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Ep 2/8 ランの落とし物 - 憎悪と志 -

 冒険者の街の往来を早足で進み、近道の裏通りに入って、朝日と小鳥たちの世界を学問所に向けて歩いた。

 校門の前までやってくると、同じ制服の学生たちの姿が現れて、僕は門衛さんに軽い会釈をしてから学内に入った。


 校門をくぐると、そこにはレンガで舗装された大きな広場があって、その向こう側に巨大な学舎がそびえている。

 青々とした木々と、まぶしい芝生がそれらを取り囲んでいる姿は田舎者の僕の目から見ても綺麗で、朝の学問所は王都でも飛び切りの清々しさに包まれていた。


 そんな恵まれた世界を眺めながら広場を歩いてゆくと、広場から左手の芝生側に外れた一角に、ソフィーとリョースくんの姿を見つけた。


「二人ともおはよう。ん、何を話していたの?」

「おはようございますの、エドガー様」

「おう、おはようさん。いや別に大したことじゃねーよ。とうとう明日だなってな」


 明日は入学して3回目の迷宮実習だ。

 今回はケニーくんの代わりにリョースくんが加わって、ランさんとソフィーと一緒に実習を行うことになっていた。


 精神的に依存しているせいかもしれないけど、リョースくんがいるだけで安心感が違った。

 折れた剣で乗り越えた2回目の実習と違って、今回の僕は気楽に構えている。


「そうだね。まあ、なるようになるよ」

「なんだよ、いつになく前向きだな、お前」

「ふふっ、リョースを指名すると言った途端にこれですの。エドガー様はリョースを信用してますのね」


「おいおい、お前の方が俺よりつえーだろ……。ま、頼られるのは悪い気しねーけどな」

「リョースくんは凄いよ。リョースくんはきっと、リーダー向きだと僕は思うよ? だってリョースくんって、面倒が見いいから……」


 以前そうソフィーに言ったら、彼女も素直にうなづいてくれた。

 ソフィーもなんだかんだ、リョースくんのことを信頼している。

 口はちょっと悪いけど、僕たちの頼れる兄貴分だった。


「朝っぱらか臭ぇこと言うんじゃねーよ……。ああそうだ、ところで、ランだっけか? それってこの前、あの最低クソ野郎に弓を向けたやつだよな? ……後で軽く挨拶しておかねーとな」

「なら、僕がランに取り次ごうか?」


 同級生の女の子というだけでちょっと身構えてしまうけど、ランさんはなんでか平気だ。

 爺ちゃんの友達も荒っぽい人たちが多かったから、元シーフギルドのランさんには親近感を感じる。


「いやいい。お前は訓練に集中しな。明日はソフィーに良いところ見せてやりてーだろ?」

「リョ、リョースくんっ……?! ソフィーの前で変なこと言わないでよっ!?」

「ふふふ……それは悪い気がしませんの。ですけどリョース、エドガー様は馬車でお会いした頃から、ずっと立派ですのよ」


「そりゃ間違いだな。あの頃のコイツは盗賊に腰を抜かすくらいのヘタレだった。だが今は違う。元々は弱虫のくせに、大したもんだよ」

「僕は、自分のことを今も、ただ弱虫だと思ってるけど……。あ」


 予鈴の鐘が一つ鳴って、僕たちは機械的に校舎に向かって歩き出した。

 ところが何かチクチクと首筋が落ち着かない。

 どうしたんだろうと、僕は後ろを何気なく振り返った。


 すると視界の彼方に、あのフランク・リーベルトの姿を見つけてしまった。

 物陰から僕たちを睨むその姿に、抑えようのない身震いが走った。


 僕に対する恨みをあんなふうに偏執的に引きずって、こうやって遠くからただ凝視する人間の頭が、僕には理解できない。


「ん、どうかしたか、エドガー?」

「なんでもないよ」


 フランク・リーベルトは僕を憎悪していた。

 朝の貴重なひとときを使ってまで、彼は僕への怒りを満たすことを選んだ。到底普通じゃない……。

 明日の実習が心配になった……。



 ・



 教室に着いてレイテ先生のいつもの嫌みを聞き終えると、英雄科の僕たちはそれぞれが選択した実習に向かった。

 両手剣と片手剣の授業は同じ訓練棟で行うため、途中までリョースくんと一緒に向かって、中で別れた。


 早い生徒は既に片手剣を握っていて、自主練に励んでいる。

 僕も同じように訓練を始めると、間もなくして片手剣の授業も正式に始まった。


「おぬし、また折れた剣で参加しておるか……。うむ、見るに忍びない。ワシのを貸してやるから、こっちに来なさい」

「あ、いや……いいんです先生。未熟な僕が使うと、また折ってしまいそうなので、ごめんなさい、大丈夫です……」


 一人だけ折れた剣で訓練に加わると、どうしても浮いた。

 剣術担当の初老の先生が、そんな僕に温かい言葉を投げかけてくれたけど、僕は僕の肉体のことを少しずつ理解してきていた。


 思い込みの激しい生徒と思われたかもしれない。

 だけどこれが正しいんだ。借りたところで折ってしまうなら、折れたまま剣を振るのが正しい。


「うむ、体力テストによると、おぬしは類まれな膂力(りょりょく)を持っているようじゃな。恵まれた肉体ゆえに、得物が限られるとは、剣士として羨ましい限りじゃ」

「でもそれって……。あ、あの、先生……僕って、もしかして剣は、全く向いていないんでしょうか……?」


「カカカ、世界は広い。おぬしのムダに高い膂力でも、折れぬ剣がどこかに眠っているじゃろう。……しかしそれまで、折れたそれで戦うというのも、ワシはどうかと思うぞ」

「そうですけど、僕には金銭的な事情もありまして……。なので今週はこれでがんばってみます」


「それでも己の剣を手放さないその心やよし。期待しておるぞ」

「はい、がんばります!」


 僕は折れた剣で、不器用なのはわかっているけど僕なりに教練をがんばった。

 馬鹿力の爺ちゃんだって、剣を使いこなしてきたんだ。

 だったら爺ちゃんに育てられた僕にだって、きっと出来るはずなんだ。


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