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Ep 7/7 初めての迷宮と鋼と復讐者 8/9 - アルクトゥルスとの邂逅 -

・○


 真っ暗闇の世界で、僕は僕を見た。

 その僕は自信に満ちあふれた凛々しい顔をしていて、僕よりも背筋をしっかり伸ばして立派にしていた。


 そしてすぐにわかった。その存在こそが、今日までの違和感の全てなのだと。


 彼は僕をあきれた目で見ていた。僕をイライラと睨んでいた。

 僕の肩にその両手を置いて、乱暴な僕は僕を揺すりたくった。


「おい、戦わないなら早く身体を寄越せ!」

「君は誰……? もしかして君が、君がもう一人の僕なの……?」


「ああそうだ、やっと会えたな! だがな、今はこの逢瀬を喜んでいる場合ではない! 鉄臭い足に踏み潰されて、潰されたカエルみたいになって死ぬ前に、俺に身体を明け渡すか、やつらに電撃魔法をぶち込め!」

「そう言われても、どうすれば君に身体を渡せるかもわからないし、魔法の使い方なんて、もっとよくわからないよ……」


 僕と同一人物だなんてとても信じられない……。

 キリッとしている僕は、僕とは思えないほどに魅力的で、自分との格差を感じさせられた。


「く……なんで俺なのに魔法が使えないのだ、お前は……」

「そんなこと言われても困るよ、僕は君じゃなくて、僕だもん……」


 ただ一つ安心する部分があるとすれば、彼は僕を否定なんてしなかった。

 変な話だけど、もう一人の僕に僕は好かれているようだった。

 ずっと僕を後ろから守ってくれていた人だから、僕だってあまり言い合いなんてしたくない。


「いいかエドガー、よく聞け。このままでは、お前は死んで、あの勘違いストーカー野郎はソフィーをそのうちめとる」

「それは……」


「そうなれば、ソフィーの人生は不幸なものに変り果てるだろう。フランクは女を召使いか何かと勘違いしている。おまけにあの性格だからな、子供が産まれたら妻を冷たくあしらう姿が目に浮かぶぞ」

「それはイヤだ……」


「俺だってイヤだ。ならばやることはわかっているな? 魔法がダメだというならなら、魔法以外の方法でかまわん。あのガラクタどもをぶっ壊せ!! ……言っておくが、相撲以外で頼む」


 あの情けない戦いを見られていた。僕は急に自分が恥ずかしくなって、彼から目をそらした。

 けど肝心なことを思い出した……! コイツ、この男、よりにもよって……あんなことを……!


「な、なぜ睨む……? 俺はお前に会えて内心、非常に喜んでいるつもりなのだが、なぜ俺が俺を睨む……?」

「当たり前だよっ!! 君ッ、君ソフィーにキスしたでしょっ、僕の身体なのにあんなの酷いよっっ!!」


「ああ……お前の代わりに唇を奪って、ついでにヤツを挑発しておいてやっただけだろう」

「最悪だよっっ!! 元はと言えば、君がフランクを挑発したからこうなったんじゃないかっ!!」


「バカを言うな、俺の女にまとわりつくカスに、相応の報いを与えただけだ。昔の俺なら殺して、魂を奪い取っていただろう」


 本当にこの人、僕なの……? それに魂を奪うって、えっ、それはどういう意味……?

 この人、なんだか普通じゃない。

 頭のネジが数本足りていないというか、何をしでかすかわからない危険人物だ……。


「僕の意識を奪って、ソフィーの唇を奪った事実は変わらないじゃないか!! 君なんて最低だーっっ!!」

「だったらその怒りをあのガラクタにぶつけろ!」


「言われなくてもそんなのわかってるよっ! 友達を守って、生きて迷宮から戻って、そして……そしてアイツを殴ってやるんだ!!」


「ククク……悪くない、それでこそ俺だ。さあ起きろ、エドガー。お前はこの程度の雑魚に負ける男ではない、叩き潰せ!」

「うんっ!」


 激情が僕の意識を現実に呼び戻し、閉じていた目を見開かせた。

 そこにはアイアンゴーレムが片足を上げて、僕の頭を踏み潰そうとしている姿がある。


 ところがその巨体がグラリと揺れて、僕のすぐ隣の地面を踏み抜いた。

 ケニーくんだ……。僕を守るために、あんなにも怖がっていたゴーレムにケニーくんが体当たりを入れてくれていた。


「起きろヘタレッ!」

「ケニーくん!?」


 ゴーレムから距離を取ってから僕はボロボロの床から立ち上がった。

 見れば向こう側ではランさんまで復活していて、アイアンゴーレムを引き付けている。


「あのよ……。あのクッキー、今まで食べた中で、一番美味かったよ……。こんなに美味い菓子作るやつを、俺の目の前で死なせてたまるかよっ!」

「原動力が食い意地なのマジうけるー♪ けどマジ凄いとこは同意っ、凄いよ、エドガーのクッキー!」


「うっせー! 力がグングンあふれてくんのは事実だけどよーっ、大事なのは、効果よりも菓子の味だろうが、おめー全然わかってねぇなっ!!」


 力のアーモンドクッキーの効果を、二人は僕なんかよりよっぽど上手に使いこなしていた。

 筋力任せのフットワークを瞬発力に変えて、ランさんは妖精のようにヒラリヒラリと全ての攻撃をかわしていた。


 ケニーくんももう一体を引き付けてくれている。

 だったら僕はどうしたらいいだろう。


 普通に殴りつけてもこいつらは倒せない。長剣も折れてしまった。

 そうだ、こんな時、爺ちゃんならどうする……?

 僕は英雄クリフの息子だ、爺ちゃんのやり方を思い出すんだ……。


 そう、あれは5歳の頃、じいちゃんと森で山菜狩りをしていたときのことだった。


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