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Ep 2/7 英雄科二日目 脳筋力テスト

・○


 昨日の晩は楽しかった。

 お客さんたちは荒っぽかったけど、みんな明るくて、まるでうちの爺ちゃんと話してるみたいだった。


 今日は英雄科の授業二日目だ。

 クルスさん手作りのハムサンドを食べながら登校すると、あの神経質なところのある先生が今日の説明をしてくれた。


「今日はお前たちの適正を見る。何が得意で、どれだけ動けるのか見せてもらうぞ。言っておくが、弱いやつは弱いやつと組ませる。少しでも成績を上げたかったら結果を出せ」


 高圧的でイヤなやつだとリョースが言っていた。

 確かに常にイライラしていて、僕たちとの授業をまるで楽しんでいないように見えた。


 ともあれ実習だ。僕らは英雄科の有するトラックに出て、体力テストを受けた。


「センコーから聞いたぜ、お前裏口入学なんだってなー!?」


 どこのテストも混雑していたので、隅っこで様子を見ていると同じのクラスの生徒に声をかけられた。


「え……いや、そんなはずはないけど……」

「嘘吐くなよ、お前見るからに弱そうだ。そんななよなよした性格で、冒険者が務まるわけねーだろ!」


 僕には何を考えてこんなことを言うのか、まるで理解が出来なかった。

 彼の言い分は酷いのだけど、なんだか意思のこもってない、空っぽの言葉に聞こえたせいかもしれない。


「おいおい待て待て、そいつを性格だけで判断しない方がいいぜ。何せ入学早々――」

「待ってよ、リョースくんっ! その話は誤解だって前から言ってるじゃないかっ……」

「なんだよ、お前。こんなのの肩持つのかよ? ああそうか、お前も裏口入学だから自分が言われみてぇな気分になんだろ?」


 庇ってくれるのは嬉しいけど、入学試験での一件はリョースくんの誤解だ。

 僕を裏口入学呼ばわりした生徒はリョースくんにまで暴言を吐いて、威圧するような目つきで僕らを睨んでいた。


「仮にそうだとしても、実力があるならなんだっていいだろ。こういうのは結果が全てだぜ」

「んだと? 俺は一年前から実践に出てたんだぜ。まあ見てな、全記録でお前をぶち抜いてやるからよーっ!」


「そりゃ無理だ。コイツはお前とは格がちげーんだよ」

「リョ、リョースくんっ! 勝手に困るよそういうのっ!」

「なんでそんなミソッカスの肩なんて持つんだかなぁ。そんな雑魚と組まされるやつが可哀想だぜ! なあそうだろ、みんなー!? コイツはコネだってよーっ、コネ野郎だ! そんなお荷物と組みたがるやつなんていねぇよなぁ!?」


 ざわざわと周囲がどよめいた。中には煽られて、白い目で僕たちを見る人もいた。

 嫌なやつだ。確かに爺ちゃんのコネなのは本当だけど……。


「そうか、けど俺だってコネだぜ?」

「な、なんだって!?」


「うちのギルドの団長がよ、このまま若いうちに命落とさせるのはもったいないってよ、ここを紹介してくれたんだ。たぶん、俺と似たような立場のやつも他にいるだろ。コネじゃねーよ、俺たちは凄ぇやつに推薦されたんだよ。なぁ、エドガー、そうだって言っとけ!」


