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Ep 7/8 来たれ、魔獣王(泡まみれ)

・●


 そこから先の話はこれまでの展開とあまり変わらない。

 ツァルトが前を守っている間に、俺がでかいのを吹き飛ばして、学長が雑魚を寝かせて、残った微妙な食残しを駆除するだけの流れ作業だ。


 かくして俺たちは昼飯どきを前にして迷宮の奥底へと到達し、巨大で思わせぶりな扉を押し開いた。


「ヒッヒィィィーッッ?! ド、ドドド、ドラゴンゾンビィィィッッ?!」

「――オメガブレイク」


「うぎゃーーーっっ?!!」


 ようやく食いがいのありそうな竜が現れたかと思ったのだが、全くの期待はずれだった。

 小手調べに爆裂魔法ブレイクを叩き込むと、腐った巨竜は部屋中に弾け飛んで、それが白い灰の墓標に変わっていた。


 ドロップは――小粒のアメジストが一つだ。

 価値がないとは言わんが、雑魚に相応しい微妙なドロップだ。三角錐状のそれを俺は自分のポケットに入れた。


「フフ……もはや正体を隠す気すらありませんな……」

「さあなんのことだ? 俺はただの――心やさしい少年エドガーだ」


 今ので多少はスッキリした。

 エドガーの人生を奪う気はなかったが――もう一度俺として生きたくなってくる。

 だがダメだな。これはエドガーの人生だ。


「自分で心やさしいとか普通言うかねっ!? というより、貴様エドガーくんではないなっ!? だってっ、エドガーくんはもっとやさしいもんっ!」

「ククク……お前の闇討ちを通報せずに、毎度毎度お人好しにも見逃してくれるくらいにはな」

「おやおや、それはそれは」


 ツァルトもツァルトだが、エドガーもエドガーだ。

 迷惑なら迷惑と言えばいいだろうに、この調子ではツァルトが卒業するまで酔狂と金の浪費が続くぞ。


「ソ、ソレハ、ナ、ナンノコトカナー……? ワタシ、シラナイナー? シラナイ……ヨー? お、おのれっ、おのれ偽エドガーくんめっ! 変な酷い言いがかりは止めてくれたまえ、ええいっ、次こそ、君を、必ず、倒すっ!」

「フフ、ずいぶんと物騒な青春ですな」

「一方的な。といった言葉も頭に付け足したいところだがな」


 ドラゴンゾンビが君臨していたボス部屋を抜けると、どうやら管理迷宮の最深部に到達したようだ。青い炎の灯った祭壇があった。

 通常の迷宮ならば最深部に財宝が眠っているものだが、残念なことにこの部屋には宝箱すらなかった。


 まあ仮に宝箱が存在していも、学長は生徒たちのために残しておけと注文を付けるに決まっている。

 ケチな公子様がまたおあずけを食らって、キャンキャン騒ぐ展開になるよりはマシだろう。


「ところで、例のウィスピーベルとやらは、いつ現れるんだね?」

「ついに遭遇できなかったな。これはアテが外れたか……」


 再捜索となると糸口すらつかめん。

 これまでの強敵の駆除により、一時的に下級迷宮のバランスは保たれたはずだが、元凶を倒さなければ実習の許可は下りないだろう。


「まあ私には関係ない話――はっ!? い、いたぁーっっ!!」


 そのとき、ツァルトが叫び声を上げて奥の石柱を指さした。

 今、何かがその裏に逃げ込んだような……。


「エドガーくんは左、私は右、ツァルトくんは中央をお願いします」

「合点承知!」


 学長の提案に従って、包囲網をしきながら石柱の裏を確認すると、そこに妖精ウィスピーベルの姿があった。

 それは小さな少女の妖精で、手のひらほどの大きさしかない。おまけに全裸だった。


「おお、ようやく見つけたぞこのイタズラ妖精めっ! ここは私に任せてくれたまえっ、前衛としてがんばりんこした私に、最後の出番を――」


 ツァルトが剣を抜いて、妖精ウィスピーベルに襲いかかる。

 ところが俺の身体が勝手に動き出したようだ。


「んぎゃひぃぃんっっ?! な、な、何をしてくれるのかね、エドガーくぅんっ!?」


 これは約束が違うぞ、エドガー。

 事件解決の一歩手前で、エドガーは俺から肉体の支配権を奪い、ツァルトの背中に両手打ちを入れてすっ転ばせた。


「ダメだよ、この子、怖がってるよっ! 殺すなんてダメだ、外に出してあげようよっ!?」


 で、甘ったれが寝ぼけたこと言う……。


「それは感心出来ませんな。その魔物は戦闘能力こそ持ち合わせていませんが、非常に危険な存在です。もしも駆除せずに地上へ解き放てば、その地に凶悪な魔物がはびこる結果を招き、町や村に大きな被害を与えてしまうでしょう。……神々が我々を苦しめるために生み出した存在。とまで言われているほどのバランスブレイカーがウィスピーベルです」


