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Ep 7/7 初めての迷宮と鋼と復讐者 9/9 - 力ずくのハッピーエンド -

 僕は爺ちゃんが大好きな香りの良いキノコを何本も見つけて、もっと爺ちゃんを喜ばせたい一心で、一人で森の奥に進んでいってしまった。

 そんな小さな僕の前に、巨大なオウルベアが現れた。


 クマとフクロウの二つの特徴を持つその怪物は、今まで出会ったどんな生き物よりも大きかった……。

 今以上に小心者だった僕は、あまりの恐怖に腰を抜かせて、呼吸すらままならなくなるほどだった。


「一人で森の奥に入るなと、あれだけ言ったというのに……しょうのないやつだ」

「じ、じいちゃ……たす、け……」


 その時は爺ちゃんが助けにきてくれた。

 英雄クリフと呼ばれた老父はまだ4歳だった僕を教会から引き取って、本人の故郷であるモルジアに定住した。


 誰もが恐れる超大型のオウルベアが咆哮を上げても、歴戦の英雄クリフにはただ邪魔ったい障害物でしかないようだった。


「いいか、エドガーよ? 一見この通り、刃が通らぬように見える相手にも、やり方というものがある」


 爺ちゃんが片手剣で相手の足を斬りつけても、異常な硬度の毛皮に阻まれて刃がまともに通らない。


「よそ、み……しな、で……じいちゃ……」


 爺ちゃんは剣を鞘に戻した。

 そしてオウルベアが爺ちゃんを狙って鋭い爪で殴りかかってくると、爺ちゃんはそれにピッタリとタイミングを合わせて、暴風をともなう居合い斬りを放った。


 次に僕が目を開けると、オウルベアの手首がどこかに飛んでいた……。

 オウルベアはきっと、爺ちゃんが怪物に見えたのかもしれない。情けない悲鳴を上げて逃げて行った。


「ガハハッ、情けねぇクマ野郎だぜ! どうだ、わかったかエドガー? ワシの息子になったからには、お前もいつかこれくらいやれるようになれよっ、ガハハ!」


 そうか……。僕、やっとわかったよ、爺ちゃん……。

 大好きだった爺ちゃんはもういない。

 恐怖による過呼吸にあえぐ貧弱な少年はその日、己の最も身近に本物の怪物がいることを知った……。



 ・



 爺ちゃん……アレってさ……。アレって――

 アレって結局爺ちゃんの力ずくじゃないかっ、あんなの参考になるわけないよっ!!


 僕は残り一枚のアーモンドクッキーを口に押し込み、噛み砕いたら味あわずに一気に飲み込んだ。

 つまり、つまり……爺ちゃんの、英雄クリフの極意はすなわち……馬鹿力には馬鹿力だ! 強い攻撃が飛んできたら、それ以上に強い力で跳ね返す! そういうことだよね、爺ちゃん!


