これじゃキリがないよっ、アルクトゥルス! こういうときは、どうすればいいのっ!?』

『さあな。俺は魔法使いだ、剣士じゃないからよくわからん。魔法を使えば片付くぞ』


『だから僕は魔法なんて使えないよ!?』

『なら自分で考えろ。お前はジジィの息子だろう』


 劣勢でもないがとにかく相手が硬かった。

 ソフィーもファイアボルトの連発で息を乱し、十分な反撃が出来ていない。


 リョースとランがフォローしてくれるが敵がタフでしつこい。

 このままではじきに、ソフィーを守り切れなくなるだろう。


『こんなことなら、意地を張らずに剣を借りておけばよかったな。……折れた剣で実習を行うのがそもそもの間違いだ』


 気に障ったのかエドガーは返事をくれなかった。


「そもそもの間違い――そうか、それだ!」


 追い込まれたエドガーはいつだって予想もしない行動に出る。

 今回もそうだ。ヤツは何を狂ったのか剣を投げ捨てた。


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