Ep 1/8 朝起きたらモモンガにごすずんと呼ばれた朝 - ヤシガニ怖い -
前章のあらすじ
ある祝日の朝、エドガーが水路で丸白鳥亭の洗濯を手伝っていると、そこにリョースとケニーが訪ねてきた。
すぐに洗濯を終えて宿に戻ると、ケニーとティアたっての願いにより、エドガーは手伝いそっちのけで急きょお菓子を作ることになった。
ほどなくして店にソフィーもやってきて、彼らは手作りの菓子と共に、騒がしくも温かな時間を過ごしていった。
ところがエドガーの作ったお菓子はやはりおかしかった。
新作のスコーンは傷を持つ者にはかゆみをもたらすが、同時に傷を癒す力を持っていた。
冒険者たちからすればそれは最高の回復アイテムだったが、エドガーからすればお菓子屋さんという夢を阻む、余計でしかない副作用だった。
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それから一日が終わり、エドガーが眠りについた夜更けにアルクトゥルスが動き出す。
彼の狙いは亡霊を喰らい、己の力を高めること。
彼はベルートからいわく付きの土地アクショを聞き出し、真夜中の都を駆けて、とある廃墟に行き着いた。
その廃墟はかつて滅びたウラド公爵家の屋敷だった。
謁見の間にて、末代のウラド公爵とその家臣たちに取り囲まれるが、アルクトゥルスは憑り殺されるどころが返り討ちにする。
ウラド公の亡霊の言葉と、喰らった兵士たちの魂から、アルクトゥルスはこの屋敷に起きた悲劇を知った。
今の王家は不貞の子の末裔であり、直系の血は流れていない。
彼らを滅ぼしたのは、フランク・リーベルトの先祖。彼らは真実ごとこの世から抹消されてしまった。
亡霊たちは自ら、フランク・リーベルトと対立するアルクトゥルスに魂を喰らわれることを望み、一つの魂となった。
またそのすぐ後、同級生のランと遭遇したりもした。
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丸白鳥亭に白いモモンガのレオパルドンが訪ねてきた。
しかしマイペースなティアと話が噛み合わず、レオパルドンは大変に苦労した。
彼はかつての主人アルクトゥルスの復活を察知し、この宿を訪ねたが、生憎と宿帳の名義はエドガーだったため、すぐに会うことは叶わなかった。
その夜、話を聞いたアルクトゥルスが宿の外でレオパルドンを待つと、ようやく約50年ぶりの再会が実現する。
こうしてレオパルドンのレオが仲間に加わった。
レオは小さな身体でバターピーナッツをかじり、愚かな人間から餌を恵ませることに成功するのだった。
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四章 迷宮実習の危機 言葉を慎みたまえモモンガ野郎
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Ep 1/8 朝起きたらモモンガにごすずんと呼ばれた朝 - ヤシガニ怖い -
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僕の人生では前からずっとそうだったけど、翌日に目覚めると部屋がおかしなことになっていることなんて、そう珍しくもなかった。
イスを引っ込めたはずの勉強机がだらしない斜め向きになっていたり、覚えがないのに机の上が片付いていたり、身に覚えのない正体不明の私物が増えていたり、極め付けは日曜学校でもらった宿題に、誰かが勝手に答えを書き込んでいたりもした。
しかも全問正解だった。
だけどこういうパターンは生まれて初めてだ……。
だって目を開けると、僕の胸の上に白いモモンガが乗っていて、寝起きの僕の顔をジッと見つめていたんだから……。
「おはよう、新しいごすずんっ!」
「ぇ……?」
寝起きに夢の続きが幻聴となって現れることはあるけど、視覚にまで幻が現れるのは初めてだ。