 僕は折れた自分の剣を拾い上げ、こちらに近付いてきたアイアンゴーレムの前に飛び込んだ。

 鞘に長剣を戻し、爺ちゃんの居合いのマネをして、敵が攻撃を仕掛けてくるのを待った。


「何考えてんだおめーっ!? んなことしたら死ぬぞ、アホーッッ!! お前のその腕はっ、俺に美味い菓子を山ほど作る――――ヒョゲェェェェーッッ?!!」


 爺ちゃんの戦い方は僕が一番知っている。

 ゴーレムのハンマーが僕を斜めに叩き付けてきたけど、僕は折れた刃を届かせるために前方に跳躍して、懐に潜り込むと、降ってくる相手の手首に居合いを重ねた。


「う、嘘……エドガー、別人みたい……」


 斬れた……。ハンマーごと敵の手首が吹っ飛んで、さらなる追撃の好機がやって来た。


『エドガーッ、首の後ろを狙え!』


 初めてアイツの声が聞こえた。

 僕は力任せの瞬発力で敵の背後に回り込み、兜と鎧の隙間に折れた刃を目一杯に突き刺した。

 するとたったそれだけでゴーレムが動きを止めて、ただの鉄クズに戻っていた。


「やった……」

「な、なんだ!? こいつらまとめて止まっちまいやがったぞ……!?」

「やったっ、なんかよくわかんないけど、やったぁーっ! エドガー偉いっ、やれば出来る子じゃんっ! カッコイイッ、うち惚れ直しちゃった!」


 一体倒しただけだというのに、全てのアイアンゴーレムがピクリとも動かなくなっていた。

 拍子抜けと安堵のあまりに僕は床にへたり込んだ。すると大興奮しているランさんに飛び付かれることになった。


『その個体が指令機だったらしいな、上出来だ』


 少し遅れて、封鎖されていたフロアの扉が開くと、ゴーレムたちは灰へと変わった。

 さらにその灰が金属の延べ棒に変化したのも、普通なら驚くべきところだけど、身体が驚愕という感情に慣れてしまっていた。


「僕、やったの……?」

「やったな、エドガー! おめーが無事で良かったぜ、ホントによぉっ!」

「うわ、豚の態度が別人過ぎてキモい……」


 ケニーくんがお菓子で釣れる人だったなんて意外だ……。

 いやおかしいのはケニーくんだけじゃなくて、あのランさんもだ。いい匂いのする女の子がベタベタと僕の肩に頬を寄せて、いつまでも離れてくれない。


 かと思えば、場違いに陶酔した瞳が僕をのぞき込んだ。


「ねぇ、エドガー……。エドガーはうちの命の恩人だから……うち、何されてもいいよ……? すっごいかっこよかった……」


 胸をツンツンと付かれるとくすぐったい……。


「てめーっ、エドガーは純粋なんだからっ、変なこと教えんじゃねーっつってんだろが!」

「その純粋な子にぃ……汚い欲望まみれの大人の世界を見せるのが、最高に気持ちいいんじゃん……♪」


「おめーっ、最低だな!?」


 もう冒険どころではない。

 不思議なインゴッドを回収して、僕たちはそこで制限時間までなんでもないお喋りをすることにした。


 それにしても、ランさんって、全く胸がないな……。不思議なくらいぺったんこだ。

 どんなに胸がない子だって、女の子なら多少はあるはずなのに、なんの引っかかりもないところが、逆に引っかかる……。


「で、アイツ(・・・)どうする?」

「ぶっ殺す! と言いたいところだが、相手は貴族様だからな、クソッ……手が出せねぇぞ……」


 僕もフランクが許せない。ケニーくんとランさんを巻き込んでソフィーを傷つけた。

 おとがめ無しなんて結末は認めない。


 ただどうやって罰すればいいのか、僕たちの頭ではなかなか浮かばなかった。



 ・



・●



 まさかのまさかだな……。

 まさか、俺を討った男の剣術で、今度は己が生き延びることになるとは思わなかった。


 勝利の美酒に酔っているお前には聞こえないかもしれないが、正式に認めてやる。

 エドガーよ。お前は俺の来世であり、そして俺を討ったクリフの息子だ。


 俺は……俺はお前の成長が嬉しい。

 お前は俺であると同時に、俺が見守ってきた息子同然の存在だからだ。

 ジジィもヴァルハラでバカ騒ぎをしながら、きっとお前の成長を喜んでいるだろう。


 それにしても、あの勘違いストーカー野郎をどうしたものか。

 俺たちをハメて、俺の女を苦しませたその報い、必ず受けさせてやるぞ。俺もエドガーも、お前を絶対に許さん。


 しかし、それはそれとして――このランという女も悪くない。

 だが、恐ろしく乳がないな……。それに気のせいか、どことなく違和感がある……。

 まさかとは思うが、いや、まさかな……。


 仮にそうだったところで、俺の方は別になんの不都合もないのだが、エドガーからすれば新たな衝撃となるだろう。

 まあいい。エドガーが承知するしないはさておき、ランも気に入った。これからはランにもちょっかいをかけてゆくことにしよう。

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