 そうだ。こればかりは学長の言葉が正しい。

 しかしそれでもエドガーはウィスピーベルを背の後ろにかばい、両手を広げて必死の形相でツァルトと学長を睨んだ。


 ウィスピーベルはそんなエドガーの肩に寄った。

 エドガーが振り向くと、小さな妖精はエドガーに興味の眼差しを向けている。

 妖精は言葉を持たないので、意志疎通が難しい。


『学長の言うとおりだ。ソイツは駆除するべきだと俺は思うぞ』


 ダメだとは思うが一応説得してみた。


『ダメだ! 外の世界で普通に暮らしていたのに、フランクたちが勝手にここに連れ込んだんじゃないか! そんなの身勝手過ぎるよ!』

『それは……まあ、そういった部分も確かにあるが、これは、なかなか手に余る個体だぞ……』


 通常の妖精ならまだしも、モンスターを成長させてしまうというこの性質が大問題だ。

 しかしエドガーは一歩も退かない。絶対に守ると心に決めてしまっていた。


「うんうん……エドガーくんはやさしいね……。だが落ち着きたまえエドガーくんっ!? そいつを倒さないと、君の汚名はっ、そのまんまではないかねっ!?」

「別にいいよ! 罪のない妖精を殺してまで、僕は自分の名誉を守りたくなんかない!」


「とか言いながら、さっきまで次から次へと魔物を無慈悲に吹き飛ばしていたではないかねっ、君ぃ!?」

「そ、それはそれ、これはこれだよっ!」


「ぐぬっ、なんて便利な言葉!」

「ふむ……。では、ここはあなたの判断に任せましょう、アルクトゥルス」


 最後の部分は小声で学長は俺を指名した。

 しかしなんて甘ちゃんだろうな……。

 生前の俺なら、可哀想だから殺すなとか言われても実利の方を取っただろう。


 今回は学長とツァルトの判断が正答だ。

 だが、まあ……エドガーはエドガーで、俺の頭では浮かばない斜め上の行動を取ってくれる。


 つまりは、こういうことか。

 モンスターを強化してしまう超危険生物ウィスピーベルを、責任を持って、お前は使役するというのだな。


 わかった、それはそれで面白そうだ。ならば俺に任せろ。

 この自重を知らぬ賢者アルクトゥルスにな。


『わかった、助け船を出してやるから身体を寄越せ』

『本当っ!?』


『ああ、その甘さはどうかと思うが、発想は実に気に入った。確かにウィスピーベルには、研究価値がある』

『け、研究っ!? あの……僕が寝ている間に解剖とかしちゃダメだよっ!?』


『お前は俺をなんだと思っている……。とにかく身体を寄越せ、どうにかしてやる』


 エドガー納得すると、手足が自由に動くようになった。

 しかし妙なことに、エドガーに背中の後ろから監視されているような感覚が残っている。


 まあいい。

 俺は左右に広げた手を戻し、代わりに右手を逆手にして、魔力を増幅した。


「ヒゲェェーッッ!? まさかエドガーくんっ、さっきの魔法でっ、私たちを消し去るつもりではなかろうなっ!? ヒィィィッ、ヤメテーッ、エドガーくんの人殺しぃぃーっ!!」

「これは……召喚術ですか」


 もう少しツァルトの醜態を眺めていたかったというのに、学長め、ネタばらしが早いぞ。

 強大な魔力に大地が震えて、激しく荒ぶる力が暴風を生み出し、エドガーの長い前髪を吹き上げた。


「ショショショショ、召喚マホーーーッッ?!!」

「冥界の門をくぐりて、来たれ、魔獣王……。レオパルドンッッ!!」


 魔獣王という言葉がツァルトを震え上がらせた。

 腰を抜かしたやつは地べたをはいずり、魔獣王から逃げ出そうとした。


「ヒョゲェェーッッ?!!」


 だがもう遅い。召喚術はついに完成し、アルクトゥルスただ一人の右腕を迷宮の奥底へと空間転移させた。

 闇の空間よりシルエットが姿を現し、そして――


「……む」


 そこに泡まみれになった白いモモンガが現れた。

 毛皮が水分を吸って、ちょうど今し方洗われていたかのように毛並みが逆立ち、全体的にずいぶんと――ボリュームが減ってみすぼらしい姿だった……。


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[一言] つるるん……ツァルトのやつおもしれーw
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