Ep 1/8 三回目の迷宮実習 剣術よりも冴えた方法 1/3 - 罪 -
前章のあらすじ
その日は喋るモモンガと出会い、お菓子のボーロを作る約束をすることから始まった。
エドガーはいつものように学問所へと登校し、午前を剣術の実習に勤しむ。
ところがその実習の帰りに、学内の裏道を歩いていると冒険科の学生証を拾う。
持ち主はランドルフ・ガーランド 性別・♂
少女ランは少年ランドルフだった。
エドガーが持ち主のランへと学生証を届けると、擦った揉んだの果てに二人は少しだけ親密?になった。
ところがその日の事件はそれだけに止まらなかった。
教室へと戻ると、エドガーは冤罪を着せられてしまう。
初級迷宮のバランスが狂ったのは、エドガーがアイアンゴーレムを倒したせいだと担任のレイテは言う。
このままでは実習が行えない。エドガーもショックだった。
するとそこにアルクトゥルスが介入した。
彼はエドガーの合意の上で肉体の支配権を受け取ると、学長を訪ね、学問所地下のカテドラルに向かう。
難易度の異常上昇の原因が、モンスターのレベルを上げてしまう妖精[ウィスピー・ベル]が迷宮に持ち込まれたことと断定すると、エドガーと学長はたまたまやってきたツァルトを懐柔して、初級管理迷宮を下った。
自重を知らないアルクトゥルスによる快進撃が続く。
その道中、元魔法科の生徒リシュリュの亡霊と出会った。
彼は今回の事件の首謀者でもあるフランクに騙し討ちにされ、死ぬに死にきれず今日まで迷宮をさまよってきた。
アルクトゥルスはリシュリュの魂を喰らうのを止めて、自らに憑依させた。
やがて一行は迷宮の最下層にて、妖精ウィスピー・ベルを発見する。
ところがあと一歩のところで、エドガーが肉体の支配権を奪い返してその妖精をかばった。
そこでアルクトゥルスはレオパルドンを召喚し、ウィスピー・ベルを説得させて、自らの手下にすることで事件の収拾を付けた。
これにより下級迷宮のバランスが正常化され、エドガーの冤罪も解かれ、中止の予定だった明日の実習の再会も決まった。
黒幕のフランクは亡霊リシュリュに憑り付かれ、しばらく学問所に姿を現さなくなった。
共犯者のレイテもまた、局所的な地震により自宅がメチャクチャになり、人為的な天罰を受けたのだった。
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五章 ツケは死んでも帳消しになどならない
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Ep 1/8 三回目の迷宮実習 剣術よりも冴えた方法 1/3 - 罪 -
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俺の名はアルクトゥルス。生憎と姓は持ち合わせていない。
ある者は俺を【明星の賢者】と呼び、またある者は【魂を喰らう者】と畏れ、またある時期からは【最果ての魔王】とも名指しされた。
多くの者が俺を畏れ、平和を乱す世界の脅威と見なした。
だがそんなものは知らん。俺は俺の生きたいように生きただけだ。
平民に生まれた頭でっかちな男が、ただ純粋に魔法の力に憧れ、己もあの力が欲しいと天に願い、やがてその糸口となる研究に没頭し、魂を喰らう邪法を生み出したに過ぎん。
魔王として討たれる謂われはどこにもない。
――まあ、食らえる魂はここぞと喰らって生きて来たがな。
ともかく最後は討たれ、アルクトゥルスは心やさしいエドガーとなり、この世界から消え失せた。
人間の一生はツケ払いのようなものだ。
限られた一日の中で、人は日々を生きながら前日のやり残しを片付けてゆく。
だが一日というのはあまりにも短い。
今日のツケを明日に持ち越さぬ生活など、どんなに完璧な人間だろうとも不可能だろう。
支払わなかったツケは、ときに帳消しになることもある。
支払わなかったツケが、ときに大きな負債となって膨れ上がり、人間を破滅させることもある。
負債が膨れ上がっていることを知りながらも、人は悲しくも日々の生活に手一杯だ。
ツケという視点から人生を見つめ返せば、生前の俺はツケまみれの多重負債者だったとも言えよう。
金では数えられないツケが溜まりに溜まった結果が、クリフのジジィどもに討伐されるというオチだ。
アルクトゥルスとしての人生に悔いはないが、今思い返せば無理ばかりの一生だった。
いや、ところがな……。
この過去の所行という名の借金取りはしつこい。
死ねば全て帳消しになると、てっきり俺はそう思っていたのだが、どうやらそれは思い違いだった。
ツケは時空を越えるのだ。時空を越えて、俺がアルクトゥルスだった頃の負債が、エドガーの目の前に降りかかってきた。
言わばこの事件こそが、俺とエドガーの転換期だった。
死んだらツケは帳消しになると人は思い込んでいるが、それは嘘だ。
アルクトゥルスの犯した罪は、まだこの世界から消えてなどいなかった。
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先日は俺の出番となったが、今日はエドガーの晴れ舞台だ。
週に一度の迷宮実習の日がやって来ていた。
自分でもおかしな感覚なのだが、俺はエドガーを見守るのが嫌いではない。
半分はクリフのジジィの影響だろう。ヤツと同じ時代に生きた俺は、新しい世代を見守らずにはいられない。
『エドガーを頼む』
ジジィに遺言とエドガーを託されたのもある。
だからどんな方法を使ってでも、俺はジジィとの約束を果たすために、エドガーを守り抜かなければならない。
今日までずっと、俺はエドガーを後ろから見守ってきた。
教会にて、エドガーより一足先に自我に目覚めたあの日から、俺は一時も離れることなくエドガーと共にいた。
それこそがもう半分の理由だ。
俺は息子の運動会を見守る父親の気分で、中止を免れたエドガーの迷宮実習を、今も後ろから見物していた。
「へー、やるじゃん、リョース。ぶっちゃけ、あのブタよりいい感じ♪」
「へへへ、そうおだてるなって。お前の弓もなかなかえげつねーぜ」
今はリョースとエドガーが前衛として前を守っている。
後衛のランとソフィーが弓と術で敵を狙い打ちにすると、1分も経たずに大部屋の掃討が終わった。
三回目の実習ともなると、もう慣れたものだった。
事実、彼らは開始30分で既にここ地下7階へと到達している。
このペースならば、今回のトップスコアを狙えるほどだった。