 爺ちゃんの推薦……。そうやって捉え直すと、後ろめたさよりも誇り高さを感じた。

 僕は爺ちゃんに、英雄クリフに認められてここにいる。


「ありがとう、リョースくん。言い合うのは結果を出してからでもいいよね」

「けっ……チビのヘタレのくせに生意気なやつ……。せいぜい見てろよっ、お前らに恥かかせてやるからよーっ!」


 意地の悪い生徒はそこで一度引き下がった。

 そんなやり取りを担任のあの先生が、忌々しそうに見ていた。

 まさかあの人が焚きつけたなんだことは、ないよね……。


「まあ俺とお前なら、すぐにこんな汚名なんぞひっくり返せる。鼻明かしてやろうぜ」

「そうだね。リョースくんと同じクラスで良かったよ……」


 まずは短距離走のテストをした。

 先に走ったリョースが涼しい顔で最高スコアを上書きして、1トラック22.7秒を出した。


 ちなみにさっきの嫌なヤツは、重い体格なのもあってか31秒台だったらしい。次は僕の番だ。ところがいきなり僕は出遅れた……。


「うはっ、だっせー!」

「ぼんやりしてるからなあ、アイツ……」


 焦った。このままじゃバカにされっぱなしになってしまう。

 だから僕は、ツァルトの剣を折ったときの感覚を必死で思い出そうとした。


 今度は手ではなく、足を使ってあの力を発揮すればいい。

 大地を力いっぱい蹴ると、僕の身体が前へ前へと跳ね飛んだ。


「は、なんだよアイツ!? あ、転んだ……」


 だけどダメだ、これだとカーブで曲がれない。

 僕は転んだ。でもすぐに立ち上がって、最後の直線で勝負をかけた。頭の中が真っ白になった。


「あ、あれ……」

「ははははっ、ほら見ろっ、すげーんだか運動音痴なんだかわかんねーけど、やるだろっ、うちのエドガーはよっ!」


 夢中になっていたら意識が途絶えて、ゴールしている自分がいた。

 それともう一つ、僕だけ呼吸が乱れていなかった。


 スコアは1トラック24秒だと言われた。

 ……また忌々しそうに、担任の先生が舌打ちするのを見てしまった。あんなふうに敵視される理由がわからない……。


「で、デタラメだろあんなのっ!? てめーみたいな、すぐ転ぶやつとパーティなんて組めるかよっ!」

「けどお前より足はえーだろ? ならエドガーの方が優秀だろ」


「うるせーっ、次はアレで勝負だ!!」

「はははっ、なんか面白くなってきたなぁ!」

「ぼ、僕はこんなの面白くないよ……」


 でも嫌なやつに勝てた。優越感が僕を酔わせて、次の種目をやる気にさせた。

 次は両手剣振り下ろしというやつだそうだ。


 巨大な両手剣を、ただ持ち上げて、計測器に振り下ろして、破壊力の数値を競うだけのものだった。


「おらぁっ、どうだリョースッ!」

「ああクソ、負けたか。まあお前その体格だしなぁ……」


 リョースくんがまたトップスコアを奪ったけど、あの嫌なやつがそれを上書きしてしまった。


「お前じゃねぇ、ケニーだ!」

「お前の名前なんてどうでもいいわ。エドガー、ぶち抜いてやれ!」

「ぼ、僕には無理だよ……っ」


「ギャハハッ、そんなチビに無理言うんじゃねーぞ、アホ! ……って、やっぱりなぁ、持ち上がらねーんだろ!?」


 やってみようとしたんだけど、僕の小さな体格では大剣なんてそもそも無理だった。

 

「エドガーッ、お前なら出来る! あのバカに目に物見せてやれって!」

「だから無理だってばリョースくん! ふ、ふぬっ……うぅぅぅぅーっっ!!」


 力を入れ過ぎてめまいが起きてしまった。

 やっぱりこんなの無理だ……。目の前がグニャグニャに歪んで、前が見えない……。



 ・



・●


 めまいでエドガーの頭が真っ白になった隙に、つまらん意地の張り合いに介入した。


 エドガーはまだこの肉体の力を制御できていないだけだ。そこで俺は彼の代わりに、片手で大剣を持ち上げてみせて、やつらが目を疑っている間に振り下ろした。


 計測器はヤツの倍のスコアを吐いたようだ。

 周囲の誰もが口を半開きにして、そこに表示された数字を疑っていた。

 今さら後の祭りだが、ダブルスコアはさすがにやり過ぎだっただろうか?


「機械の故障かもな。さっきのケーニの力が強過ぎたのだろう」

「ケーニじゃねーよっ、ケニーだってっ!」


 もう一度試験を受け直すと、うっかりトリプルスコアを出してしまったので、機械はメンテナンスに入ったようだ。



 ・



 次のテストに参加したかったが、エドガーが起きてしまった。

 その後もテストを進めてゆくと、敏捷性を問うようなテストでは数字で劣ることになったが、それ以外ではなかなかぶっ飛んでて愉快な数字が出た。


 最後はスタミナのテストだ。トラックを50周回れと言われた。

 一斉に走り始めると、またあのケーニが突っかかってきた。俺とリョースの隣にやってきて、張り合おうとしたのだ。


 だがそれは間違いだ。エドガーはこういったじっくりとした運動が得意だった。


「悪い、さすがに付き合い切れねーわ。俺は下がるぜ」

「ひ、一人、脱落だな、だ、だらしねぇ……はぁぁっはぁぁっ……」


 いくら走っても平然としているエドガーに、リョースの方はペースを落として先に行かせた。

 ケーニがいくら張り合っても、エドガーはほとんど呼吸を乱さない。それを虚栄だと勘違いしたのが運の尽きだ。


「うっ、うぐっ……げはぁぁっ……?! ば……ば、けも、の……」


 最後は負けを認めて、ケーニはトラックにぶっ倒れて酸欠に悶え苦しんだ。

 そこから先はエドガーの独り舞台だ。絶対にあり得ない、公式テストの半分のタイムを叩き出して、今日の体力テストが終わった。


「なんかお前さー。まるで人間じゃないみたいだよな」

「そんな言い方酷いよ、リョースくん……」


「だってよー。お前ってどっちかというと……まあいいや。実習、一緒に組めるといいな」

「そうだね。リョースくんと一緒なら、迷宮も怖くないよ」


「それだけのぶっ壊れ性能の身体に生まれておいて、よくも言うぜ……」


 こうしてエドガーとリョースは、最初の逆風をはねのけて英雄科期待の新人となった。

 まあその後、往生際の悪いやつもいたらしいがな。


「ドーピングですか?」

「はい、間違いありません! だってあんな数字が常人に出せるわけがないでしょう! 魔法か薬を使っているに決まっていますよ、学長!」


「フフ……ですが彼らは平民ですよ? 魔法が使えないのに、魔法を使ったと貴方は言うのですか?」

「だったら薬だ! 薬を使ったに決まってます!」


「薬でトリプルスコアや、これほどの異常な持久力は出ないでしょう。主張はもっともですが、証拠や論理性に欠けますな」

「で、ですが……あり得ませんよ、こんなの……」


 うちの担任だ。俺たちの肉体はイカサマだと学長に告げ口したらしい。

 彼は元々魔法科の教師だったが、より実力のある教師に追い落とされ、英雄科の担任に格下げされた。


 この話と一緒にそう学長が教えてくれたから、それは確かな情報だ。

 その後もヤツは担任にあるまじき挙動で、陰鬱とイライラを俺とリョースにぶつけてきた。


「なんだあの野猿どもは……。同じ人間とは、とても思えない……。平民がこれ以上、大きな顔をする前に、どうにかしなくては……」


 エドガーからまとまった時間を奪い取れれば、この公私混同という言葉を知らない担任をシメることも出来るのだが、困ったものだ。

 都合の良いタイミングで、エドガーを眠らせる方法はないものだろうか……。


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