しかもそのモモンガは心地よい重さとやわらかい毛皮を持っていて、まるで現実の生き物みたいだった……。
これはきっと夢だ。目を閉じて、しばらく甘いまどろみに身を任せた。
胸の上の軽い圧迫感はいつまで経っても消えてくれない。
「あ、あれ……? 今さっき喋ったの、まさか君じゃないよね……?」
白いモモンガも消えない。
声をかけると、彼は閉じていた大きな黒目を広げて僕を見つめた。
「初めましてごすずん、ボクチンはレオパルドン。聞いて驚け? ボクチンは、アルクトゥルス様ただ一人の――右腕にして最古参の使い魔なのだ!」
「やっぱり、夢かな……」
僕の胸の上で、白いモモンガのレオくんが立ち上がって、ビシッとポーズを決めたので僕は目を閉じた。
こんな生き物が現実にいるわけがない。やっぱり夢だ。
「寝ないでよぉーっ、ボクチンは夢なんかじゃないよぉっ、起きてーっ、起きてよーっ、新しいごすずぅんっ!」
「そうは言われても……あっ、ごめん、大丈夫?」
すっかり眠気が飛んでしまっていたので身を起こすと、胸の上のレオくんが宙に投げ出されてしまったので、僕は彼を抱き留めた。
……今、一瞬このモモンガ、浮いていたような……。
「いいんだ。ボクチンのこのもふもふは、ごすずんのために存在しているんだ。朝からめいっぱいモフってくれても、ボクチンは、全く構わないっ!!」
「えっと……。こう?」
片手で胸に抱いたまま、指先で小さな頭をかいてやるとレオくんが目を細めて喜んだ。
今日まで色々あったけど、こんな驚きに満ちた朝は初めてだ。
「キュゥゥ……♪ 聞いてたとおり、新しいごすずん、凄くやさしい……」
「それってアイツ――アルクトゥルスのこと?」
「その通りだ、ごすずん! ボクチンはアルクトゥルス様の使い魔にして右腕だ! 今日からは、ボクチンが、新しいごすずんをバックアップしてやるぞ!」
「ぼ、僕が使い魔なんて、そんなの恐れ多いよ……。使い魔は、僕にはいらない」
「ピ、ピィ……」
「えっ、わっわっ、ごめん、泣かないで……。わかったよ、だったら、何か困ったらお願いするね……?」
ビックリした。モモンガって人間みたいに感情的に涙を流すんだ……。
悲しそうなレオくんの背中をやさしく撫でながら、僕は彼をゆっくりと慰めた。
「……約束だよ、ごすずん?」
「うん、何かお願い出来ることないか、考えておくよ」
「えへへ、ボクチン嬉しい! 新ごすずんのためなら、ボクチンなんでもやるよっ! この魔獣王レオパルドンに任せて!」
「…………うん」
今、魔獣王って言ったかな……。
ならこの子って、実は凄い力を持っているのかもしれない。アイツの右腕だって言ってるし、きっとそうなんだ。
「どうしたごすずん、何かボクチンの命令、思い付いたっ!?」
「そうじゃないけど、魔獣王ってことは、レオくんって凄く強いんだよね。小さいのに強いなんて、カッコイイなぁ……」
「う……。そ、そうだよっ、ボクチンは、アルクトゥルス様の右腕だから、ニャ、ニャニャッニャンコ、なんて、イチコロなんだ、ぞ……! け、けど……出来たら、猫はこの宿に近付けないでくれると、悲しい結果になるかもしれないから、嬉しいぞ、ごすずん……?」
僕の胸の中でレオくんが震えていた。
これは強がっているだけで、きっと猫が苦手なんだ。ヘタレの僕には、そんなレオくんがかわいく見えた。
「猫が来たら僕がやっつけるね、レオくん」
「ほ、本当……? カラスと鷹と犬と蛇とヤシガニもやっつけてくれる……?」
「うん、いいよ」
「ピィ……♪ ごすずん、いいやつ! かわいくて、やさしいごすずんも、悪くない! ボクチン、新しいごすずん、好きー!」
よしよしと、またやさしく頭を撫でるとレオくんは僕にデレデレになった。
僕は最初のお願いとしてレオくんに着替えを手伝ってもらって、ティアとクルスさんたちのいる一階に下りた。




