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Ep 1/7 闇討ちとクッキー - チェスト! -

前章のあらすじ


 王都に到着した。リョースとソフィーと別れて、エドガーはまず宿探しを始める。

 ところが王立学問所近くの学生街が全て埋まっていたため、彼は酒場宿の丸白鶏亭を拠点にすることにした。

 宿屋の娘ティアと、その母親のクルスと出会った。


 それから翌日、エドガーはクリフの用意した書類を手に王立学問所を訪ねた。

 学長はクリフの旧友であり、彼の死を嘆く。


 ところが彼はエドガーにとある試験を課した。

 ツァルトという名の貴族と試合を行い、彼の手足を地に付かせてみせろと言う。


 エドガーはこの陰険な貴族にいたぶられることになったが、意識を失ったことでアルクトゥルスと入れ替わり、高位の地震魔法アースクエイクをもって転倒させた。

 面目丸潰れのツァルトは家宝の宝剣を抜き、エドガーを斬り伏せようとしたが、案の定、剣の方がへし折れた。


 裏口ではない表側からの入学が決まって、エドガーが宿に戻る。

 ティアの父親ベルートは親ばかで、妻同様に地獄耳だった。

 やさしい父と母に甘えるティアの姿が、父を失ったエドガーにはあまりにまぶしかった。


 それから10日後、王立学問所にて入学式が行われた。

 エドガーとリョースは再会を喜び、そして二人は壇上にソフィーの姿を見つける。


 ベルン侯、息女ソフィーティアは、エドガーとリョースとの出会いがきっかけだったのか、無自覚にも貴族と平民の融和を主張するような宣誓を行い、学内に波乱を巻き起こすのだった。




 ・



―――――――――――――――

 二章 迷宮と英雄の忘れ形見

―――――――――――――――


Ep 1/7 闇討ちとクッキー - チェスト! -


・●


 登校初日に実技はなかった。午前中は支給品の配布で、そこには剣や軽装防具だけではなく、王立学問所の学生服も含まれていた。

 午後はつまらない座学だ。英雄科での学生生活を行う上で、基礎的なことを延々と説明された。


 リョースとは同じクラスだった。

 エドガーはそのことに心より安堵して、英雄科の年齢のばらつきに驚いていた。


 優秀な戦士の卵をかき集めて国が成長を支援する。その理念のためか、同じ一年生でも年齢がまちまちだ。

 上は20過ぎ、下はエドガーくらいの14あたりだろう。

 初日を終えて、剣と軽鎧を身につけたエドガーは、夕闇に染まる裏通りを足早に歩いていた。


「ぅぅ……。これは道を間違えたかも……」


 その通りには人気がなく、廃墟同然の集合住宅が西日を遮っているせいで、時刻のわりにだいぶ薄暗かった。

 臆病なエドガーはしきりに周囲を見回しながら、そのしろぴよ亭への近道を進んでゆく。


 しかしその進路の暗がりには、長い髪の男が鬼々しい凶貌を浮かべて、潜むようにこちらを待ち伏せしていた。


「ぁ……っ」


 名門貴族にして噛ませ犬のツァルトだった。

 ヤツは暗い怒りのこもった目でエドガーを睨み、腰にかけた剣の鞘に手を当てた。

 エドガーは己に向けられたこの激しい敵意に、情けなくも震え上がった。


「待っていたよ……。よくも、よくも家宝の剣を壊してくれたな……。おかげで私の顔は丸潰れだ……お前のせいで、親兄弟、親族、使用人、飼い犬、鳥の糞、全ての者が私を蔑んだ! お前は剣もまともに使えないヘボ野郎だとなっ!」

「え、ええっ、そんなこと言われても、僕わかんないですよ……。だって、あの後、意識がなくて……」


 コイツは下位のマジックアローと、その発展系のマジックブラストしか撃ってこなかった上に、実際に剣の腕前もヘボそのものだった。

 こんな力量で学園最強を騙るなど聞いてあきれる。


「見ろっ! これは値段こそあの宝剣に劣るが、まあぶっちゃけスペックはこちらの方がずっといい。何せ今年最新モデルの魔法剣だからなあっ! これがなんと! お値段据え置きでっ、200万イェンのご奉仕価格だったよキミィッ!!」

「そ、それって、剣一本にしたって、いくらなんでも高くないですか……? ひっ……!?」


 鞘から剣が抜かれると、魔力を得てか刃が蒼く燐光した。

 抜き身を持った上級生が、ゆらりゆらりとエドガーに近付いてくる。憎悪を含む暗い瞳と共にだ。


「これに、ちょちょいのちょいと、切れ味ブゥーストの強化を施せば――チェィィッストゥゥゥゥーッッ!!」

「う、うわああああっっ?!」


 もはや最低の悪党でしかない噛ませ犬が、エドガーに向かって飛び込み、かけ声だけはご立派に剣を振り下ろした。

 そして案の定、虚しくも予定調和により、200万イェンがポキンとへし折れた。


「あ、あれ……ぁ……」

「しょ……しょんなぁバカなああああああーっっ?!! わ、わわわ、私の200万イェンがあああああーっっ?!!」


 家宝を折ったというのに学習しないアホだ。

 200万イェンが鉄クズとなり、ツァルトは折れた剣をガン見して突然の己の不幸を呪った。


「えっと、なんと言ったらいいのか……」

「最高級の魔法剣に、切れ味エンチャントをかけたのだ……折れるはずがなぁいっ! なのになんで、なんでコイツは無傷なんだ?! お、おおっ、おのれ、この怪物……よくもこの私の200万イェンをっっ!」


 切り札をいきなり失って戦意を喪失している。

 あまりにアホな姿だったが、これは一応、ヤツがエドガーを闇討ちにしようとした現場でもあった。


「ぇぇ……。いきなり襲って来ておいて、そんな恨み言を言われても……」

「これ高かったんだぞぉっ!? 弁償しろ弁償っ、うわあああんっっ!」


「ご、ごめんなさい、ツァルトさん……。って、なんで僕が謝らなきゃいけないんですかーっ!」

「私の剣を壊したのが君だからだっ! ああもうっ、なんでおとなしく斬られてくれなかったんだよぅーっ!」


「いやムチャクチャ言わないで下さいよっ!?」


 発言があまりに幼稚すぎて、エドガーのための噛ませ犬にすらなっていない。

 ところがそこに、トコトコとのんきに歩いてくる者の姿があった。


もしよろしければ、評価&ブクマを入れて下さると嬉しいです。

これからもゆっくりと続けてまいります。

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