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Ep 7/7 初めての迷宮と鋼と復讐者 6/9 - 物言わぬ殺戮者 -

・●


 そこから先は順調なものだった。

 スライムが減って、泥の怪物アースマンや、狼タイプが現れるようになっていったが、エドガーはエドガーなりにしっかりと前衛を張った。


 あの大狼と比較すれば大したことなんてない。そう思うと一気に楽になったようだ。

 着実に一匹一匹と敵を撃破して、彼らは荒削りながら勇猛にも前進していった。


 ところが4層目までやってくると、土と根の壁におおわれていた世界が、灰色の石壁の世界に変わった。


 それだけではない。どう考えたって妙だった。

 二つ目のフロアにやってくると、背後の扉がいきなり轟音を立てて閉まって、奥へと続く扉まで立て続けに閉じていった。


 そこは広大な部屋だった。学問所の講堂並みの大きさを持ち、四方には巨大な鎧人形が4体も置かれていた。

 無言で威圧を放つその物体に、エドガーはまた身をすくませている。


「ア、アイアン、ゴーレム……マ、マジか……」


 ご名答だ。それはアイアンゴーレムと呼ばれる魔法生物だ。

 あの気の強いケニーが動揺に震えながら、一歩下がるのも当然の、下級迷宮に現れることなどあり得ない危険な存在だった。


 彼はしきりに4体のアイアンゴーレムに警戒の目を送りながら、すっかり萎縮して震えてしまっていた。


「なんですの、それ?」

「アハッ、おでぶちゃんちょービビッてるぅ~♪」

「大きな声上げんな、アホ……ッ」


 およそ身長2.5mを体躯を持つ鉄の怪物が4体だ。

 エドガーもその意味を理解するなり、ケニーほどではないが小さく震えた。


「それ、爺ちゃんから聞いたことがある……。動いてるやつに遭遇したら、逃げろって……。ワシならぶっ壊せるけどな、グワハハ! とも言ってた……」


 いや……あのジジィはそもそも規格外なので参考にはならん……。

 だがな、お前がその身体をちゃんと使いこなせれば、厄介ではあるが倒せない相手ではない。


「お前の爺ちゃんホラ吹き野郎だろ……。それよりエドガー、ちょっとお前様子見てこい……。ケリ入れろ、ケリ入れてこい……」

「それさ、退路の確保が先じゃないの?」


「その退路が塞がってるからヤバいんだろっ!?」

「そのヤバい状況で、なんでエドガーに危険を押し付けるんですの……?」


 確かにそうだ。だがエドガーは、これをソフィーに勇敢さを見せるチャンスだと考えたようだ。

 よって彼は長剣に手をかけて、意思表示の代わりに一歩歩いてみせた。


「この中で僕が一番頑丈だから、僕が行くよ」

「エドガー様……。わかりました、どうかお気を付けて……」


 ほんの少しだけエドガーの自尊心が満たされ、それより遙かに大きな後悔が彼の心を捕らえた。

 恐怖に震えながらも、先ほどの失態を挽回したい一心で、彼はそびえ立つアイアンゴーレムの前に進んだ。すると――


「下がれエドガーッ、ソイツ動くぞっ!」

「う、うわぁっ……!?」


 動く鉄の甲冑、アイアンゴーレムが緩慢な速度で歩き出した。

 魂なきその怪物はエドガーを敵とみなし、虐殺するべくこちらに迫り寄って来ている。


 俺が介入すれば対処出来る。だがエドガーは肉体を明け渡そうとしなかった。

 もう一人の自分には頼らないと願掛けしたことが自己催眠となり、俺の支配権を大幅に奪い取ってしまっていた。


 まずいな、このままではまたODの顔を拝むことにもなりかねんぞ。


「キャッ、だ、誰っ!?」


 さらに問題が重なった。


「――えっ、あなた、まさかフランクッ?!」


 ソフィーの悲鳴にエドガー振り返ると、あの許婚のフランクがソフィーを背後から拘束する姿があった。


「何コイツッ、というより、何その頭っ!?」

「てめぇ、どっから湧いたっ!?」


 しかしな、こんな緊急事態なのに悪いが、俺はつい笑ってしまった。

 ヤツがまるで音楽家のような大仰なカツラをかぶり、俺にファイアーボールを跳ね返されて焼け散ってしまった無惨な頭をおおい隠していたからだ。


「ソフィーを離せっ、フランクッ! なんでお前がここにいるんだっ!?」


 正面にソフィーを拘束したフランク、四方にアイアンゴーレムが4体という素敵なシチュエーションの完成だ。

 だというのに独占欲の強い貴族様は、逆恨みの炎をただただ燃え上がらせるばかりだ。


「様を付けろと言いたいところだが――知っているか、エドガー? 迷宮での死者は、全て事故として処理されることを……」

「お、おい、待てよおいっ、まさかこの状況、おめぇ……?!」


「関係ない豚は黙っていろ!」

「俺は豚じゃねぇっっ!!」


「エドガーッ、俺を怒らせた報いを受けろ! ここが貴様の墓標だ! 魔法の使えないお前には、このアイアンゴーレムは絶対に倒せない!」


 なるほどな。実習が始まる前のレイテの冷酷な笑いを思い出した。

 恐らくはヤツが共犯者だ。俺たちはコイツらにハメられたのだ。


 アイアンゴーレムが4体も侵入者を待ち伏せしている迷宮が、下級迷宮に判別されるはずがそもそもない。

 恐らくはもっと難易度の高い迷宮に、あの下級迷宮の証である翡翠の飾りをかけて、レイテと組んでここに俺たちを導いた。


「離してフランクッ、戦わないと貴方まで死んでしまいますのよっ!?」

「何こいつキモッ、ソフィーを離しなよ、この変態野郎!」

「何とでも言えばいい! 貴様らはここで死ぬのだっ、俺の名誉を汚し、女を奪い、髪を焼いて人を笑い物にした報いを、ここで受けるがいい!! さらばだ!!」


 スクロールをやつが開くと、光がソフィーとフランクを包み込む。

 まずいな、あれは帰還用の魔法が封じられた物だ。


「それはまさか……フランクお願い止めてっ、置き去りになんてしたらみんなが死んじゃいますのっ、ダメッ、フランク止めてっ、ああああっっ!?」


 やつらは迷宮から光と共に消えた。

 俺たちは取り残され、4匹のアイアンゴーレムに今も取り囲まれていた。


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